[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
聖なる夜の奇跡(後編)
「はあ?何で俺が?」 新一は突然の園子のお願いに怪訝な顔をした。 なにせその内容というのが『今日うちで開くクリスマスパーティーに快斗君もつれてきて』といった物だったのだから。 参加者の中には青子がいるのだそっちに頼めば早いじゃねーか? 「青子ちゃんには白馬君と紅子ちゃんの事頼んであるから」 隣から蘭がフォローをいれる。 「どーせ今日逢うんでしょ?そのままつれてらっしゃい。服は用意してあげるから。」 そう言われてしまっては仕方ない。 「へーへーりょーかいしましたよ」 なにやら腑に落ちない気分であきらめてうなづく。 「いーい?ぜっっったいに連れてくるのよ」 「解ったって」 「解ってないわよ。じゃあつれてこれなかったら新一君女装してパーティーに出てもらうからね」 「なんでそーなんだよっ」 「だって真剣味足りないもんっ食い下がっても連れてきなさいっ。私まだ快斗君見たことないんだから」 あまりの園子の剣幕に新一はおされる。 そんなに快斗が見たいのか?それとも自分と快斗を並べて楽しみたいのか。 彼女の真意はどうせそんな単純なものだ。 それと――――― 「今回はあいつらが来るから絶対負けられないのよ。新一君と瓜双子って言うんだから美形でしょ?そんなのが二人もいればバッチリよ。こっちが勝ったもんねっ」 ぐっと腕を振り上げによっしゃぁぁと気合いをいれる園子。 どうやらとてつもなく嫌いないとこの兄姉がパーティーに来るらしい。 お前なぁ・・・。 「いいわね?私のためにぜぇぇったいに連れてくるのよ。」 クラクラする頭を押さえ。もう一度 「はいはい。ちゃんと連れてくるって」 ・・・・とうかつにも返事をしてしまったのだ。 園子の作戦勝ちである。 輪から抜けた軍団はそのまま注目を集めつつ適当に街を歩いていた。 一所にとどまるとその周りに輪が出来てしまうためだ。 「そぉぉのぉぉこぉぉぉ。お前謀ったなぁぁ。」 「なんのことぉ?私は別に快斗君連れてきてくれればいいのよ?」 「こいつ仕事だって中森さんから聞いてただろ?」 「そうだったかしら?記憶にないわー。」 あっはっはーー。とどこまで本気か解らない。 本当に忘れていたのかもしれないところが怖い。 「まっどちらにしても私との約束・・・破るなんて言わないわよねぇし・ん・い・ち・くんっ。」 にっこり。 なにせ証拠人は蘭だ。逆らえる筈もない。 「―――――っっっ」 ちくしょぉぉぉぉぉ。 「なあっなあっっっもしかして新一じょそ―――――」 「言うなっ元凶っっ。」 快斗の腹に強烈な右ストレートを打ち込むとさらにアッパーお次は――――― とまらない八つ当たりを新一は繰り広げた。 「園子ちゃん準備は?」 そんな哀れな快斗を黙殺して青子がわくわくした問いかけると皆が楽しげに答えた。 「バッチリよ。メイクも私たちがしてあげるから安心してねーー。」 「アクセサリー類も貸してあげるから大丈夫よ新一。」 「あと大きいサイズの靴だけはなかったから青子が調達してきましたーー。」 「僕はとりあえずエスコートを頼まれましたので宜しくお願いします。」 にこやかである。 ここにいない唯一の人紅子は今現在ドレスの準備をしていた。 「どのドレスがいいかしら?」 彼に合うサイズを全てそろえ、それにあうアクセサリー類もそろえておく。 いつでも帰ってらっしゃい。ふふ・・・。 そのままわらわらと逃げられないように囲まれ連れて行かれた新一に快斗はのばした手をわきわきしつつ悲しげに声を掛けてみた。 「おーーい・・・」 置いていかれてしまった。 お仕事頑張ってねーーーと。 まってぇぇぇ。俺も見たいっっ女装新ちゃんっっ。 悲しむ彼にすくいの手はない。 そして彼はここで誓うのだ。 『絶対に早く仕事終わらせるっっっ』 と。 その後 「うそだろ?」 鏡の中の女性を見つめ新一は呆然とつぶやいた。 夢であって欲しい。・・・・そんな望みもなんのその隣からけたたましい声が聞こえた。 「やっぱり似合うじゃないっ。ね?青でよかったでしょ?」 とご満悦の園子の声が。 最後までドレスの色でもめていたらしい。紅子が用意してくれたのは5.6着あった。 蘭は黒。青子は水色を主張していた。だれも折れないその状況を救ったのはひょっこり現れた水色のドレスを着た園子の姉と黒いドレスの紅子だった。 後のお楽しみ・・と先に着替えを済ましてきた二人はドレスが部屋に散乱している状況にあきれかえった声をだした。 「あら?まだ選んでなかったの?」 園子の姉の問いに三人は同時に答えた。 「「「今決まったわ」」」 かぶるのは許せないのか結局園子の案がとおったのだ。 「そうね瞳と同じ色だからどうかなって思ったけど想像以上だわ。」 「青って顔色悪く見えそうなのになー白い肌が映えてきれーー。」 二人の賞賛に園子は鼻高々だ。 一方未だ固まっていた新一は現実を受け入れられずにいた。なんだこれは・・・ ドレスなんてどーでもよかった(いやよくないねーけど)何が嫌って化粧とかつら。 薄い化粧でも元が白いため映え、紫のアイシャドーとただでさえ長いまつげにマスカラをぬったおかげでミステリアスな雰囲気を出していた。 そっとふせると長いまつげの陰が落ち魅力が増す。 白い肌に塗られたほんのりピンクの頬紅が人形に命を吹き込んだような暖かさを見せていた。 はっきり言って想像以上の出来映えだった。 新一に至ってはまったく見知らぬ存在が目の前にいるような錯覚すら覚える。 嫌だ・・・こんなんで人前に出るなんて嫌だっっっ。 ウエストをギュッと絞ったドレスのため細さが際だち柔らかいスカート部分をふわりと浮かせながら振り返ると黒い背中までのストレートの髪が柔らかく頬にかかった。 一挙一動が華になる。 まさしくその言葉がピッタリの新一に思わず園子は口元に手をあてた。 (勝てるっっ勝てるわっっこれならあいつらの鼻をあかせる) 新一の女装という楽しいイベントのせいで勝負の事をすっかり忘れていたが、予想以上の美しさに園子はにやりと笑う。 しかし重要なのは彼をいかに周囲の男共から守るか・・だ。 これだけ美人を放っておくはずがない。 (ゆゆしき事態ね) 一同がパーティー会場にのりこんだ時すでにほとんどの参加者が勢揃いしていた。 彼女達が入った瞬間人々はなにやら空気の変化を感じそちらに目を向けた。 それはその6人が醸し出す強烈なオーラだった。 先頭を切るのはシンプルな純白のドレスを着た園子とワインレッドに黒の刺繍の入った大人っぽいドレスの蘭だった。その後には黒一色の中赤い唇が艶やかに光る紅子と妖精のように愛らしいピンクのドレスの青子が続いて入った。 それだけでも人々は感嘆のため息を吐いたというのに、その後に入ってきた男女に声もでなかった。 一人は黒い燕尾服と蝶ネクタイを見事に着こなした白馬。モデル体型で新一達にやや劣るものの十分な腰の高さに顔立ちをしていた。物腰もやわらかく、これぞ紳士といった優雅さだった。 その白馬に手を引かれ楚々とうつむきながら入ってきた深い青色のドレスの女性は、顔が見えないというのにその存在感というオーラを人々の意識に焼き付けていた。 なにをすると言うわけでもないのにその一つの動きに目が離せない。 小さな顔にそっとふせた長いまつげ、背中までの日本的なつややかな黒髪がちょっとした動きにもサラリとゆれ動く。白い肌にキュッとしまったウエストと足首。柔らかなしぐさ、少々女性にしては背が高いものの、背筋がピンと伸びているためスラリとして綺麗な立ち振る舞いだった。 人々の視線を集めつつその一団は壁際に移動した。 「つかみはおっけーっっ」 小声で園子は叫んだ。どうやらいつも以上に注目されご満悦らしい。 「やはり狙われてますね工藤君。」 「そうね。視線が全部そっちに流れてたわ。気を付けなさい工藤君。」 白馬の苦笑に紅子は真剣な顔で新一に忠告した。 なにに気をつけろっていうんだ・・・。 「でもさー声も出ないほどかなあ?」 「きっと免疫がないからじゃないかな?」 青子の不思議そうな問いにもしかしてと蘭が言う。 「免疫・・・ですか。まあ僕たちは普段工藤君や黒羽君達を見慣れているせいもありこの顔に慣らされてるんでしょうね。」 「そうねーこんな美形見慣れちゃうと目が肥えちゃって大変けどねー。」 園子がまったく嫌になるわーと肩をすくめる。 「そっかー青子なんて快斗見てもあんまし綺麗とか思った事ないけどなー。」 「黒羽君はいつも明るいイメージだから。新一なんて時々すっごく綺麗な顔するから私困っちゃって。」 「あーあるある。新一君そーゆーところ。でも本人気付いてないからやっかいなのよねー」 「そうですね工藤君はそこのところの自覚が必要だと僕も思いますよ。」 「同感ですわ。」 「お前らなぁぁぁぁ」 そーゆーことは本人の居ないところで言えっっ。 こんな格好させられそれだけでもご立腹だというのに更にこの仕打ちは酷いのではないか? こぶしを握りしめ新一は一人怒りに燃えていた。 かぁぁいぃぃとぉぉぉぉぉぉぉぉ全てあいつのせいだぁぁぁ。 たんなる逆恨みであることを承知しつつひたすら責任転嫁をして怒りを快斗にそそぎ込む新一であった。 立食パーティーのため思い思いの場所に立っていた他の人たちは主催者である園子の父が簡単な挨拶を終えると一斉にわらわらとこの六人の元へと集いだした。 「園子さんお久しぶりです。そちらの方々は?」 「初めまして僕は―――――」 「今日はどちらから?」 「よろしければあちらで―――――」 質問やらお誘いやらの集中攻撃をうけとりあえず手近にいた人たちがその対応に負われていた。 美女―――――新一には誰一人近寄れない用壁を背に立たせておいて周囲の5人が取り囲んでいた。誰もが新一の素性を知りたがったが誰一人としてその美女の名は聞き出せなかった。 そうなるとそれはそれで人々にとってはミステリアスな美女となり、高嶺の花的存在へと祭り上げられていた。 「もってもてねー」 「ほーんと。」 楽しげな園子と蘭の会話に青筋をたてつつ新一はひたすら堪え忍んでいた。 「あーかったりーー」 声を出したらバレるだろうと言うことで小さな声でつぶやく。それがまたストレスが溜まって溜まってしかたない。我ながらよく頑張ってるよなーと自画自賛をむなしくしつつ、新一は大きなため息をついた。 食べ物は蘭達が持ってきてくれるから困りはしないがつまらない。 遠くから憧れの眼差しを向けられているのにもまったく気付かないまま新一は首をコキコキ鳴らした。 「なー園子ーーそろそろ俺帰ったらだめか?」 「えーもうちょっといようよー。せっかく皆に自慢出来るチャンスなんだから。」 いとことの対決はすでに終えていた。 もちろん園子の圧勝である。新一の美女っぷりを見て勝てる者などいないだろう。 いつもは自分の美貌を見せびらかしてほーほっほと去っていく兄妹が今日に限っては逃げるようにそそくさと去っていった。 その背中に園子が高笑いをしたのは言うまでもないだろう。 「もう十分だろ?」 「あっしまった写真撮ってないっ」 「ああ?」 嫌そうに聞き返した新一に園子は持ってきたカメラをみせた。使い捨てなんかではないきちんとしたカメラだ。一体どこに隠し持っていたのやら。 「私も持ってきたーー」 「当然ね」 「実は僕もです。」 「ごめん新一私も・・・」 「冗談じゃねーー。こんな姿残しておけるかっ。」 すごい剣幕で怒られ5人は渋々とカメラをしまった。 なにせここで無理矢理写真を撮ろうものなら新一の不況を買い、しばらく彼は口をきいてくれなくなるのは必至だったのだから。 「もーちょっとしたら帰るからな。」 あの時計が10時を指したら。 そーいやそろそろ快斗の奴仕事終わったかな? 確か予告は9時だった。現場からここまでの距離は2時間くらいある。 ここにこれるのは多分早くても11時半くらいだろう。 そんな時間にこの会場に来るはず無いから直接家に帰るだろう。 きっと今日は新一の家へ来るだろうから10時くらいにここを出れば快斗が帰ってくるまでにお茶の用意ぐらてしてあげられるはずだ。 だから家に帰って出迎えてあげようかな?と思うのだ。 きっと今日もしょげて帰ってくるのだろうから。 そんな事を新一が考えているとパーティーも終盤にさしかかり人々がちらちら時計を気にしだした。 そろそろお開きだろうか? そんな時間に入り口の扉が開いた。 なんだ?大幅な遅刻か? と興味深げに新一が振り返るとそこには――――― 驚いた顔の快斗が立っていた。 二人の視線が絡み合いようやく快斗は驚きから立ち直ったのかふ・・と柔らかい笑顔を見せた。 「快斗・・・」 黒いスーツが多い中KIDの衣装なのか白いスーツの快斗はその容姿とともに目立っていた。 他に目もくれず一直線に新一に近づいてくる。 白馬以外誰一人として近寄れなかった新一に。 人々の視線を集めながらゆったりとモデルのように優雅な足取りで近づいてくる快斗。 視線に気付いていながらも慣れているのか堂々としたものだ。 息をひそめ見守る人々をよそに新一のまえで片膝をつくと片手をとりうやうやしく紳士の礼をとる。 そこらの男がやったらバカじゃない?と思われるような動作も快斗がやると様になる。 周囲の女性陣がまあ・・と頬を染め快斗の微笑みに目を奪われていた。 「よもやこのような美しい宝石が一人でたたずんでいらっしゃるとは思いませんでしたよ。お嬢さん」 そっと新一の手の甲に口づけを贈る。 「・・・・・お前・・どうして・・」 目を見開き快斗のうなじに目をやっていた新一は呆然とつぶやいた。 だってまだ仕事じゃ・・・。 「おや?私のために着飾ってくださるたった一人の美しい方のため私はこちらに参上したのですが?もしやご迷惑でしたか?」 「バーロ・・誰がお前のためなんかに・・」 立ち上がった快斗の胸に額をこすりつけると憎まれ口を叩く。 快斗の胸の鼓動は少し早かった。 きっと凄く急いでここまで来たのだろう。 体力バカの快斗がこんなに疲れるほどに。 そんなそぶりはこの笑顔からは見られなかったが・・・ 新一は見栄っ張りな目の前の男に小さく笑った。 この会場に入って初めての新一の笑顔に周囲の男性はおろか女性まで目が離せなかった。 今瞬きしたら一生後悔する。 そんな気持ちで食い入るように見つめる。 「今宵の宝石は『ホワイトスノウ』別名を【聖なる夜の奇跡】と申します。」 「は?」 「これ。」 「あっお前返してなかったのか?」 「新一に見せたかったから。」 差し出したのは透明のダイヤモンドの中に白い雪のような光が閉じこめられた大きな宝石。 「これに聖なる夜に二人で触れると永遠の愛が約束されると伝えられてるんだよ。」 だから触って。 と嬉しそうに微笑む快斗に新一は眉をよせ首をふる。 「なんで?」 拒絶されたショックで快斗はズキッと胸が痛んだ。 「別にお前と愛が誓いたくないとかそーゆーわけじゃないぜ?ただ・・・」 「ただ?」 「そんなもん無くても永遠の愛貫けるくらいの根性ねーのかな?とか思っただけ。」 「・・・・・」 身も蓋もない。 快斗は言葉もでなかった。 「なんだよ。口ごもんなよっ。大体お前盗んだもんでそんな約束してなにが楽しいんだよ」 これもかなり痛い一言である。 「新ちゃんひどい・・・」 「お前の方がひどいっ」 「なんで?」 「自分で考えろっ」 ふんっとそっぽを向く新一に快斗は小さく笑う。 本当は解ってた。 でもこんなちっぽけな石で永遠が約束されるんなら嬉しいな・・・とかずるいことを考えていたんだ。 俺は誓えるよ永遠。でも新一は? 照れ屋な新一はいつも口に出しては愛を語らない。 その可愛い態度で示してくれるからそれでいいかと思っていた。でも時々不安になるのだこんな凛とした涼やかな美貌の持ち主を自分が永遠に独占できるなんて本当に可能なのか・・と。 「ごめんね信じなくて。」 「まったくだ。」 「でもこの不安は新一が好きだから生まれるものだよ?」 「解ってる。でも俺だって・・・」 「俺だって?」 「その・・な。昼間言った言葉本心なんだぜ?少しは信じろよ」 イブを一緒に過ごしたい・・・本気で言っても快斗が困るだけだと思って冗談で流したが、あれは新一のまぎれもない本心だった。 「解ってたよ。」 だからこそ快斗もグラリと来たのだ。新一の優しさにつけこんで冗談に流してしまったが。 「ちぇっずるいよな。」 「それはこっちのセリフ。やっぱり言ってくんないもんなー。す・きって」 「言えるかっっ」 んな恥ずかしい言葉っ。 「最初新一見たときすっごいビックリした。」 「あ?ああそれであんな顔してたのか。珍しいなと思ったら。俺だってビビッタぜ。目の前に女が立ってやがるもんな」 この姿の時はもう鏡は見ないと決めたほどだ。 「だから余計に不安になっちゃって。すっっごく綺麗だったから。」 「バーロー。誉めてもなんにもでねーよ。」 「照れちゃって。」 「照れてないっっ」 むきになる新一にクスクス笑うと快斗は新一を頬に唇をよせ 「メリークリスマス新一」 耳元で囁いた。」 「うん。メリークリスマス快斗」 まだイブだけどな。心の中で付け加えつつ新一は快斗の胸に顔をうずめた。 どうせ明日もまた言うのだ。 でもいっかと思う。 こーゆー言葉は何度言っても楽しいから。 イブも本番も一緒に過ごせるのって凄く幸せな事だよな。 「ちょっとおなんで快斗君がここにいるわけ?」 「知らなーい。さっき来たみたい」 「おかしいですね。時間的にムリが・・・」 「・・・・困った人達ね。まあ今ならどれだけいちゃついても違和感ないけれど。」 「新一かわいい・・」 一枚の完成された絵画のような美男美女の二人はどこからどう見てもラブラブバカップルだった。 だが人々がそんな素晴らしい絵画を鑑賞している最中無粋にもダカダカと踏み込んだ者がいた。 「すみませんっっこちらに怪盗KIDが逃げ込まれませんでしたか?」 ばあぁんと勢いよく扉を開き飛び込んできたのはご存じ中森警部である。 青子が額を押さえお父さん・・・とため息を付くのをよそにその後から5.6人の警官が入ってきた。 よもや警察に踏み込まれるとは思いも寄らない人々は何事かっと息を潜めて見守っていた。 「・・・快斗」 「ごめん・・」 アイコンタクトでそれだけ会話すると新一はすっと快斗の手から宝石を奪い中森警部に近づいた。 「すみませんがちょっと外へ。」 出来るだけ高いで小さくささやくと警察をつれて新一はパーティー会場から隣の小さな部屋へと移った。 「先ほどこれをKIDが・・・」 「置いていったのですな?なにかキザなセリフとともに」 「ええ・・はい。」 最初は新一の美貌に声もでなかった中森警部が白い手袋をはめた新一の手から手渡された宝石にようやく我に返った。 なんとかばれないように小さな声で必至に頼りなげな顔をする新一。 「大丈夫です。これは我々がきちんとお返ししておきますのであなたはご安心ください。 それでKIDを間近でみたのですよね?」 「・・・・その・・よく顔が見えなかったので・・・」 苦し紛れの言い訳も新一が申し訳なさそうに言うと信じようという気になる。 「そうですかそれは残念。あ・・いやお気になさらないでください。ご協力感謝いたします。」 「え・・ともう帰ってもいいですか?」 「はい。ありがとうございました。」 「いえ。こちらこそ」 あでやかに微笑まれ中森警部と警官はわたわたと顔を赤くする。 微笑むと氷のような美貌が一瞬にして花が咲いたような柔らかいものになったのだ。 自分の笑顔の効果をよく知っている新一は最小限の笑みでその場を後にした。 「あーーーーーーーーーーやってらんねー。酒ーー酒もってこーーーーい」 自分のせいもあり快斗はそろそろ止めた方がいいよ?といいつつ次のワイングラスを差し出していた。 中森警部にこの姿を見られたのがむかついたのか(正体はばれていないが)新一は超絶不機嫌だった。先ほどまでのラブラブムードはどこへ・・・と中森警部を恨みたい気分の快斗だ。 一応気を使っているのか小声で叫んではいるものの周囲の6人は今にもバレはしないかとハラハラしていた。 頬に赤味がしさ足下もおぼつかなくなっている新一に快斗は困った顔で紅子に助けを求める。 「彼のめんどうは貴方の役目でしょ?」 「だって今日は逆らえないもんーー」 ワインを取り上げると「誰のせいでこんなに不機嫌なんだ俺?ああ?」 と脅されるのだ。さすがの快斗もこれには勝てない。 「でも哀ちゃんに刺激の強いものはあんまりとらないでって言われてるじゃんーー」 体のためだよ? そういうのに新一のやけ酒は止まらない。 途中からワインの替わりにグラスに水をいれて手渡していたが味がもう解らないのかご満悦で飲んでいた。それに快斗はホッとする。 そのうちとうとう酔いが回ってきたのか手近なソファにぐったりしてしまった。 それを見て快斗は苦笑をうかぺるとよっこいしょと新一を抱きかかえたのだった。 「そっのこちゃーーん。シャッターチャーーンス」 目の前のソファでくたばる可憐な美女をひょいっとお嫁さん抱きにした快斗はクルリと背後を振り返り笑顔でそうのたまった。 ほぼ自分と同じ身長の人間を抱えているとは思えないほど軽やかさだった。 満面に笑みをたたえ愛おしそうに腕の中で眠り続ける少女を見つめる快斗に回りの女性陣がノックアウトを食らった。例えるならば童話に登場する王子様である。さしずめ新一は眠り姫と言ったところだろうか。 あんな瞳で見つめられたい。 また男性は男性で安心したように体を預ける新一を見て、快斗を羨ましいそうに見つめていた。 美男美女の夢のような光景だった。 それを免疫があったにもかかわらずポカンと口を開き目を奪われていた5人が慌ててカメラを撮りだしシャッターを切りだした。 「園子・・みっともない」 「なによお父さんだって欲しいでしょこの写真。」 「いや・・欲しいかと聞かれたら欲しいがだが・・・」 「今しか撮れないのっ今日を逃したらもう一生こんなチャンスこないんだからっっ」 力説をしつつバシャバシャとりまくる園子。 それに快斗はウインクをおくると、 「そろそろダメよーーん。これ俺のだからね。んじゃ先帰らせてもらうよ園子ちゃん。」 「はいはい。気を付けてねー」 写真もとれて満足顔の園子は手をぶらぶらふってまったねーと送り出す。 「それと写真は全部俺用に焼き増しする事。こいつには一枚たりとも見せるなよっ。ばれたら全部没収されるぞ。」 それに5人が一斉にコクコクうなづく。 それだけわかってればいいよ。 とにこやかに微笑むと快斗は新一を抱きかかえたまま優雅に会場を後にした。 「あの子も高校生かね?」 あまりの堂々とした態度に園子父は困惑したように園子に尋ねた。 それに園子は親指を立てると嬉しそうに言った。 「そうよ。自慢のお友達の一人なんだからっっ。」 きり番部屋 前編へ おまけへ |
はい。彼が悲劇の人です。
甘甘ラブラブー。近くにいたら写真撮るかはり倒したい二人ですね(笑)
2001.12.24