愛と感動のひと騒動 其の3
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「あれは・・・そう。丁度一週間前の事でした」
聞いてもいないのにその女性の唇はなめらかに言葉を紡ぎだした。
コナンはというとあの親父に部屋に放りこまれ、外から鍵というなんとも大胆な監禁をされてしまい、うんざりしていた。
何のために俺は散歩に出たんだ?
全くもって疑問である。
しかも更に更に目の前の女性のくだらないお話に時間はつぎ込まれるのだ、コナンでなくとも「やってらんねー」と思うだろう。
事件は好きだ。
だがそれはもちろん殺人事件とか大きな物のことだ、こんな家庭のいざこざに巻き込まれて誰が嬉しい?
「初めて電車に乗った日の事です」
へーそう。適当に相づちを打ってからハタと我に返る。
まて、、さっき一週間前とか言ったよな?一週間前に初めて電車に乗った?
「お恥ずかしながら私電車やらバスやらに一度も乗った事がなくて」
なんちゅー箱入り娘だ。
どうやらこの女性父と些細なことで喧嘩をし、家を飛び出したらしい。
しかも大したお金も持たずに。
そしてとある場所へ行こうと電車に乗ったのだが、初めてでそれはまあ苦労したらしい。
「些細な喧嘩」と「とある場所」は会えて言っていないだけだ。
だってマジくだらなくてな・・・。
儚い瞳を窓の外へ向け、こんな事件に巻き込んだ神様を恨む。
「実はその日一月に一度の楽しみのとあるケーキ屋さんのケーキが届く日だったのです。」
「へー」
金持ちなんだから好きな時に好きなだけ食えばいいじゃん。
そんなコナンの気持ちが分かったのか、その女性―――――笹貫綾子さんはクルリとどこやらに目を向け言った。
「今なんで一月に一度だけ?と思いましたねそこのあなたっ。それは大いなる間違いです。食べたい時に食べてしまっては価値がなくなると言う物。なかなか食べれないからこそ楽しみなのです。・・・とまあこれは父の持論ですけれどね」
ふっとアンニョイな視線を空に浮かべるとようやく現実に戻ったのかコナンに目を向けた。
「・・お・・・お姉さん誰に向かって喋ってたの?」
「いえ、そこで見てらっしゃる心優しき世の女性達に」
きっと気になって夜も眠れないでしょうから。ふふ・・。
そう笑う綾子にコナンは引きつった笑みを見せた。
「そこで見てる?だれのことだよおい。」
どうやら綾子さんとやらは空想癖のある人物であるらしい・・そう結論づけると話をサクサクッと進めるべくコナンはなんとか持ち直した。
「そのケーキがどうしたの?」
「ええ・・・実はなんと・・なんと言うことでしょうか。私の分のケーキまで父が食べてしまったのですっっ。なんて酷い事。悪魔ですあの人は。」
本気で言っているらしい。
「えっと・・それは残念だったね」
「残念?そんな事ですまされる問題ではありません。あれは立派な窃盗です。私があの30日間どれだけ楽しみに待っていたかっっっ父・・・あの人だけは結して許すわけには―――――」
食べ物の恨みは恐ろしいとよく言うが・・・確かにここまで恨まれるのは恐ろしい。
背中までのストレートの黒髪をダランと前に垂らし、まるで貞子だ(分かる?)
一本口にくわえ「恨めしい・・・」
と呟かれコナンはさすがに5.6歩後ずさった。
「そ・・それで?お父さんと喧嘩したの?」
「ええ。あの人まったく悪びれないものだからついカッとして」
そのまま殴り殺してくれればコナンの楽しい殺人事件になったかもしれない。
だがたかがケーキで殺人というのもあほくさい理由だ。
いや・・しかしいざとなったらこの女やるかもしれない。
「それでサイフだけ持って家出?」
「いいえ。そこまで考えませんでした。とりあえずケーキを買いに行ったんです。大量に買い込んで父の前で見せびらかして食べようかしら・・と思って」
実にいい性格だ。
「そしたら迷子になった・・と?」
「ええ。電車に乗るまでも大変だったのだけど親切な方々の手助けのおかけでなんとか夕方にはその駅にたどりつきました。」
「・・家を出発したのは?」
「2時すぎだったかしら。約・・・3時間くらいかかりましたから」
「・・そう」
どんなに時間をかけても20分でつくのに3時間ね・・。凄いよあんた。
「それで、駅に着いたのはいいのだけれどなかなか地上への道が見つからなくてウロウロっとしていたらあの人が声を掛けてくれたのです」
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