泊まりに行こうっ No.3 「こんばんわー」 「こんばんわ本宮さん。いらっしゃい大輔君。」 「あれ?大輔君。やっぱり来たんだね」 「・・・」 和やかにかわす母達の声も楽しそうなタケルの声も聞こえなかったかのごとく大輔は不機嫌を通した。 納得いかない。ずぇぇぇぇぇったいに納得いかない。 なんで俺が居残りなんだ? いやそれよりなんでジャンケンする前から俺が残る事予想してタケルの母さんに約束取り付けてんだよおいっっ。 まるで最初から仕組まれていたかのようだ。 八百長か?だがジャンケンでどうやってずるをするというのだ。 大輔としては平等なジャンケンで負けたせいで誰にも文句をつけられず、さらには今更ながらにタケルの家に泊まるという事実の危険性を思い出し不機嫌というよりもどうしよう・・といった気分なのだ。 「それじゃあすみませんけどこの子お願いしますね。バカで役立たずでエネルギー有り余っててどうしようもないガキですが夜中うるさかったらぶん殴ってくれちゃって全然構いませんから。」 勝手に許可を出すと母はおっほっほーと弾む足取りで帰っていった。 「ちっ」 旅行が楽しみなのだろう。 俺が当てたのに・・・ちくしょうっっ。 「それにしても大輔君えらいわねー」 扉を閉め、鍵を掛けるとタケルの母が大輔の頭をポンポンとなでた。 「へ?」 「だってみんなの為に旅行行くの諦めたんでしょ?」 「・・・・・は?」 ナンノコト? 「あれ?大輔君のお母さんがそう言ってたんだけど・・・」 二人して首を傾げ会う姿にタケルは笑いをそっとかみ殺すと助け船を出すことにした。どう考えても真実はそれとはかけ離れているに違いないし、それを解明しても今更では大輔の恥となるだけだろう。それなら母を追い払って自分だけ何が起こったか聞いておきたい。 「美談だねぇ。とりあえず大輔君夜ご飯って食べた?」 「ああ。うん。食った。お前は?」 「今からなんだ。良かったら少し食べる?カレーだよ」 「食うっっっ」 子供なら大抵好きなカレーライス。例えお腹が膨れていてもまだまだ食べられるの は育ち盛りの特性なのか大輔の胃袋のすごさなのか。 「って事で母さん。」 「はいはい。ちょっと待っててね」 「あっすみません。えっとーーごちそうになります」 我に返るとどうも恥ずかしい事をしてしまったと赤くなり大輔はとりあえず頭を下げる。どうあっても食べるのを止める気はないらしい。 そんな大輔に嬉しそうに微笑むとタケルの母は大した物じゃないのよと手を振りながら台所へと消えていった。 その後ろ姿を見送るとタケルは手招きしてテレビのある部屋へと通した。テレビはこの時間はニュースばかりでとりあえずつけてはあるが誰も見ていない。 「それで?本当のところどうなの?」 「なにがだ?」 「旅行の話。だって今日学校で行く気満々だったじゃない?」 「・・・・・・いろいろあってな」 「いろいろって?」 「いろいろだ」 「それが知りたいんじゃない。もしかしてジャンケンで負けたとか?」 図星をさされ大輔はぷいっとそっぽを向いた。 「え?当たりなの?うっそージャンケン今日したの?えー」 「・・・・・」 驚くポイントがどうも違うがタケルは真剣にビックリしていた。だがジャンケンで大輔が負けたというのは頷ける。なにせ大輔、本気の勝負の時は決まってパーをだす。 タケルですらそれを知っているのだから長年暮らしている家族なら当然承知のこと。 それを見越してジャンケンをギリギリまで引き延ばして、更にタケルの母に早めに約束をこぎ着けて置いたというのなら大輔の母はかなり侮りがたい存在だ。 「やるなぁおばさん」 「むーーーー。俺が当てたんだぜあの券。なのになんで俺が留守番なんだよーっ」 唇をとがらせようやく言いたかった文句が外に出る。 家族に言ったところで誰も聞いてはくれないだろうし、誰かに言うのも情けない話だ。 だがタケルなら・・静かに聞いてくれそうな気がした。 「しかもなんでかタケルのおばさんと約束してるしさーなんでだよっっ。俺が負けるってなんで分かったんだ?」 ちくしょーーとうめく大輔に(そりゃジャンケンに何出すかばれてる訳だし当然の結果だよね)と思いつつも、教えてあげる気のないタケル。 「まあまあ。いいじゃない。家で一人ぼっちで待つより楽しいよきっと」 「そりゃそうだけどさー」 その経験がないせいで想像はつかないが、タケルが言うとなにやら説得力があり渋々うなづく。 「それにね、僕も嬉しいんだ。」 「なにがだ?」 大輔の問いにチラッと台所の方に目をむけ、母が来ていない事を確認すると 「母さんには内緒だよ」 その後声をそっと潜め言った。 「母さんと夜ご飯一緒に食べるの久しぶりなんだ」 「え?」 「しーーーーっ。今日大輔君が来るからって早く帰ってきてくれたんだよ。だから大輔君が来てくれたのも嬉しいんだけど母さんとご飯が食べれるのも嬉しいんだ。大輔君のおかげだよありがとう」 ―――――あいつってマザコンだよな――――― いつだったか自分が言った言葉だ。 普段ならうちで食べて帰るくせに今日はおばさんが帰ってくるからと誰よりも真っ先に帰っていった少年に何故かムッとして傍で見送った光ちゃんにそう漏らしたのだ。 その時光ちゃんは複雑そうな顔を見せた。 『大輔君マザコンって言うのはもっと違う意味あいよ。』 『?』 意味が分からなかった。その時はただ、誰よりも・・・自分よりも母を優先するタケルがむしょうにムカついて仕方なかった。 『そのうち解るわ。タケル君の事を知れば・・ね』 『いーよ別に知りたいって思わねーし』 『そう?』 その時意味深に微笑んだ光ちゃんの顔は今でも覚えてる。 あの時の微笑みの意味はまだ分からないけれど、あの時の言葉の意味は分かったような気がした。 マザコンなんてとんでもねー。それは母親に頼りきったバカな息子に使う言葉だ。 タケルのは親孝行。親思い。そーゆーのだ。 親と夜ご飯を食べる。 ただそれだけのことをこんなにも喜べてしまえるのだ。 それがどれだけ貴重な事かを聡いタケルは知っている。 普通の人の何倍も親の大切さを知っているんだタケルは。 今までそれが当然の事だと思っていた大輔はタケルが夜どうやって過ごしているのか考えてみた。 夜飯を一人で食う・・・・。 うん想像ついた。 そんでおばさんが帰ってくるまで一人でこの家にいるんだよな。 ――――――――――それってなんか寂しいな。 タケルはいつも大輔の家でご飯を食べるとき楽しそうだ。 何でだろうと不思議だったが、誰かと食べるご飯は一人で食べるより数倍美味しく感じる・・そういう事だ。 例えば今日、母がタケルの母と約束をしていなかったら。 明日の朝や昼や夜、大輔はあの家でカップラーメンでもすすってたのだろう。 シンとしたあの家の中で。 考えてみるだけでゾッとしてくる。 それでもまだチビモンという話し相手がいるだけマシなのかもしれない。 タケルにもパタモンがいる。 でもやっぱり寂しいのには変わりはない。 「お前ってさ・・・」 「ん?」 「・・・なんでもねー」 強いよな。そんな言葉悔しくて口に出来る筈もなく赤くなった頬をパチパチと手のひらで叩き、慌てたように自分の荷物を引き寄せた。 小説部屋 次へ |
えへ・・大輔君初々しいわ・・子供って可愛いですよねぇ。
今回の話を要約すると大輔母達は旅だった。
残された息子はこれからピンチに立たされるだろう(笑)
そんな段階ですね。
2002.7.12