愛と感動のひと騒動 其の4

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「彼女はそれはもう可憐でねって聞いているかい?」
「はいはい」
開いた紙飛行機にびっちりかかれたSOSの文字。
それを見てうんざりした快斗はその家から即座に離れようとしたその時木の上のその場所から二階にいたお坊ちゃんとやらと目が会った。

いや正確には物を投げつけられ思わずそちらを向いてしまった・・のだ。
しかも投げたものというのが信じがたいことに鉛筆だった。

どこらへんが信じがたいかって?
今時鉛筆使ってる奴が居ること。
しかもその鉛筆の先がピンピンにとんがっていたというのにその先を快斗に向けて投げてきたのだ、人間として間違っていないだろうか?
手招きをするその男―――――なんかたいそうな名前だったな。
そいつに嫌そうな顔を向けつつ紙飛行機を手渡した快斗はそのまま手をひっぱられ部屋へ引きずり込まれた。

いやん私に何をする気っ。なんてボケている場合ではない。
「お前っ」
「シーーーーー」
なにすんだっと怒鳴りかけた快斗にとがめるような視線を送り人差し指を唇の前に立てた。
「ばあやが来てしまうだろう。ちょっと静かにしてくれないか?」


・・・・じゃあ手ぇ離せよテメー。
そしたら即刻ここからでてってやるからよーほーら静かになるぜー。
「すまないが少し僕の話を聞いてもらえないだろうか」
「・・・」
「実は」

答えてもいないのに勝手に話し出したこの男に快斗はちょっと待てっっと手のひらで頭をはたいた。
「たっっ叩いたっお父様にも叩かれたことないのに」
「どこの貴族だどこのっっ」
「いやそれは嘘だけど何で叩くの?ちょっと痛かったよ」
まあ手首のスナップは利かせていないから大した威力は無いはずだ。
目の前の男は特に怒るでもなく、不思議そうに理由を聞いてくる。
「俺はめんどー事に関わる気はひとっっっっっかけらもないっ」
「めんどー事?違う違うちょっと手伝って欲しいだけだよ」
「それがめんどー事なんだっ」
「え?そうなの?でももう僕君しか頼れる人がいなくて」
ほんのついさっき出逢ったばかりの自分に何故頼るんだこいつは。快斗は額を押さえる。
大体考えてみれば紙飛行機でSOSなんてバカげたことを現実にやる男なのだこいつは。
そんな変な奴の近くにのこのこやって来た自分がバカだったんだようん。


未だ捕まれたままの右腕をブンブン振り回しふりほどこうとするが思ったより強い威力なのかなかなか外れない。
こいつ怪盗の腕力なめんなよっっ。
だが、本気でやったのに外れなかった。
こいつ何者だっ。

「あのね。手伝って欲しいのはね―――――」
手を放せないのを良いことに快斗に無理矢理聞かせようという魂胆なのだろうこの坊ちゃんは勝手に話しだした。
「ある女性に僕はどうしても会いに行けないこの状況を伝えて欲しいんだ」

「・・・」

「その人はねとっっても可憐で清楚で・・そう妖精のように儚い印象の優しい女性だよ。一週間前に電車のホームで会ったんだ。」

とうとうなれそめ話まで始めた。
頼むーーこの腕だれかふりほどいてぇぇぇぇ。

「彼女初めて電車に乗ったんだって。それでホームの所で迷っていたらしくてね。僕が売店で買い物をしていたら彼女が何度も後を通り過ぎるからもしかして迷子かな?と思って声をかけたんだ」
「・・・」

「彼女はそれはもう可憐でねって聞いてる?黒羽君」
「はいはい・」
早く帰りたい。

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