心の行方
<2>
ある日、タケルが一人の女の子に呼び出されるのを見た。
「タケルくんってば、また呼び出されたみたいね〜」
「ヒ、ヒカリちゃん!?」
大輔の背後から突然声がして驚く。
「やぁね〜、大輔くんてばそんなに驚く事無いでしょう?」
ヒカリはクスクスと笑った。
「あ…ごめん」
「ううん…でも、これで何人目かしらね〜」
「え? 何人って、そんなにアイツ告られてんのか?」
「うん…知らなかったの?」
大輔は改めてタケルがもてることを実感する。
「もてる男も大変よね〜」
ヒカリは人事のように言った。
「なぁ、タケルは何処に連れてかれたんだ?」
「さぁ…でも、中庭辺りじゃないかな…」
大輔はヒカリの言葉を聞くと直ぐに走り出した。
「やぁだぁ〜、大輔くんたら…気になるなら、気になるって言えばいいのに」
ヒカリは楽しそうに笑い、大輔の後を追った。
中庭に走り着くと、隅っこの方で座っているタケルが目に入った。
歩み近寄ると、タケルは大輔に微笑みかけた。
「どうしたの? 大輔くん」
「あ…タケルが…その、女の子に連れてかれたのを見たから…」
大輔は顔を赤らめながら、しどろもどろに言う。
「気になるの?」
タケルは立ち上がり、大輔の目の前に立つ。
「そ、そんなことあるわけないだろ」
本当は気になるくせに口から出る言葉は、気持ちと逆のことばかり。
「ふ〜ん…じゃぁ、何で来たのさ」
「…」
大輔は答える事が出来なかった。
何て言ったらいいのか分からなくて。
素直に答える事が出来たらよかったと思うのは、もう少し立ってからだった。
「大輔くんはさ、何で僕とキスするの?」
「え?」
タケルの顔には笑みは無く、真剣な眼差しだった。
「タ、タケルが…する…から…」
「そう、僕の所為なんだ」
タケルは大輔の顔を覗き込む。
怖い…。
タケルの目に吸い込まれそうで。
「大輔くんってさ、僕の事好きなの?」
大輔は核心を突かれ顔を赤らめる。
なのに、口から出る言葉は…。
「す、好きなわけね〜だろ。オレ達男だし…
        お前の事は今も気にいらね−ヤローだし…」
ソコまで言って口を閉ざす。
タケルが俯いてしまったから。
泣かせた?
「た、タケル?」
タケルの肩に触れようとしたその手は、タケルに振り払われる。
「タケル…?」
タケルは顔を上げ、一気に捲くし立てた。
「じゃぁ、どうして期待させるんだよ、
   僕とキスしたくなかったら拒めばいいだろう。
   嫌いなら拒否すればいいんだ!」
今まで見たことも無いタケルの怒りに大輔の体は強張る。
「べ、別に…嫌いってわけじゃない」
「好きじゃないくせに…同情? そんなのして欲しくないね」
「ど、同情なんかじゃ…」
無い…と言おうとしたが、タケルの唇に消される。
いつものキスとは違う…何も感じない。
目の前には怒りに満ちたタケルの目があった。
怖い…逃げ出したい…でも、体が動かない。
大輔は息が苦しくなり目眩を感じ始めた頃やっと、離された。
ゲホゲホ…と、むせこんだ後タケルを見上げると…。
「もう、いいよ。 僕の前から消えてくれる? 一人になりたいんだ。
 君の事好きだと言った事も忘れてくれていいから」
タケルは冷ややかにそう言い放った。
大輔は何か言い返そうとしたが、涙が込み上げてくるのを感じて、その場から
走り出した。
3へ