泊まりに行こうっ No.6 いつの間にか扉は開いており、タケルの母が戸口で仁王立ちしていたのだ。 当然こんな状況を見られて大輔はパニクッた。 うわぁぁぁぁぁ〜〜〜 それにタケルはと言うとゆっくり大輔の上から身を起こし、母へと向き直りなんと・・ニッコリ微笑んだ。 「ごめんね。起こしちゃった?」 まったく動じていないタケルに母は腰に手をあて頷いた。 「そうよ。何時だと思ってるの?じゃれ合いたいなら明日しなさい。近所迷惑でしょっ。後、プロレスごっこは床がミシミシなるから禁止っってこの間言ったでしょっタケルっ。大輔君もいい?わかった?」 どうやら怒っていたらしい。 ♪ハレルヤ♪ 大輔の頭はこの一言につきた。 いろんな意味で体の力が抜けた。 素晴らしい彼女の誤解と、プロレスごっこの禁止。 これで夜の間はタケルは大人しいだろう。なにせまたミシミシなったらこの母が怒鳴り込んでくるに違いないのだから。 嬉しそうな顔でコクコクと頷く大輔と渋々ながら頷くタケルを母は布団へと追いやった。 「ほらっ寝なさい。」 「はーーい」 その言葉に元気よく返事したのは大輔のみ。 タケルは不服気に唇を尖らせながら肩をすくめベッドに大人しく潜り込んだ。 「参ったなーこの間お兄ちゃんが泊まりに来たときに調子にのったツケが今更くるなんて・・」 グチグチ布団の中でつぶやくタケルの声が聞こえ大輔は心の中で有り難うヤマトさんっっ ありがとうおばさんっっと叫びまくっていた。 「まあいいや。お休み、大輔君。この続きはまたね」 「またはないっっ」 真っ赤な顔の大輔の即座の否定にもタケルは余裕の微笑みを見せた。 やれやれ正直じゃないんだから・・といった雰囲気のタケルに大輔は憤慨する。 「なんだよ。本気で言ってんだからなっ」 「はいはい。分かってるよ。今日はもう寝ようね。母さんがまた怒鳴り込んでくるといけないから。 ・・おやすみ。」 「・・・・おやすみ」 しぶしぶ頷くと大輔は瞬く間に夢の世界へと誘われた。 タケルの母という防波堤が大輔の睡魔を誘ったのかもしれない。 その夜夢にはタケルが出てきた。 可愛い女の子と連れだって楽しげに街を歩くタケル。 それを見て俺は逃げ出した。 あそこにいるのは俺のはずだったのに。そう思った。 ただの独占欲だと思う。でもあの女が憎いとちょっとでも思った心は本物だった。 珍しく、誰にも起こされず目が覚めた大輔は見知らぬ部屋にまず驚いた。 そして、隣りのベッドですやすや眠るタケルを見てホッとした。 (そうだった。俺昨日タケルん家に泊まったんだった。) それを思い出すと同時に夢の内容を思い出してしまい、複雑な心境ですやすや眠るタケルをじっと見つめた。 今はまだ自分の傍にいる。 俺が否定の言葉を述べるまではずっと・・・。 こんな事考えるなんてバカげてるし、卑怯だって自分でも思う。 だけど俺にはこの場から動くだけの勇気がない。 決断力もない。 思考は止まってるし、何から手を着ければいいのかさっぱり分からない程、糸はこんがらがっている。 「俺はどうすればいいんだろう」 このままでいられる訳がない事は分かってる。 親友という言葉で許してくれるような相手じゃないのも分かってるつもりだ。 でも一緒にいたいし、離れたくないし、傍にいて欲しいし傍にいたい。 そんな事をタケルに言えば「じゃあ付き合おうよ」とあっさり言うに決まってる。 そんな問題じゃないのに。 どういう気持ちが恋なのか分からない以上簡単に返事が出来る筈がない。 学校で教えてくれるといいのにな。 友情とそれ以上の気持ちの境界線がきっちりと区切られてるといいのにな。 中途半端過ぎて何もできない。 今の状況がタケルにとって辛いものだと分かってるのに。 それでも・・・・・ 「大輔君。そんなに悩まなくていいよ」 「え?」 寝てるだろうと思ったタケルがカーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながらこちらを見ていた。 小説部屋 次へ |