心の行方
<3>
走っている時に誰かにぶつかったが謝る余裕なんて、今の大輔にはなかった。
タケルは大輔が去った後、誰かが近付いてくるのに気が付いた。
「ヒ…ヒカリちゃん?」
ヒカリはタケルに微笑みかけた。
「タケルくん、大輔君に何したの?」
「別に…」
タケルはヒカリの目を避けるように帽子を深く被りなおした。
「大輔くん…泣いてたわよ」
タケルはヒカリに目を向け、直ぐに反らした。
泣いてた?
「何で…泣きたいのは僕の方だよ…」
「でも…大輔くん、辛そうな顔してたよ、今のタケルくんと同じように」
タケルは、唇を噛み締める。
どうして…辛いのは僕の方なのに…
「タケルくんって、大輔くんの事分かってないよね」
タケルはヒカリを振り返る。
「大輔くんがいつも誰を見てるか知ってる?」
「誰って…」
「大輔くんをいつも見てるタケルくんなら、答えを知ってるんじゃないの?」
ヒカリは笑顔をタケルに見せる。
「あ…ごめん、ヒカリちゃん…」
「謝る相手が違うでしょう? タケルくん」
「そうだね、ありがとう」
そう言うとタケルは大輔が走って行った方へと駆け出した。
タケルの背中をヒカリはクスクス笑いながら見つめていた。
校内を走り回り大輔を探すが見つからない。
もう、帰ってしまったのだろうか?
手遅れになる前に大輔に会いたい。
「あ…パソコンルーム…」
当たり前の様に使っていた教室なのに思い浮かばなかった。
タケルは急いで向かうが、ドアの前で立ちすくむ。
いなかったらどうしよう…
そっと、ドアを開けると窓際の席に大輔が座っていた。
「大輔くん…」
大輔はチラっと振り向くが逆光で表情は見えない。
「ひ…ひとりになりたいんじゃ…なかったのか?」
大輔の声は泣いた為か掠れていた。
その問いに答えず、タケルはドアを閉め、大輔の隣に腰掛けた。
お互い気まずいのか長い沈黙が続く。
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