愛と感動のひと騒動 其の1
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なんて事はない二人の男女がいた。
その二人は偶然出会い、そして偶然同時に恋に落ちた。
だが、残念ながら二人の家柄は二人のそんな恋を許してはくれませんでした。





「ああ・・・・今日は約束のあの日なのに・・・」
彼の名は伊集院 隆(いじゅういん たかし)24歳。
とある財閥のぼっちゃんである彼は先週出逢った一人の女性が忘れられなかった。
出逢った瞬間彼はビビビっっと来たっっ。とのちに語っている。
だが、「のち」の為、本当に来たかは誰にもわからない。

そんな彼、出逢ったばかりでまだ下の名前しか知らないその女性と
一週間後ある木の下で会おうと約束をした。
幸い彼女とは家がそんなに離れていなかったらしく、簡単にその木のある場所は
分かってもらえた。

「お願いだばあやっっ今日だけっっいや一時間だけでもいい見逃してもらえないか?」
黒髪黒目の純和風のその青年はドアの前に立ちふさがる育ての親でもある乳母に手をあわせて頼み込む。
「だめですっ。断固として認められませんっ。」
「そこをなんとかっ」
「だめですっ。ああ・・坊ちゃまどうして都会の女になんか惚れ込んでしまったのですかっ。あなたにはすでに婚約者がいらっしゃるというのに。」
なげかわしいっとハンカチ片手に涙を拭くフリをするいい感じに太ったその女性に青年・・隆は両手を広げ言い募った。


「確かに婚約者はいるけどまだ顔も見たことないのに・・(っつーか僕も都会の男なんだけど一応)」
「お写真はございますけど?」
「あの成人式のか?見たけど化粧けばかった印象しかないな」
「・・・・まあ・・あれはちょっと・・でしたが、ご本人は(きっと)清楚で可憐な方ですよ」
本人を見たこともないくせによく言う物だ。
隆は呆れた顔で乳母を見つめた。
「まあとにかくお外へ・・あの女の元へなんてとてもとてもやれる訳ないでしょう」
「・・・彼女をあの女呼ばわりしないでほしいな。彼女こそ清楚で可憐で・・・まるで・・そう妖精のようだ。
・・儚い空気を身にまとい目を離した瞬間に消えてしまいそうでどうしても目が離せないそんな印象の彼女をあの女よばわりとは・・」
やれやれと首を振る隆に、
「そのまま消えて欲しいものですね」
乳母はきっぱり言い切る。

「・・・ばあや。どうしても僕の言うことが聞けないというのか?」
「ええ。坊ちゃんこそもしコッソリ抜け出したりしたら私が首になることお忘れずに」
「脅すのかい?」
「いいえ。本当の事を言ったまでです。それともそうなってもいいと?ああ・あんな女のせいで坊ちゃまがこんな薄情にうっうっぅっっっ。」
どうしても彼女の事を悪くしたいらしい。
泣き落としにかかる乳母に隆は盛大なため息を一つつくと
「わかったもういい。」
自室へ戻ることにした。
約束の時間まであと3時間。正午までにあの木にたどりつかなければならないのに・・・。ああ・・せめてせめて僕が行けない事だけでも誰か伝えてくれれば。

そしてこの坊ちゃん古典的な手を使った。
すなわち―――――――――――――――




「うーーーん。こんなもんか。あっでもここら辺は直前のほうがいいかなぁ。ばれるとやっかいだし。うん今日はやめとこ」
くせっけの髪を柔らかい風になぶられるままなぶらせその少年はずっとしゃがみ込んでいた体勢をとき、よっこいしょと立ち上がった。
そのまま「んーーーーー」と思い切り背をのばすとまるでブリッジでもしそうなほど背後に頭を逆向ける。

場所はとあるお金持ちのお宅の庭。
明日ここのお宅へおじゃまする用事のある快斗は、今のうちから電気系統に手を回していた。
ハイテクを目指しているらしく、犬を飼わずひたすら赤外線やら温度感知やら、指紋声紋カードキー。そんな家だった。
「俺ならそんな家住みたくねーなー。」
なにか機械に囲まれているようで冷たそうな雰囲気で嫌だ。
「ま、そのおかげで明日は楽できそーだし、いっかー」
警察に連絡は入れている物の、警備員はあまり入れないらしい。
家の機械達に絶対の自信をもっているのだろう。
怪盗KIDとしては、予測つかない人間の行動より、機械のほうが先が面白いようによめるのでありがたかった。
「あんまり期待してない石だから余計手間とりたくないんだよな。」
苦労して取ってはずれるとどうもむかつくものだ。

庭とはいっても人工芝で、あんまり自然な物が置いていないここは、実をいうとそう簡単に忍び込める場所ではない。
草が人間の体温を感知してそれをある部屋に置いてあるパソコンへと伝えるらしい。だから泥棒にはいろうとしたら即座にそこにいる人物が主に忠告なり警察をよぶなり、ボディーガードを仕掛けるなりして速攻なにかしら行動が出来る。
快斗はというとここに入る前に先にその仕掛けに細工をして置いたため、
こうしてのんびり行動がとれた。
「そーろそろ行くかなー」
今日は平日。
快斗はこれのために学校を休んでいた。
明日行けば白馬あたりが疑わしげな目をひっさげ今日の行動を根ほり葉ほり聞いてくるのだろう。あーやだやだ。

腰に手をあて優雅に肩をほぐしているとなにやら視界の隅に白いものが映った。
なんだ?

目をそちらに向けるとそれはここからかなり離れたある大きな家の二階の窓から飛んでいるものだった。
それは一個や二個ではない。
「紙飛行機?」
それに気付いた家のものが慌てて紙を拾いに回っていた。
いたずら好きの坊ちゃんのいる家・・じゃなかったよな確かあの家。
一応事前にここらへんの住人の事も調べているためある程度は頭にインプットされている。
ふ・・と快斗は一つだけ未だ見つからず回収されていない紙飛行機を見つけた。
木の上にあり、とても普通の人ならとりにいけない場所にある。
「もしかして風船につけてとばす手紙みたいな奴かなぁ?助けてーとか書いてあったりしてー」
笑いながらちょっと興味のでた快斗はその庭を後にして、結構距離の離れたそのお宅へと走り出した。
距離にして1Kmちょい。よくこんな先が見えたものだと感心するほど遠い場所にも関わらず快斗はしっかりあの小さな紙飛行機まで見えていたらしく、ひょいっと
木の上に飛び乗った。
もちろん周りの確認は怠っていない。
見られたら間違いなく軽業師にしか見えないこの動作は前先生の前でやってやばいことになりかけた(世界を目指さないかっっっと真剣な目で諭されたのだ)
あれはしつこかった。あんな経験は二度とごめんだと快斗は思う。

「さーって何がでるかなぁ♪」
楽しげに紙飛行機を開いた快斗。
彼は本当におばかさんである。


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縁真帳に連載していた小説です。
単純話なので何も考えたく無いときに読むといいでしょう。