愛と感動のひと騒動 其の6

小高い山の頂上付近。
そこに大きな木が立っている。
「このー木なんの木気になる木ーー」
まさしくそう歌いたいような木が一本。
頑張って隆の惚気話をうち切り逃げ出してきた快斗は思った以上の人の多さにうんざりしていた。
隆の話を相好すると、妖精のように儚げな美人さんらしい。
色は白くてー声は柔らかくーそんで背は快斗よりちょっと低いくらい。
後は髪は黒くて目も黒い。
そんなんでこの人数の中から見つけだせるのか?
やってられん。
そう思っても無理はない。

「うっがーーーこのまま家に帰りてーーー。」
なんで平日のまっ昼間っからこんなにカップルが大量発生しているのだ?
待ち合わせに使うのはまだいい、だがそのままその木の近所でいちゃいちゃするのは止めて欲しい。
快斗はあまりの居心地の悪さにとうとう大きな木の上に避難することにした。
どうせ向こうは自分の顔を知らないのだし、自分が探し出すしかないのだ。
とりあえず最後に残った女がきっとそうだろう。
そんな単純に思ってた。

そして約束の時間12時をとうに30分まわったころ。
快斗はしびれをきらした。
余り物の女性は一人もいなかったからだ。
約束破りか?
あいつ騙されたんじゃねーのー。
あーあ。無駄骨じゃねーか。と木の上であぐらを掻いていたら、あぶれ組と目があった。
この数いる男女の中で唯一の子供。
大きな眼鏡をはめた小学生くらいの少年だった。

珍しさからその少年が現れた頃からちょくちょく観察はしていたが、どうもこの子も待ち合わせしているらしい。
おーいくそガキー学校はどうしたー。
きっと親でも待っているのだろうと思った快斗は30分以上待ちぼうけしているその少年に木の上から問いかけた。
「相手の奴こねーの?」
それに対する少年コナンの返事は嫌そうなものだった。
「まあな」
とても子供がする態度とは思えない。
「かっわいくねー」
「悪かったな」
同じ歳のような男に可愛いと言われたくはない。
木の上のせいか葉の間からこぼれてくる太陽の光が逆行となって男の顔を隠していた。
まぶしさの余り目を細め見上げると、その男はひょいと肩をすくめ陽気に笑った。
「俺も相手の奴こねーの。やんなっちまうよなー。約束の時間は守れっての。っつーかまあ俺は代理だどよー」

その言葉にコナンはクッと片方の眉を器用に持ち上げた。
「代理?」
最初から年齢的にアウトとしていたこの目の前の男。代理というなら話は別だ。仏さん顔の男の知り合いだったら万々歳。
さっさと伝えてさっさと帰りたい。
「もしかして隆とか言う男のか?」
その言葉に快斗の方が目を見開く。ようやくまともに話をしようと思ったのか木の上から「よっ」と身軽に飛び降りるとコナンの前へとたった。
帽子を目深にかぶっている為顔はよくわからなかった。
「あれー?なんで知ってるの?」
「俺も代理だからだ。」
「ああ。妖精のような彼女の?」
「妖精?」
妖精というより妖怪だと思うが。
「これを隆さんに渡してくれって頼まれた。」
「俺もこれを綾子さんに渡せってさ。」
ふむ。と二人頷くと。手紙を交換しあいすぐに背を向け会う。
これ以上変なのと関わりになりたくない、というのが二人の正直な気持ちだろう。

「そうだ隆さんって人は仏みたいな顔してんのか?」
「・・・・仏・・ねぇ。死にそうな顔はしてねーけど?」
同じ思考の持ち主なのかコナンはなるほどと納得した。
「あーでも別の仏なら分かるな。額の真ん中当たりにほくろあんだよあいつ。仏だろ?でも放つオーラは仏どころか悪魔だけどな」
仏の顔して悪魔のオーラ。
妖精のような儚げな出で立ちに妖怪のような性格。

とてもお似合いのカップルだ。
不覚にもコナンは感心してしまった。
こんな二人が巡り会った奇跡に神様お前暇だろ?と突っ込みたい気がしてしょうがない。

「じゃあ。」
「ああ。もう会わないといいな」
「本当に」
快斗の言葉にしみじみと返すとコナンは足早にその丘から走り去った。
「会わないといーんだけどなー。なーーーーんかまだ一波乱ありそうで嫌ああーな感じなんだよな」
その背中を見つめつつ、うんざりと空を仰いだ。

次へ