11111ヒット有り難うきり番小説   

万葉様に捧げます。



バレンタインってどんな日?ACT1




風は凍り花々は散り、星空はとても綺麗に晴れ渡るそんな極寒のこの季節のお話だ。

2月14日

これを聞いてなにそれ?と聞くような野暮な奴は世の中には少ないことであろう。
特にこーゆーイベント好きの多い日本人ならなおさらのこと。
そしてもちろんここにもそれを大いに楽しみにしている人がいた。

「ふんふんふふーーん♪」
「楽しそうねタケル君。」
何故か『犬のお巡りさん』の鼻歌をうたいつつ(にゃんにゃんにゃにゃーんの部分らしい)帰り支度をするタケルに未だ日直の日誌を書いていた光は顔をあげ興味深げに声をかけた。
今の席は先週席替えによって新しくなったばかり。
タケルは光の前の席となった。
そして大輔はタケルの前の前の席だ。
いわば直列して三人は並んでいた。

だからこそ光はよく分かったのだが、タケルという男は常に・・ほんっっとうに常に大輔を見つめている。
直列とはいえども、今の席は一番左の列窓側である。黒板をみるにしても先生の方を見るにしても、どうしても斜め右を見るはずなのだ。それが何故かタケルはひたすらまっすぐ前を見つめている。
前の席に座る女子など通り越してその前に座る最愛の人を見つめ続けているのは考えるまでもなく光には解った。
「・・というか解らないほうが変ね。」
幸い光が一番後のため、この奇行に気付いているのは多分担任くらいな物であろう。
そんなタケルがここ最近何故かご機嫌である。
これは大輔となにか進展があったのか?と光は実は気になって仕方なかった。

「え?そう?」
鼻歌を歌っていた自覚はないのか振り返りキョトンと尋ねられた。
「ええ。此処最近ずっと楽し気よ。何て言うか・・・ついスキップしちゃいそうな感じ?」
それにタケルはハハと笑うとよいしょっとランドセルを背負った。
「鋭いなぁ。まあそんな感じだよ。でも理由は内緒♪」
軽く顔の前で人差し指を振り、慣れた調子で片目をつむるタケルは一般的小学生男子を超越したスマートさを醸し出していた。

「えーヒントくらい教えてよー」
目立つ天然の色素の抜けた髪を帽子で隠し、ようやく一息ついたように微笑むとよしっとばかりに体ごと光を振り返った。
「だぁめ」
それだけ言うとバイバーイと手を振って前の席で同じく準備完了の大輔に近づき一言二言かわした。
ええーと不服の声をあげている光など全く無視した状態でタケルはデレデレの瞳で大輔のみを見つめている。大輔はというと前はあんなにつんけんしていたのに最近は柔らかな笑顔をタケルに向けるようになった。
それがまたタケルの心臓の真ん中をぶち抜いているのだろう。タケルのそんな見るに耐えないだらしない顔を光は目撃してしまい体全体に倦怠感を感じた。
簡単に言えば『阿呆くさ・・』と言った感じである。

「光ちゃんまた明日な」
開いた日誌に顔をつっこみ脱力感に耐えていた光に大輔はひまわりの花に負けないくらい明るい笑顔で手を振った。
「ええ、また明日。」
なんとか笑顔を取り繕い返事をすると二人は仲良く教室を後にした。

「気になるぅぅぅぅぅぅ」
解らないと余計に気になってしかたないそんな光を置いて。








最近女の子の目が生き生きし始めたような気がする。
今までだってそりゃ生気溢れる元気な感じはしたけど、最近はいつもに増してパワーがみなぎっているようだった。それは・・そうバーゲン前の母のごとく。
何かあんのか?
そんな大輔の疑問は家に帰ったらすぐにわかった。

「きゃぁぁぁぁぁぁ」
「・・・・・」
姉の悲鳴がどこからともなく聞こえてきた。次いでドンガラガッシャンと派手な音も。
それに特に慌てるでもなく、大輔はゆっくり靴をぬいでとりあえず声の聞こえた辺りへと足を向けた。
無視して行くと後で愚痴愚痴文句を言われるからだ。
「なにやってんだよ?」
「見ればわかるでしょ」
「見てもわかんねーから聞いてんだよ」
大輔の姉じゅんは今台所にて見事にスッコロンでいた。
母のフリフリエプロンを勝手に拝借したうえになにやら茶色いものでべとべとに汚していた。
ありゃ後で大目玉だな。
このエプロンは父が結婚記念日に母にプレゼントしたものらしくとても気に入っていたのだ。
しかしこの姉器用な転び方をしたものである。
多分手にもっている何かを守ろうとしたのだろうと思い大輔はとりあえず両手がふさがって起きあがれない姉の手からその物体を預かった。

「はーー助かった。とりあえずありがと。それ返して」
「なんだよとりあえずって」
横柄な態度に眉をよせつつ手の中の物体銀色のボールを手渡した。
「それチョコか?」
「そうよ。だってもーすぐバレンタインでしょ?」
「あーそういえば・・ってまだ2月始まったばっかだぜ?」
「何言ってるの。愛しのヤマト様へ私の愛のこもった手作りチョコをプレゼントをする日なのよ。
今から準備しないでどうするのっ。」
「どうするのって・・」
「完璧に作れるようになって誰にも負けないおいっっしいチョコプレゼントするんだからっ。
『料理上手なんだね』『いえ・・そんな事』『君の作ったみそ汁が飲みたい』・・・とか言われちゃったらどーしよぉぉぉ」
チョコと木べらの入ったボールを腕に抱え込みいやいやーんと体をひねる姉に大輔は内心「ないないっ絶対に」と思ってはいたものの、反撃が怖いため微笑にとどめておいた。

「とにかくっ冷蔵庫のチョコは勝手に食べちゃだめだからね」
「わあったよ。」
「よし。それじゃあここから出ていってジャマだから」
「ふぁぁい」
そんな姉の態度にも慣れたもので、大輔はやれやれとばかり自分の部屋へと入った。


ようやく降ろした鞄の中からチビモンがひょっこり現れて
「おいしそうなにおいだったね」
「ん?ああチョコな。お前勝手に食うなよ?あとであいつがうるさいからな」
大輔の言葉にチビモンは素直にうんと頷く。
「わかった。でもちょこいいなぁ・・」
口元に指をあて羨ましげにドアを見つめるチビモン。きっとその瞳はチョコまみれの台所を映しだしているのだろう。
「・・・うーん」
自分のサイフの中身とこれからの出費を考え首をひねる。
傍には目をキラキラさせ期待大のチビモン。
そしてまだちょっとだけ余裕のある自分のサイフ。
「仕方ねー。一個だけだぞ?」
「やったぁぁぁぁぁ」
ウキョウキョッと飛び跳ねて喜ぶチビモンに優しい瞳をむけ、大輔は苦笑した。
欲しい漫画があったけど、まぁいっか。
こんなに喜んでくれるんだしな。



コンビニの前で、チビモンを抱えた大輔を丁度道路の向かい側で見かけた太一は颯爽と道路を横切り全く自分に気付かない様子の相手に声をかけた。
「よおっ大輔。」
「あっ太一先輩?こんにちは珍しいですね」
よもやこんな所で太一と会うとは思ってもいなかった大輔は慌てて振り返り腕にチビモンを抱いたまま勢いよく頭を下にさげた。その拍子にチビモンが情けない声を出したが大輔は無視をきめこんだ。

「ああちょっとこっちに用事があってな。それよりお前どっか行くのか?」
「はいコンビニに。チビモンがチョコ食べたいって言いだして。」
もうすぐ夜ご飯の時刻だからだろう太一が不思議そうに尋ねると大輔は目の前のコンビニを指さし苦笑を返した。
「ちがうよーいってないもんーーーただいいなぁぁっていっただけだもんっっ」
「あーごめんごめん。そうだよな?お前ねだってはいないなそーいや。んじゃいらない?」
「やだぁぁぁぁだいしゅけのばかぁぁぁ」
涙ながらに訴えるチビモンに大輔は楽しげに笑い出す。
「嘘嘘っほらっ暴れるなってこらっ」
チビモン見つめる大輔の笑顔はほんとうにとろけそうなほどでいつもの元気のいい笑みとは違い柔らかく、ドキッとさせられるほど大人びていた。

「それじゃあかってくれる?」
「当たり前だろ?一度言った事を取り消すほどけちな男じゃないぜ俺はっ」
「えへへ。よかったあ」
そんな二人の会話を側で微笑まし気に聞いていた太一は中学の制服姿のままコンビニまで大輔にくっついてきた。それに怪訝な顔で大輔は尋ねる。
「太一先輩用事は終わったんですか?」
「ん?まあな。それよりどれ買うんだ?」
大輔の素朴な疑問を軽く受け流すと太一は反対に質問で返した。

そっと足下を見ると大量の種類のチョコを前にうろうろするチビモンがいる。
どれにしようかなぁ。これ前食べたしーあっこれもおいしかった。でもこれも食べたいしなあ。
あっ新作っまだ食べてないやつがあるっ。
いろいろ呟きながらチビモンは一生懸命小さな頭をフル回転させていた。
「さあ?こればかりはチビモン次第ですから。ゆっくり待ちますよ。」
「そうか。しっかしお前意外に甘やかしてんのな」
「そうっすか?」
「ああ。だってチョコレートだって安くないだろ?こいつなんか全破してないか?」
「・・・そういえばそうですね。甘やかしてるのかなぁ?」
でもチビモンの嬉しそうな顔を思い出すとどうしても買ってあげたくなっちゃうのだ。
まるで孫にメロメロのおじいちゃんのようだ。

「でもチビモンが自分からねだったことは無いんですよね。なんかねだられるより我慢されるほうがどうしても買ってあげたくなっちゃうみたいで。これって甘いのかなやっぱり」
その気持ちは妹を持つ太一には痛いほどわかる。
買って買ってーと泣かれるより目がお菓子に向いているのに「なにかいるか?」と聞いて「ううん。いいよお兄ちゃん」と笑顔で断られるほうがやっぱりああ・・買ってあげたいという気持ちにさせられる。
「ま、俺も人のこと言えないからな」
ポンッと大輔の頭に手をおいて笑いかけると大輔は驚いた顔をした。

「太一先輩も?あーそういえばよくヤマト先輩が言ってますよね光ちゃんに甘い甘いって」
「まあな。自覚はないんだけどなー」
「あははは。俺と一緒っすね」
「全くだ」
あはははは。
二人して笑い出したころようやく数あるチョコから一つを決めたチビモンが小さな両手に抱えて持ってきた。
「これーーーーこれっっこれっっ」
「はいはい。ん?これでいいのか?」
「うんっ」
チビモンが手にしていたのはバレンタイン用にラッピングされたチョコレートだった。
これは多分高いぞ。
内心どうしようかなと思いつつ値札を見たらなんと200円だった。
予定よりちょっと高かったが買えない値段ではない。
「んじゃ買ってくるな」
「うんっっ」
きっと包装されているせいで中が解らないのが魅力的だったのだろう。
そう見当づけた大輔の予想通りどんなチョコだろうかと今からチビモンはワクワクしていた。
早く帰って中身が見たいぃぃ。


「あれ?大輔君」
コンビニの外からそんな二人と一匹を見かけ、まさか太一さんと約束してたんじゃっと疑いの目でじっと見つめていたタケルは大輔がバレンタインのチョコを買ったのをみて小躍りした。
僕のっっ僕のだきっと。




・・・・・・・それが先週の話だったのだ。
そして今のひじょうに上機嫌なタケルが出来上がったというわけなのだった。
どうする大輔。




そんなこんなで時はすぎすでにバレンタイン前日。
丁度大輔と二人になる機会が訪れたため、ずっと気になっていたことを光は尋ねる事にした。
「ねえ大輔君。今年のバレンタインはどうするの?」
「は?どうするって?」
「だってチョコ―――――」
「ああ今年は何個もらえるかなぁ去年は母さんと姉貴と光ちゃんとー後京とーん?後何人かもらった気ぃすんなー」
意外に女の子に人気の大輔はこれでもチョコはもらえるほうだ。
なにせ友達が多い。
『ギリねー』『おーサンキュー』のように軽々しく渡せる貴重な男子なのだ。
大抵はギリである。だが中にはギリに便乗した本命などもいたりしたが、生憎直球ストレートしか受け付けていない大輔には伝わるはずもなくそのまま義理で終わってしまったりしている。実に哀れ。

そして反対にタケルではもちろんギリなんておそれ多くて渡せない。
毎年タケルがもらうチョコは光と母(今年から京がここに仲間入りだろう)以外は本命ばかりだった。もちろん本人は気付いていて気付かないフリをしたりしている。実に世渡り上手な男である。

どうやら自分の言いたかった事は伝わらなかったらしいが、その前に意外な事を聞いたとばかりに光は驚いた顔で大輔をまじまじと見つめた。
「へーそんなに貰ったんだ?」
「でも光ちゃんのが一番嬉しかったぜ?あれ作ったんだよな?おいしかった」
「うん。でもチョコって結構簡単に出来るわよ?溶かしてもう一度固めるだけだし」
「ふ・・世の中にはそれすら出来ない奴もいるんだよ」
姉の事を思い出しはかなく遠くを見つめる大輔。
「それって大輔君のこと?」
「はぁぁぁ?何で俺がチョコなんて作るんだ?」
「何でって・・」
え?だってチョコあげるでしょ?タケル君に。
うそっでもこの目は本気で言ってるわ。それじゃあタケル君は今年も本命からチョコもらえないって事?やだっ可哀想。

「だってあれは女の子の行事だろ?」
「でもタケル君には・・」
「なっっっ」
まさか自分たちの関係を知られているなんて思ってもいなかった大輔は顔を真っ赤にして三歩ほど後に吹っ飛んだ。
「え?」
まさか私に気付かれている事に全く気付いていなかった?・・・・鈍すぎるわ大輔君。
驚いた大輔に反対にこちらも驚いてしまい光は後方に吹き飛んだ鈍い彼を振り返った。
その彼は真っ赤な顔を片手で隠し右手をあわあわ体の前で動かしていた。
あきらかに動揺している。
「ねえ大輔君。」
「はひっっ」
怯えたように返事を返す大輔に光は苦笑するとお互いの為に話題を急激に変化させることにした。

「あのね?この間聞いたんだけど芦屋湖にアッシーが出たんですって」
「へ?アッシー?」
「そう恐竜よ。ビックリよねー」
突然の話題転換に頭がついていけずボケッとしてしまったが、まるで先ほどの事が夢だったかのような光の態度に大輔はどんどん落ち着いてきてその話題にのることにした。
「恐竜って事はでっかいんだよな?芦屋湖ってどこらへん?」
「さあ?」
実在するかもわからないわ。
適当な作り話のため光にも芦屋湖について尋ねられても困ってしまう。
「そっかーでも本当にいたら楽しいよな?学校の近くの湖にもでねーかなー。ってかあれ湖っていうより水たまりだけどなははははは。」
「そうね。せいぜい校長の鯉くらいしか泳いでいないわよね」
「こないだあそこにドジョウがいたらしいぜ。」
「えっうそっ」
「ほんとーー」
いつのまにやら話題も変わっていき、光もほっとする。
しかし重大な事実を知ってしまった。
大輔がタケルにチョコを渡す気はない・・・大変だタケル君に教えておくべきだろうか。
当日にがっかりするのと今がっかりするのどちらがダメージが大きいのだろう?
どちらもどちらのような気がして光はためらってしまう。
あああ・・・大輔君お願いタケル君にチョコをあげてぇぇぇ。
私が耐えられないっ。


きり番部屋   ACT2

2002.02.14