近くにいるのに、こんなに遠い…。
君は誰を見ているの?
「大輔くん、一緒に帰ろ」
タケルは大輔の腕を掴み微笑んだ。
「あぁ…」
大輔はぶっきらぼうに答えた。
タケルはそれでも、一緒に帰れることが嬉しかった。
「タケル…腕はなせ」
「え〜、いいじゃない」
タケルは嬉しくてずっと、腕を組んだままだった。
「あのなぁ〜そんなに掴まなくても逃げないから…」
それでも、なかなか腕を離そうとしない。
「だって、一緒に帰れるなんて、滅多にないじゃない? 僕は嬉しいんだよ。」
と、大輔に向かってニッコリと笑う。
しかし、ココは通学路、誰が見てるかなんてわからない。
「そうだ、大輔くん、今日、ウチに寄ってかない?」
「…なんで?」
「昨日ね、お母さんがケーキ買ってきてくれたんだけど、一人じゃ
食べきれないいんだ…だから…ね」
と、大輔の顔を覗き込む。
ケーキ…その言葉に大輔のお腹が小さく鳴く。
「わ、分かったよ、行ってやるよ。 ただし、ケーキ食う為だからな!」
決して、タケルの為ではないと主張する。
「うん」
「だから…腕はなせ」
「やだ!」
と、またもや笑顔で交わされる。
いい加減話せと、大輔は手に持っていたスポーツバッグを、タケルに投げつける。
タケルは簡単にそのバッグを避ける。
ボスッ!
と、鈍い音がした。
その音の方に顔を向けると、バッグを手に取り、大輔たちを引きつった笑みで睨んでいる人物が…。
「だ、だいすけぇ〜!!先輩の俺にバッグを投げつけるたぁ〜いい度胸してるなぁ」
「た、太一先輩!!!」
大輔は、タケルの腕を無理やり引っぺがし太一に近寄る。
「す、すいません! タケルのヤツが…」
と、言い訳をしようとしたが、それよりも早く太一の手がのびる。
大輔の首に腕が回され、頭をガシガシと撫で回される。
「い、痛いっすよ、太一先輩!」
「そりゃそうだろう? 思いっきり可愛がってやってんだからな!」
と、痛がる大輔に対して、思いっきり大笑いしている。
ようやく、手が離される。
「大輔、近くに居たのが俺でよかったな。知らない人に当りでもしたらどうするんだ?もっと、周りを見ろよ。」
と、先程投げつけられたバッグを大輔に投げ返す。
「す、すいませんでした」
一方、タケルは、その光景をただ眺めてるしか出来なかった。
「ちぇっ、タケルの所為で叱られたじゃないか…」
大輔は全てタケルが悪いんだと言い張る。
ゴン!
と、大輔の頭上に拳が落ちる。
「ってぇ〜!!」
大輔は頭を抱え込む。
「だから、人の所為にしないで反省しろっての、お前は…。」
と、太一は溜息を落とす。
「それより、珍しいな、お前達が二人で居るなんて」
大輔とタケルは御互い顔を見合した。
確かに、二人でいることは少ない。
いつもは、選ばれし子供達と一緒だから。それでも、最近は二人で居る事も多くなってきているのだが…。
「た、タケルが一緒に帰ろうって言うから…」
と、大輔は顔を真っ赤にして言う。
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