聖なる夜の奇跡(前編)



「るなちゃーん。準備できたー?」
「まーぼちぼち」
やる気なさげに答える。
「テンションは?あと5分だよー」
「いけます。」
とてもテンションなんて上がるわけない低い声でぼそりとつぶやくその陰鬱な様子に
はっきり言って相手は気圧されていた。

るなと呼ばれた少女(見た目は15、6だ)はミニスカートからスラリと伸びた足を偉そうに組み、片手で台本をペラペラめくり片手で暖かいお茶の缶を握っていた。
(あーーーーさむっっ)

出るとこでて、ひっこむべきところはひっこんでいる素晴らしいプロポーションの持ち主の彼女は悲しいかなばりばりの童顔だった。
くりっとした瞳にかるくパーマの掛かった栗色のセミロング。
白い肌が寒さのためかふわりとピンク色にそまっていた。

一見美少女である。とんでもなく。
しかして彼女の実年齢は2×歳であった。
これは公然の秘密である。



街中はクリスマス一色。きらびやかなツリーや飾り付けられた店が建ち並ぶ間を若者達が通り過ぎていく。
それはどこを向いても幸せそうなカップルばかり。
桜の花びらのような可憐な唇からチッと舌打ちがもれた。
(あーやだやだ。キリストさんが亡くなった日を祝ってるっちゅーのに。日本人ってどうしてこーイベント好きかねー)
呆れた目で世のバカどもを見回すとどの人も皆笑顔だった。
まるで悩み事なんて全くなさげな脳天気な笑顔。
(むかつく・・。私はこのさっむぅぅい中仕事だってーのに)

彼女は今サンタの衣装を着ていた。
と言っても女の子用のためミニスカートだ。
赤いフワフワの服にミニスカート。それに真っ赤な帽子と赤い靴。
そのどれもに白いもふもふがひっついており、さらに雪のようなボンボンがついている。
可愛らしい服だった。

「あーミニスカなんてこの寒さの中はいてる奴尊敬するよ本当。」
スカートからはみ出た足を冷たくなった手のひらでさすりなんとか暖をとろうとする。
残念ながら彼女にはこの服は不評だった。
なにせるなの好みは機能的な服だ。
冬なら暖かい服。そして動きやすい服。
とくにファッションに疎いわけでも敏感なわけでもないが、彼女は大体ジーパンとTシャツでいつも過ごしていた。

間違ってもこんな服は一枚たりとも持っていない。

「一分前でーす。るなちゃーーんスタンバッてっ」
その声を聞いた瞬間台本を放り出しすっくと立ち上がる。
仕事の始まりだ。
自分を切り離してもう一人の自分を押し出す。
テンショーーーンアァァップ。


「はぁぁぁぃ」
キャピキャピの声である。
普段ならけっっしてださないぶりっ子の声に可愛いしぐさ。
ふっだてに女の子の嫌いな女性タレントNo1に君臨してないわよ。
仮に自分も尋ねられたなら間違いなく『神崎るな』と答えるだろう。
それほど自分とかけ離れたはずのキャラクターだった。

しかしこれが世の男性にはうけるというのだからお笑いだ。
あーーだから男って嫌い。




「こんにちはぁぁ。神崎るなでぇぇす。今日は若者のスポットへやってきましたぁ。沢山いますねー。」
バカ丸出しでしゃべる。
こつは、こいつアホじゃない?と思わせる言葉を言えばいいのだ。
以外に難しいが。

「もうクリスマスイブです。みんなは大好きな人とデートかな?今日はそんなラブラブカップルに突撃インタビューしちゃいまーす。」
グッと腕を大げさに振り上げて元気にアピールする。
それを見てAD達はよしよしうなづく。
その調子だるなちゃん。間違っても地を出すんじゃないぞ。
本性を知っているだけにこのぶりっ子は怖い物があるが、これが世間がもとめる『神崎るな』なのだからしょうがない。
彼らはいつか彼女がプッツン切れるんじゃないかと秘かに思っていた。



「そこのお兄さん。美人な彼女とどこへ行くんですかぁ?」
手近なカップルを捕まえる。
彼女がなかなか美人だったのだ。
(あーこんな顔欲しい。いーなー大人っぽい顔ーそんでスーツとかビシイィィて着たいな)
「えっと今から―――――」
照れながら答える二人は好感が持てた。
「ありがとー仲良くねー。」
穏やかに別れ次ぎを探す。どのカップルもここぞとばかりにいちゃいちゃし出す。
うざっそんなにテレビに出たいんか。
かわってやりたいわっ。

「―――――あ・・」
ぐるりと巡らしたるなの瞳に珍しい少年の二人連れが移った。
考える前にるなが追いかけてしまい、カップル特集だと言うのにっと眉をしかめながら慌ててカメラ達がついていく。
「すみませぇぇん」

少年の背中に呼びかけると片方が「え?」と振り返った。

その瞬間周りにいた人たちが水をうったように静まり返った。
それほど印象的な少年だったのだ。
白い肌に人形かと見まごうほど絶妙なバランスで整えられたパーツ。
足は日本人にしては長く腰の位置が高かった。
顔は小さくこれが8等身と言う物なんだ・・・と人々に思わせるような体型だった。
そしてオーラ。
これだけは生まれ持った物なため一般人にはどうしようもない。
人を惹きつけてやまない存在感という絶対のオーラがその少年の周りには漂っていた。
完璧な美貌なのに何故か愛嬌のある感じのおかげでとっつきやすい雰囲気をその少年は持っていた。



「どうかした?」
その少年は首を傾げると生気をやどした輝く瞳でるなに笑いかけた。
それは周囲の男達のように下心のあるような物ではなくもっと綺麗な明るい笑顔だった。
「あ・・・・あの・・その・・・・・ごごごめんなさい。見とれちゃって。」
それだけ必至に言うとその少年は目を丸くしてついでクスクス笑いだした。
「新一ーー聞いてー見とれられちゃった」
なにがそんなに楽しいのか隣の少年の肩によりかかりお腹をかかえてしまう。
「お前そんなん社交辞令に決まってるだろうが。」
ようやく振り返ったもう一人の少年は隣の少年とうり二つと言っても過言じゃない顔立ちだった。
ただしこちらの方は中世的な感じが少しする美人さんだ。
不機嫌そうな顔は眉をしかめうっとおし気にとなりの明るい少年を見ていた。



び・・・美形が二人っっ。
双子だわっっカメラっっ取りなさいっこんな貴重な映像残さないでどうするのっ。
それだけ混乱した頭で考えるとるなは即座に行動した。
「すみませーん突撃インタビューなんですけどー質問してもいいですかぁ?」
なんとか普通の声で尋ねられた自分をるなは心の中で誉める。

「は?質問?いーけど簡単なもん?」
「はいーもちろん」
「快斗っお前急いでるんだろっ」
「まだ時間あるじゃん?大丈夫だって。」
クールな少年は快斗と呼ばれた少年に呆れた瞳を向けると肩をすくめる。
こちらのほうは本当に人形みたいだった。

二人は外見は似ていたが中身は全然違うみたいだった。
片方は陽気で片方はクール。
例えるなら動と静。
太陽と月。
同じ顔なのに正反対の性質の二人だからこそ存在感が二乗だった。



「えーっとお二人は双子ですか?」
るなの質問に周囲からそんなの当たり前だろ?といった非難の空気が向けられた。
それをにっこり笑い受け流すと陽気な少年にマイクを向ける。

「違うよ?なんで?」
なんでって・・・。
「それじゃあ親戚とか?とっても似てますよね?」
「えー?そんなに似てるかな?赤の他人だよ?ねっ新一」
ポリポリ頬をかきつつ隣の新一と呼ばれた少年に話しをふる。

「そうですよ。まったくきっぱりはっきり血なんか一滴も繋がってませんから。」
綺麗な笑顔だった。
それは綺麗すぎて怖いほどに。
「まだ怒ってやがるよこいつ」
根に持つからなーとぶちぶちつぶやくその少年に冷たい微笑みをうけたるなは救いを求めて新たな質問をした。

「それじゃあお友達・・ですか?」
「違うよ恋―――――」
恋人とあっさり答えようとした快斗の足をぐりぐりふみにじり先ほどの冷たい微笑みのまま新一は口を開いた。
「ただの知り合いですよこれとは。」
「そ・・そうですか。」
いまだ踏みつけているその左足に目を向けるなは引きつった笑みでなんとか答えた。
きっと痛いのだろう右足を押さえながら涙目になっているその少年に心の中で同情する。


「今日はイブですがお二人はどうやって過ごすんですか?」
助け船を出すつもりで言ったのだが、どうやら失敗らしい。
「どうやって・・・・・ねぇ」
「あ・・まずっ」
陰鬱な表情になった新一に快斗は顔をしかめ口元を手で覆った。
(何かいけないこと聞いたかしら?)
「今日これから友人とパーティーに参加するんです。」
意味深にチラリと隣に目をやる新一。


「お前はこれねーけどなー。」
「だから仕事だっつってんだろっ」
「なんで今日仕事なんだっ俺は聞いてないっ」
「それは青子がしくんで中森警部に口止めしたからだって。俺はしらねーよ」
「お前が言えばいーじゃねーか」
「そんなんいつも言わないじゃん。」
「あーいえばこーいう奴だなー」
「それは新一の方っっ」


突然けんかを初めてしまった二人に周囲は唖然としだした。
クールにみえたが、新一という少年喋るときは喋る。
しかも口がけっこう悪い。
おーいテレビ回ってるんですけどー。


会話を聞いてるとどうも痴話喧嘩にしか聞こえない二人に女の子達はドキドキと見守っていた。
なにせ美形同士である。もちろん許せる。



「そーか、わかった。もういいっ。」
「なんだよっだから謝っただろっっ」

「お前は俺とイブが過ごしたくないんだろっ。」
快斗の襟首をひっつかみながら唇をかみしめる。

「俺は・・・・お前と一緒に・・・一緒にいたかったのに」
おお・・・・決定的な言葉を聞いた気がします。

潤んだ瞳で快斗を見上げる新一に辺りは高鳴る胸の音が響いていた。
そこかしこでキュンキュンなっている。

か・・可愛い・・・


カップルのどちらもが見とれているのが笑えるが、両成敗でなんとか落ち着くかもしれない。

「新一・・・」
そんなせつない瞳でみつめられてしまい快斗は困ったように新一の頬を両手で包んだ。
「そんな目でみるなよ。」
「だって・・・」
快斗の手に自分の手を沿わせ必至に言い募ろうとする。

「お前にそんな顔させたくないんだけどな・・・わかった今回は俺が折れる―――――」
ため息をつきふ・・と微笑むと新一の顔に自分の顔を近づけていく。
周囲がおおおっっと心の中で叫び盛り上がった瞬間。




「ぬわぁぁぁぁんて言うと思ったかっっ」

ごんっっと頭突きをかまされ新一は顔をしかめた。
手で押さえられていたためよけられなかったのだ。

「ちっ」
さっきまでの潤む瞳もなんのその舌打ちをするとふてぶてしい顔で快斗を睨み付ける。
一瞬にしてアダルトなオーラが消え失せていた。
「なかなかの演技だったぜ。この俺ですらグラッと来たからな。」
実を言えばかなり危なかった。
寸前でなんとか理性を取り戻したからいいもののこのままでは本気で仕事(KID)をとりやめるはめになるところだった。


「演技?」
まさか・・・それが本当なら見事なものである。
ここにいる誰もが見抜けなかったのだから。


「だてに女優の息子やってねーからな。お前もさすがだな。すっかり騙されたぜ。」
「まあなこちらこそだてにマジシャンやってませんってな。」

はっはっはーー。
和解とばかりに和やかに笑い出した二人に一同は唖然としていた。
(なんなのこの二人・・・)
仲がいいのか悪いのか。
さっきなんて本当にこの二人カップルなのかも・・・と真剣に思ったほどだ。
なのに一転して今は仲のよいお友達といった雰囲気だ。


「おまえなんでそこまでパーティーに俺を引っぱり出そうとすんだ?なんか掛けたのか?」
「違う。はめられたんだ園子の奴にっっ」
歯ぎしりをしつつしかめっ面をする新一に快斗は首を傾げる。
新一をはめるなんてなかなかの技だ。


「お前つれてこなかったらペナルティーが待ってんだよ」
「どんな?」
「いいたくねー」
「パフェ食べろとか?」
「そんなんいくらでも食べてやるっっ」

甘い物きらいな新一がパフェ食べてもいいからしたくないペナルティーってなんだろう?

数瞬考えた後もしかして・・・・という予想が浮かんだ。

(新一+パーティー)×園子=○○

この公式に成り立つのはこれしか思いつかなかったなにせ相手は園子嬢。


「なあーもしかしてそれって―――――」
快斗が言いかけた瞬間


「ばっかいとぉーー。」

周囲の強固な輪をかきわけ押しのけやって来た少女が相手がこちらに振り返る前に手に持っていたリュックで思いっきり頭を殴りつけたのだ。
彼女にとってはいつもの挨拶の一つだ。




「ぐおっっ」


なにやら声なき叫びをあげしゃがみこんむ快斗に原因の少女青子はおや?と不思議そうにかばんをしたに降ろした。
その時地面がゴトンッッと鳴った。

とても重そうな鈍い音だった。

まるで鈍器のように。


「あ・・・・」
ようやく思い出したらしくはっとしたようにかばんを見つめると慌ててしゃがみこむ快斗を心配気にみやった。
「ごめん快斗っっそーいえば缶ジュース入ってたー。こぶ出来てない?これいくつに見える?
1+1は?」

あいにく今日は鞄の底に缶ジュースが2.3缶ごろごろ詰め込まれていたのだ。
痛さのあまり声もでないらしく涙目で恨めしげに「お前俺を殺す気かっっ」と睨み付ける快斗に青子はひたすら謝り続けた。




「ほらっいい加減許してやれよっ」
そんな快斗にいたわりの言葉は全くなく半泣きの青子のために眉をよせ膝でつっつく新一。
新一ぃぃぃと情けない声を出しつつちょっとフラリとしながら快斗は諦めて立ち上がった。
新一の同情を買おうなど無謀な事だったとようやく思い至ったのかもしれない。




「中森さんがここにいるってことはあいつらも?」
「うん。園子ちゃんたちがあそこら変にいると思うよ。少し時間余ったからデパートにお買い物にきたの。」

「ちょっとーー青子っ一人で先に行かないでよ」
「ごっめーん。だって快斗がいたから思わず走り出しちゃった」

てへっと笑う青子は快斗や新一の隣に立っても見劣りしないほどの可愛らしさだった。
そして園子も。普段はこの性格のため気付く人は少ないが彼女も美人である。
この性格さえなければ美人で気もきくほうだし、お金持ちのうえに一途なのだからきっともてもてだっただろう。世の中は残酷である。



そしてもう一人やってきた少女蘭とその隣の白馬。もう言う必要もないだろうが十分美形コンビである。類が友を呼んだのか園子が選び抜いたのかこの軍団がぞろぞろ歩いているとテレビの撮影か?と思わせるような華があった。
一人一人でもオーラが漂うのにそれが乗算しているのだから尋常ではない。




「まったくこんな所でなにやってんのよ?」
腰に手をあて新一と快斗に尋ねると二人はテレビを指さした。

「「さつえー」」

当然園子はテレビカメラを見た瞬間に豹変した。
「やっだぁぁ最初から言ってくれれば。やだわいつもこんなんじゃないのよっ」
テレビに向かってしゃぺっている。
おい・・・





そんな園子を慣れた物で放っておくと蘭は尋ねた。
「青子ちゃんよくそっちが黒羽君だってわかったわね?」
「え?」

「だって結構遠くから勢いよくリュック回してたじゃない?」
「あーーうん・・・」
歯切れの悪い青子。



「蘭ちゃん違うっこいつギリギリまで新一狙ってた」




「は?」
その快斗の言葉に新一が青子を振り返る。



「だって寸前まで殺気が新一に向いてたもん。だからガードしようかな?って動いたらそのリュックが突然変化球のように俺の頭に曲がってきたんだって。」

もービックリよー。

それが本当ならもう少しで新一は死んでいたかもしれない。
なにせ快斗のように丈夫な頭ではない。
缶ジュース(中身入り)が勢いよくぶつかったら打ち所が悪ければおだぶつだ。
なにせ相当な遠心力が加わっているのだから。



「こわ・・・」
「だ・・だって後ろ姿だったし。でもちゃんと気付いて軌道修正できたじゃないっっ」
青ざめる新一にだからいーでしょっとぶすくれる青子。そこに白馬がのんびりと
「未遂でよかったですね」

不吉な事を言ってくださった。
「白馬・・・」
脱力する快斗と新一。
その面々は周囲の目もカメラの目もまったく気にする事なく普通に会話をかわしていた。



なにかの撮影かしら?と周囲の輪はどんどん大きくなっていく。
なにせ全員が全員モデルと言ってもさしつかえない容姿なのだからそれもムリはない。
それに気付いた快斗はそろそろ潮時だなとカメラの横に立っていたるなに近づいた。




「ごめんねー撮影のジャマしちゃって。すぐどけるから」
笑顔で快斗が言うと未だ呆然ときらびやかなメンバーを見つめていたるながハッと覚醒した。
「あ・・いえ。こちらこそお邪魔してますね。えーっとその皆さんもしかしてモデルとかやってらっしゃいます?」
無意識のため地がでていた。
『神崎るな』は尊敬語なんか使えないはずなのに。


「はい?まさか。だれもそんな事してませんよ。」
その問いは快斗の近くにいた白馬が柔らかい対応で答えた。
その笑顔に一体何人の女性がノックアウトされたか。

「まさか・・ですか。それじゃあご関係は?」

「友達。クラスメートですよ。」
「俺お前の友達になった覚えねーけど?」
「黒羽君・・・・」
情けない顔をする白馬をせせら笑うと快斗は新一をひっぱってその場を抜け出す。
「こんな所じゃのんびり話もできないぜ?」
「まあそーだけど」
「確かにそうね」
同意した人々が快斗の後をついていく。


そして十分な距離をとったころに快斗は振り返ると
「ごめんこのテープ頂戴ね。」
にっこり笑っていつの間にかスリ取ったビデオテープをひらひらと振った。


・・・やられた。
一体いつ取られたのか気付かなかったため唖然とするが、どうも憎めない彼のキャラクターに思わず笑ってしまう。


「いやーいいもん見してもらったわ」
なにやら親父臭いるなの感想はまさしく皆が同じ気持ちだったため民衆にうけいれられたのだった。


きり番部屋   後編へ

別名「聖なる夜の悲劇(喜劇)」です。
誰が悲劇なのかは後編でわかるでしょう。
2001.12.23