Step up3

「ちょっとタケル君・・」
「うん・・どうしようか光ちゃん」
倒木があった。
迂回せよとばかりに。
でもタケルはほかの道を知らない。
もちろん他の誰も知るまい。
「これをどけて・・・なんて無理だよね?」
「無理ね。迂回するしかないわ。」
「・・・はあ。右か左かそれともいったんさっきの分かれ道まで戻るか・・三択だね」
「そうね。無難なのは最後に言った元来た道を戻る方法ね。」
でも戻りたくないのだろうと暗に光ちゃんは僕に尋ねていた。
そりゃそうだ。自分が選んだ道が間違いでしたなんて言いたくない。
いくら突発の事態だったとしても。

「じゃあ・・・左右どちらか。今度こそ皆で決めましょ。私たちにも予想が付かないんだから」
反論の言葉は出なかった。

「右か左?俺なら右だなーほらっ右手の法則ってあるだろ?」
大輔君の暢気な言葉。
それは洞窟内の事であって普通の道では通用しないのでは?
あまりにお気楽なことばに僕はめまいを覚えた。
「あたしは左。道からして右の方が険しいと思うし」
さすが京さん。まともな反応だ。
「そうですね・・・どちらとも言えません。一度元来た道を戻ってはどうでしょうか?」
伊織君が第三の選択を口にした。
さっきの分かれ道の事を言っているのだろう。
一番小さいのにちゃんと考えているんだな、と僕は感心した。

「それでもいいね。僕も皆目見当つかないから多数決って思ったんだけどバラバラ・・かー」
「この木越えていけねーのか?」
「さすがにそれは無理でしょう?」
「そうか?」
僕のことばに反抗心を感じたのか大輔君が大きな倒木によじ登りだした。
「ちょっっっ大輔君っっけがするよっ」
意外に身軽に大輔君はするすると手がかりをみつけ昇っていく。
さ・・猿だ。

「猿みたーーい」
丁度同じ時に京さんの声が聞こえ笑ってしまった。
「凄いですねー大輔さん。てっぺんまで上れそうじゃないですか。」
額に手のひらをかざし眩しげに大輔君を見上げる伊織君。
「元気ね。」
クスクスと笑いながら光ちゃんも見上げていた。
なんか大輔君がすごく大きな人に見える。
ただ倒れた木を昇っているだけなのにね。

「おおーーーーい上れたぞーーー」
暢気に木の上から手を振ると大輔君は昇ってこーーい手招きする。
出来るわけがない。
「無理だってーーー誰もがあんたみたいな猿能力持ってると思ったら大間違いよーーーー」
口元に手をあてメガホンにすると大声で面白い事を京さんが叫んだ。

猿能力(笑)
それはいい。

うまいなーと笑いだすと隣りでやっぱり光ちゃんも笑ってた。
「なんかいいね。こういうの」
「え?」
「前の旅はもっと切迫してたじゃない?こんな風に楽しく感じれなかったから。」
今デジモンカイザーとかいう奴が大変な事をやっている。
今こうしている間にもきっと被害にあっているデジモンたちが沢山いる。
だから少しでも早くっ急がなきゃって思ってた。
でもこういう時間も本当は必要なのかもしれない。

「あっっあっちに道が見えるぜっっ」
大輔君が見晴らしのいい場所から右のほうへと指をさした。
「左はーー?」
「うーんなんかどっかの森みたいな所につながってるぜ。やっぱぜってー右だって」
そしてするすると降りてくるとよしっ右だっっっと勝手に進んでしまった。
やれやれ。

そうして約30分後先行隊のパタモン達が戻ってきて道が間違いな事が判明し大輔君は京さんと伊織君に睨まれ大騒ぎしていた。
ホント騒がしい子供だな大輔君って。



そうしてようやく着いた村。
この村を通り抜けた先にデジモンカイザーが支配するという街が一つある。
そこを救おうというのが今日の使命だった。
もちろん街一つ救ったところで焼け石に水なのは解っている。
でもデジモンカイザーが姿を現さない限り、僕たちに出来るのはこんな小さな事だけ。
さっさと元凶を叩くのが一番なんだけどね?
もしデジモンカイザーの正体が分かったら僕は徹底的に闘うよ?
沢山のデジモンの為にもこれからの為にも絶対に許す気はない。
それだけは心に決めている。
っていうか許せる人なんて絶対いないって。こんな事する酷い奴を。


「だから此処を通して貰えないと困るんですっ」
僕は何度言ったか覚えてないことばをもう一度口にした。
交渉は僕がするよと引き受け、パタモンを背後にひかえ、ひたすら説得にあたった。
目の前の黒いフサフサの毛を持ったネコのような形のデジモンは言った
「だめ」
ダメってそんな。
他の道から行けなくもないけど、すべてデジモンカイザーに支配されていて、通るためには罪無いデジモン達を傷つけていかなければいけない。
そんなのは嫌だ。
遠くでデジモンの子供達と楽しそうにサッカーをする大輔君が見えちょっとイラッとしたがそれを押さえ込みもう一度言った。

「だから僕たちは先に進まなきゃいけないって言っているでしょうっ通してくださいっ」
「だから別の道を行くがいいと最初から我らは言っている」
「だーかーーらーーここしか道がないから通して下さいって頼んでいるんですっ」

温厚なタケルすらぶちきれるほど代わり映えしない押し問答
いつまで続くのだろうか。

「なんでダメなんですかっ」
「お前達が選ばれし子供達だからだ」
「そんな・・・」

ここもすでにデジモンカイザーの手に落ちていたのか。
残念ながらイービルリングははめられていなく、ようするにタダ脅されている状態なのだろう。
洗脳されているのならイービルリングを壊して通してもらえるかもしれないのに。
「でも僕たちがここで進めないとほかのデジモン達の被害が―――――」
「関係ないなワシたちには」
それには絶句した。
自分たちが一番大事。
それは、責められない事かもしれない。でも・・それでも・・デジモンカイザーが存在する限りこの先安全なんて言い切れないじゃないか。
「だから通さない。」
「どうしたら通してくれますか」
「通さない。」

らちがあかない。

そのうち今まで対応していたのより2周りほど大きなデジモンがやってきた。
「そんなに言うならここで土下座して、頼んでみるか?気が変わるかもしれんぞ」
ケケケと意地悪い笑いをみせるとそいつは顎で地面を示した。
屈辱だ。ひどい屈辱だ。
でもここで通れなかったら・・・
だがそれをしても通してくれるとはとうてい思えない笑い顔だ。
僕は逡巡した。

「たけるーもうやめよーほかのみち探そうよ」
ねっ?とパタモンが頭に止まり言った。
タケルの悔しさが解ったのかそれが一番いい方法に見えるが、他に道がないのは実証済みなのだ。
ちょっと自分のプライドに目をつむった程度で先へ進めるならばいいじゃないか。
罪のないデジモン達を傷つけるよりかよっぽどマシだ。

パタモンの言葉に弱く首を振ると僕は
「ダメだよ。」
呟いた。


唇をかんでそれでも万に一つの可能性にかけて膝をついてみる。
「たける?!だめっそんなことしたらダメだよっっなんでそんな奴のいうこときくのさっ」
「パタモン。必要な時に頭を下げるのは恥ずかしいことじゃないよ」
「でも・・・」
背後で相変わらず楽しくサッカーボールを蹴る大輔を見てパタモンは眉をよせた。
「なんでタケルだけ・・」
小さく呟いた言葉は無視することにした。

今必要なのは頭を下げる事に反抗する心を押し殺すことだけだ。
ちくしょう。
そして手をつこうとしたとき何かか視界に入ったのだ。

「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目の前の意地悪デジモンが後へ吹っ飛んだ。
そしてテンテンと可愛い音を立て地面に落ちたそれを僕はみた。
ドゴッッと勢い良く飛んできたのは―――――

「サッカーボール?」
うそ・・とつぶやくと遠くから子供達を引き連れ悪びれなく大輔君が走ってきた。
「わっりーわっりーそっちまで飛んじまった。無事か?」
キョトンと首を傾げる大輔君。
目の前で吹っ飛んだデジモンが見えなかったんだろうか?

「無事に見えるかーーーーーー」
復活とばかりに起きあがり大輔君に詰め寄るそいつ。
しかし見事に命中したものだ。
まさか狙ったとか?・・まさかね。
「うわぁぁぁごめんなさーーい。痛そーー型ついちゃったなーホントごめんー」
大輔君の周りで子供達まで一緒になって頭をさげている。
それはちょっと笑みがこぼれる光景だ。
だが今の状況ではさすがに笑えない。

「さっきの話はなしだ。土下座しようが三回回って鳴こうが絶対にとおさんっっっ」

意地悪デジモンは叫んだ。
そう言うと思ったよ。
僕とパタモンは二人で目を見合わせ肩をすくめ合った。

そして目をつむって疲れたため息をつくと大輔君をひっぱって皆の見えないところまで連れていった。
どうしてくれるんだろうねこの落とし前。

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