「あら本宮さん?」
向かい側からやってきた女性に突然声をかけられ本宮大輔の母は大層驚いた。
誰だこの人は?
「え?・・・えーっと・・・・」
どなたですかと聞くのも失礼な気がして、必至に思い出そうとするが出てこない。
ご近所のどなたか?それとも夫の会社関連の人。それともーーうーーーん。
「高石です。高石タケルの母です。」
ハッキリ言って最初からどなたですかと聞かれた方が幾分かマシな状況にタケルの母は苦笑を見せた。
「ああ。タケル君の。いつもうちのバカ息子が御世話になってます」
それにポンっと手を打つと、どこかタケルと似通った所を見つけ、そういえばタケル君のお母さんってこんな顔だったわねぇ。と思い出したんだか覚えなおしたんだか分からない事を考えていた。
「いいえ。こちらこそうちのタケルが御世話になってます。先日もお夕飯ごちそうになってしまったと聞いていつかお礼をと思ってたんです。いつもすみません。」
「あらあら。そんな大した事じゃないですから。ほらうちの場合二人も食べ盛りがいますし、一人ぐらい増えても大した差じゃないですよ。それにタケル君ってばうちのバカ息子とは違って手伝いまでしてくれて。よろしければ家のと変えてもらえません?」
本気だか冗談だか読めない大輔の母の言葉にタケルの母はなんと答えればいいのか迷いとりあえず微笑んだ。
「ああっそうだわ。変えると言えば・・・申し訳ないんですけど来週の土日うちのバカ息子預かって頂けませんか?」
どうして息子のトレード話でその事を思い出したのか知らないが、大輔の母はサラリと述べる。それに対するタケルの母も大したもので、突然の話題変換にも関わらず口元に手をあてあっさり答えた。
「もちろん構いませんよ。どうぞどうぞあんな狭い家でよければ。・・と大輔君だけですか?」
「ええ。この間家族旅行券が偶然当たっちゃいましてそれであの子残して皆で出掛けるんです」
「はあ・・」
楽しげに言うが普通子供一人家族旅行からはじくだろうか?
「いえね。あの子が自分から残るって言ってくれたんですけどね、それでもやっぱり家に一人で置いておくのは気がひけて」
「そうですよね。」
それは普段やっているためタケルの母としては耳が痛い。
だが心配だという気持ちはいつも持っているから大輔の母の気持ちはよくわかる。
「ええ。ええ。どーんと任して下さい。大輔君はしっかり預からせて頂きますから」
「助かります。ごめんなさいね、突然頼んじゃって」
「いえいえ。気にしないで下さいよ。いつも御世話になりっぱなしなんですから。それじゃあよろしければ金曜日から預かりましょうか?旅行の前日というのは慌ただしいものですし」
「いいんですか?ありがとうございます高石さん。」
in某スーパーにて。
泊まりに行こうっ No.1
それはそう・・あれからそんなに立っていないある日の事だ。
あれって何かって?
聞くまでもないだろうけど教えてやるよ。
タケルのバカが何を血迷ったのか俺に告白しやがってついでに俺の初めてのあれ(伏せる方が怪しげな気がする)まで奪いやがったあの事件あったろ?そんでその次の次の日に「返事は無期限保留」宣言を下したあの日の事だ。
それからそう、まだ3日しかたってない。
あああああああ。どんな顔してりゃいいんだぁぁぁぁという大輔の心の嘆きをよそにタケルは相変わらずいつものように何を考えているか分からない笑顔を見せていた。
それがまた無言の圧力というか、なんというか。
「だっいすっけくーーーん。おっはよー」
「・・・うっすタケル」
下駄箱で偶然(本当に偶然なのか怪しいが)出逢ったタケルは満面の笑みで上履きへと履き替え、当然とばかりに大輔の横へと並ぶ。それに疑問を挟む余地を与えずここ3日ばかりで習慣付いた質問を口にした。
「返事でた?」
「でねー」
「そっかー」
毎朝の行事のように3日続けての質問に三回とも同じ答えを出すと、タケルは落ち込んだ様子もなく、明るく別の話題に移った。
大輔としてはなんだかんだ言って実は結構居心地が良い関係になっている気がする。
この朝の行事がちょっと緊張するくらいで、後はいたって普通なのだ。
いや、それどころか前より仲が良くなったような気がして、親友ってこんな感じかなと大輔は考えていた。このまま上手く行けば太一とヤマトのような関係になれそうで大輔としては嬉しい。
やっぱ延期はよかったのかもしれない。
断ったら離れていきそうだし了解だしたら・・・どんな事になるか想像がつかない・・(べたべたイチャイチャの自分たちを想像したくないだけかもしれないが)
うんうん。やっぱ賢の言った通りだよな。一生の問題をそう簡単に決められるはずないんだよ。
こいつがぶち切れるまではこのままの関係をずぅぅぅぅっと続けてやるぜいっっ。
そんな脳天気な事を大輔が思っているのとは正反対にタケルはやはり色々と策を練っているのだ。
今はとりあえず仲をもっと親密に作戦だ。
それでお前と離れるのは嫌だっと言ってもらえれば上等。親友なんて生ぬるい関係は絶対に許さないぞっと心に決めている。
そんな考えを全く表にはださないタケルに大輔は3日目にしてようやく作れるようになった笑顔を返し、昨日出された宿題を肴に盛り上がっていた。
「怪しい。怪しいわ二人とも」
教室に入った瞬間からまとわりついてきた光に大輔は首を傾げる前に一歩引いた。
怪しいって・・・何が?色々思うところがあるせいか腰が引けてくる。
まさかこいつにあんな事されたのとか告白されたのバレたとか。
いやこいつがバラしたという可能性もあるっっ。
隣りの黄色い髪の男をチラッと見、すぐにジーッと見つめてくる光を見る。
「なんで最近朝一緒なの?」
なんだそんな事か。
ホっとすると大輔は簡単に説明した。
「下駄箱で丁度会うから」
「へー丁度・・・ねぇ。タケルくん頑張ってるみたいね」
クスっと笑われタケルは肩を軽くすくめ
「まあね。ジャマだけはしないでね」
軽く牽制をかけておいた。
「・・・・そうね。気を付けるわ」
意味深な会話を交わす二人に大輔は眉を寄せると自分の席へと向かった。
以前なら光が自分に近づいてくれるなんて天にも昇る幸せだったのに最近ではどうも・・・苛められる気配を感じて逃げてしまう。
なんでだ?あの探るようなまるで観察でもしているような視線が気になるのか?
解らないまでも一応避難しておく。
実に懸命な判断だ。
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