泊まりに行こうっ No.2
「あっそうだ大輔君今日の夜から僕の家に泊まりに来るって本当?」
「は?」
突然思い出したと言ったように前の席に座ったタケルが振り返った。
間に座る女子はまだ登校していないためダイレクトに視線が届く。
何のことだ?といった顔の大輔にタケルの方が困ってしまう。
「あれ?なんか母さんが一昨日そんな事言ってたんだけど」
「・・・・なんだそれ?」
「だってお母さん達旅行に行くんでしょ?土日に」
「・・・・・・・俺も行く予定だけど?」
「あれ?おっかしいなぁ」
どこで間違えたんだろう首をひねるタケルに大輔も首を傾げてしまう。
旅行の話自体誰にもしていないから情報としては確かだ。だけどなんで自分がタケルの家に泊まりに行くことになってんだ?
いや、正確には行くよ・て・い。だが、俺は絶対に行くぞっっっと決めている。
何故予定か。
それはチケットが3枚しかないからだ。
テレビの応募にたまたま出したのが当たったのだから文句は言えないが、だがしかし出したのは自分だ。当然自分は行くべきだろう。
そう大輔は考えていた。
出発は明日、土曜日の朝。父の車で出発だ。
だから父も確定。
問題は母か姉どちらかが抜けるのだ。
それを今日の夜決めると言っていた。
もっと早くから決めて置けばいいのに、仲間はずれになった人が可哀想だから前日に決めるとか母が言い、まあそれもそうかと家族中が頷いたのだ。だから旅行の荷物は4人分一応用意してある。
「ま、いっか僕の勘違いかもしれないね。でも残念だなー大輔君僕の家に泊まった事ないよね?」
「ああそういやそうだな。タケルが俺ん家泊まった事は何度もあんのにな」
「うん。だから楽しみにしてたんだよね。部屋も掃除しておいたのにー」
「また今度な。」
「絶対だよ」
「おうっっ」
この時大輔はたぶん泊まりに行くのは他の仲間も一緒にだと思っていたと思われる。でなければこんな危ない男の家に泊まるなんて無謀な事約束するはずないのだから。
「たっだいまぁ」
「あっ帰ってきた。大輔ぇぇぇ早くきなさーーい」
「ふえー?」
なにやら楽しげな姉の声に大輔は疲れた声をあげた。
張り切った姉の近くに行くとろくな事がないのだ。
声のする方へと向かうとどうやら居間に全員集合していた。
まさか父がこんな早くに帰ってるとは思わず大輔は目を丸くさせた。
「ほらっジャンケンっっ」
そんな大輔を急かすように姉が声を荒げる。
「は?」
「旅行に行けない人を決めるのっ」
「なんで俺がしなきゃなんねーんだよっ」
「なんでって当然でしょっ家族は平等なの。あんたが当てた券は当然みーんなの物っアンタだけ特別なわけないでしょ」
あったり前のこと聞かないでよとばかりにあっさり述べられ大輔は反論の言葉が出なかった。
違う。何かが違う。
だが姉の勢いに勝てる筈もなく、運転手であるはずの父まで混ぜ一世一代の大勝負が始まった。
この一瞬に楽しい家族旅行がかかっているのだっ。
力も入るというもの。
ぐっと両手を組みひねりあげる。
手のひらの間から向こう側をのぞき込む儀式を終えると大輔はよっしゃと気合いをいれた。
「さあ、こいっっっ」
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