愛と感動のひと騒動 其の2
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「なんだこれ?」
おりしも快斗が紙飛行機を開いて固まっている丁度その時、同じ風に固まっている少年が一人いた。
平日なのに何故こんなところに小学生風の少年がいるのか?
それは海よりも深くヒマラヤよりもたかぁぁぁい事情があるのだ。
涙なしには語れない。


彼、工藤新一はほんのつい先日とある事件にかかわり小さくなってしまった。
そしてその日に預けられた毛利家では慌ただしく小学校への手続きなどをしてくれているが、なにせ小五郎は役立たない上に蘭はこんな事初めて。
そう言うことで非常に手間取っていた。
しかも住民票とかない。
両親欄に誰の名前をかくのか?
世帯主との関係を書けってどんな関係よ?
そんなこんなでいろいろと手間取っていた。

まあそこらへんは何とかするのだろうきっと。
なんだか知らないが阿笠博士が新一の両親に連絡していろいろやっていたみたいなので新一―――――コナンはそこらへんの事を心配していなかった。
今一番重要なのは小学校へ通うこと。
通う必要ってあるのか?
そんな所行ってる間におっちゃんの所にあの組織関連の仕事がはいっちまったらどうすんだよ?
だいたいあんなバカらしい授業まともな神経で受けてられっかよ。
さまざまな文句がある。
だが蘭の手前そんな事が言える筈もない。

「あーーーちくしょっっ」
そんな苛立ちをどうにかすべく腹立たしいほどに天気のいい外へと朝から飛び出したのだ。
散歩すれば少しは気分が晴れるかも知れない。
だがあまりに青い空には文句を付けたくなるし朝っぱらからムカツクほどサンサン輝く太陽には顔が歪む。
もうこれはどうしようもないだろう。

「大体なんでオレがこんな目に。」
自分が首を突っ込んだくせに世の中間違ってるぜと文句をつける。
まあ愚痴でも言ってなければやってられない気持ちは痛いほど分かる。
そんな彼は小さな体に工藤家に眠っていた昔来ていた服を装着し、絶妙に可愛らしい顔をむっつりさせながら石を蹴りすすむ。
そんな彼の視界になにかが右から左へと通りすぎるのが入った。
それは風のごとく素早く、そし左をみた時にはすでに遙か彼方へと去っていた。
「人?オリンピック選手か?」
確かにそれも頷けるほどのスピードだった。
だが何故にこんな所にそんな人物がいるのだ?
「この家に何か用があったのか・・・・・」
それが飛び出てきた家へ振り返り目を見張る。
「うっわ・・ベタな家。博士の家も変だけどこれはまた・・なんっつーか。
メカハウス?いやもっとこう―――――アルミ箔とか鉄板とかで作られたみてーな家だなー。」
コナンの感想は兎に角寒そうな家・だった。
夏は暑くて冬は寒い。
だって鉄板っぽいし。
そんな家をじっくり観察していたコナンはその家の二階の窓から一人の女性が一心に手を組み合わせて祈っているのを見つけた。
よく見ると22.3の妙齢の女性。
ここの家の住人なのは確かだな。
へーこんな家にしてはまともそうな人が住んでるじゃねーか。
かなり失礼な感想とともにまじまじ見つめていたコナンはうっかりその女性と目が会ってしまった。

その瞬間その女性は目をパッと輝かせ手招きをした。
こいってか?
数瞬迷ったすえ、あまりに熱心な勧誘にコナンは仕方なくその家へと足を向けた。
門をあけ、中に入り込む。
玄関から入るべきなのかな?
とりあえずその女性に話しを聞こうと二階の窓の下へと足を向けた。
そこは人工芝の上。
踏みつけた瞬間なにやら違和感を感じコナンはその正体をすぐに暴いた。
「へー人工芝なんだ。これってもしかして」
近くに備え付けられていた電気系統を調べあちゃっと思う。
そして上を見たらやはりその女性が「ああっっどうしましょう」と行った顔でこちらを見ていた。
「俺このままじゃ泥棒扱いってか?」
工藤新一ならそうかもしれないが、今の姿ならもしかするとただのガキのいたずらですまされるかもしれない。
そう考えてしまえる自分がちょっぴり悲しかった。

「ぼうずっどこからはいってきたっっ」
やはり連絡がいったのだろう家主っぽい人が玄関から飛び出てきた。
「門からだよー。ねーおじさんここの家のひと?」
悪びれた様子をみせないコナンにその中年男性はインテリ風の眼鏡を押し上げに眉を寄せた。
「門から?門には鍵が・・・・かけ忘れたのかな?」
よくあることなのか一人納得するとすぐにコナンに向き直る。
「とにかく門が開いていたからといって勝手に人の家に入ってはいけないだろ?」
まったくの正論のためコナンも大人しく頷く。
「それじゃあほら。そこからどいて」
正直なコナンの様子に男は微笑むと芝からコナンをどけるべく追い立てる。
「あっちょっと待って下さい。ここの電気ちょっと配線いじられてると思うんです。一応調べておいた方がいいんじゃないかと思うのですが?」
これは新一の口調だ。
どう考えても小学生とは思えない発言にその人は苦笑を返すと、
「何を言っているんだ。ここの家の管理はすべて機械がしているのだよ。間違いなんて絶対にない。その機械達が回線の異常を警告していない以上はぜっっっったいに安心だ。」
どこからくるのか自信満々の彼にコナンは唇をかむともう一度配線がしまわれている壁のふたをばかりと開き見せた。

「ここと。ここ。おかしくありませんか?」
「だから―――――――――――――――」
まったく困った子だっと思いつつ首を振ったその男はふたを奪い締めようとした瞬間固まった。
小さな少年の言った通りだったからだ。
「何故だっ。」
「機械が絶対なんて言い切れませんよ。人間の狡猾さは機械の上を行きますからね。とりあえず多分この二つだけだと思いますが念のため他の箇所もチェックする事をおすすめします」
それだけ言うとコナンは用はすんだとばかりに芝から出た。
そしてすっかり女性の事を忘れその家を後にしようとした時、背後から捕まれた。
「待ってくれっっっっ。是非っっ是非お茶でもっっお礼にケーキとお茶でもっっ」
あまりに乱暴な誘いに思わず結構ですと言いかけたがようやく先ほどの女性を思いだし、丁度いいかと言うことで誘いに乗ることにした。
どう考えても江戸川コナンという男は無防備なのではないかと思われる。


「いやーすまなかったねさっきは。はい、紅茶。レモンティーでよかったかな?」
「あ・・はい・・・。」
「そんなに緊張する事ないよ。あっケーキとクッキーどっちがいいかな?」
「いえ甘い物は・・」
あまりの至れり尽くせりぶりにコナンはちょっぴり引く。
なにか裏がありそうで怖い。
「あの・・僕これ飲んだら帰りますから」
「待ってくれっっ。せめてせめて夕方まで。」
大の男にすがりつかれコナンは慌ててソファの背に捕まりよじ登った。
(こ・・怖いっっっ)
なにせ今のコナンの装備はタダの服だけ。
のちに手にいれるキック力増強シューズも麻酔銃もまだ手に入れていない。
どんなに頭が回っても力では敵わないのだ。
いやそんな問題よりとにかくこの男の真意が読めないのが一番怖い。

「ああ。すまない興奮してしまって。その・・な。私は今から用事があってどおっっっしても留守にしなければならないのだ。だから娘の話相手になってくれないかと」
「娘さん小さいんですか?」
「いや・・今年で23だ。」
「・・・・」
話相手・・ねぇ。
うさんくさ。


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