午前0時の時を告げる秒針が辺りの空気をふるわせたその瞬間小さな機械音がカチリと鳴った。

だれも聞く者のいない暗く静かな空間に。







      
続・小さな結託(前編)




それは朝から始まった。


『グッドモーニーーーーーーーーーーーーーン、コナンちゃあああああん。』


 朝っぱらから超ハイテンションな声が耳に届き蘭についさっき叩き起こされたばかりで眼鏡もかけておらず、寝癖をぴょこんとさせたままのコナンは受け取った受話器を即座に電話に叩きつけた。  



ガッシャンッッ



あまりの問答無用さに傍で目をこすりながら見ていた蘭は目を丸くした。

 「コナン君。それってちょっと失礼じゃない?」

 「・・だって眠いんだもんーーーー。まだ朝の6時だよ?信じらんなぁい」

同じく目をごしごしやりながら大きなあくびを一つ盛大にする。

 「まあね。私も時計見てびっくりしちゃった」

相変わらずの思い立ったら即行動の快斗に蘭は苦笑してしまう。

 「はっきり言って僕より快斗兄ちゃんの方が失礼だってー」

唇をとがらせるコナンに蘭も内心「確かにそうね」と思ってしまい慌てて首をふる。

 「とにかく何か急ぎの用があるかもしれないし、電話かけなおそ?」

電話を指さしたその瞬間ベルが鳴り驚いた蘭は慌てて指を引っ込めた。

 「・・・・・」

 「・・・・出ないの?コナン君」

 「・・・・・・・・・・・・・・・電話線抜いちゃだめ?」

小首を傾げ可愛らしく聞いてみた。

 「コナン君」

同じく蘭もニッコリ笑うと手近な柱に一撃加えた。


メシメシ。


不吉な音が聞こえてきた。

 「電話・・・出るよね?」

 「うん。すっごく出たくなってきた」

だから家破壊すんなよな。


 「はい?」

 『やあっと出てくれたね。52回と半分待っちゃったよん』

諦めろっ途中でっ
俺なら5回で諦めるぞ
そう言いたいが隣りでまた切らない用に蘭が見張っているためコナンは心と裏腹に笑みを深めた。



 「何のよう?快斗兄ちゃん」

くだんねー用事だったらただじゃすまさねーぞという凄みは果たして快斗に伝わったのか相手はそのままの脳天気な声で答えた。

 『今日ってー何の日だーーーー?』

ご機嫌に尋ねてくる快斗にコナンは隣りに立つ蘭に軽く目配せすると小さく笑った。

 『ねっねっ答えてーーーー』

 「快斗兄ちゃんの誕生日」

 『やったあ覚えててくれたんだねっ。やっぱり愛?』

例え愛がなくとも覚えているだろうなにせ

 「だって昨日・・うーん正確には9時間前に電話でくどいほど確かめられたしね。記憶喪失にでもならない限り覚えてるんじゃないかな?」

 『―――――そうですね。しくしく。つれないお言葉。でも、まあそう言うことでーお誕生日プレゼントにデートしよーー?全部俺が奢るからさっ』

自分の誕生日に奢るというのもなにやら間違っているような気もする。

 「今日は用事があるんだ」

 『えーーーーーやだーーねーねー夕方とかは?』

 「ごめんねーずぅぅっと前からの約束だから断れないんだ。」

隣りに蘭が居るせいか珍しく素直に謝るコナンに快斗もそれ以上我が儘を言えずしぶしぶ退散する。

 『それじゃあ、また今度つきあってね』

 「うんっ」

軽い口調のコナンに不審を抱きつつも快斗はそれ以上渋ることなく電話を切った。
だってなんかどんどんコナンの声がいらついて来始めたから。
きっと隣りにいた蘭は気付かなかっただろうけど半音声の高さが落ちていた。危険な兆候である。

 「コナンちゃんのバカァァ」

小さく呟きながら肩を落とす快斗の姿をこんな朝早くに起きていた母はそっと影から見つめていた。

 (あらあら。ちょっと可哀想だったかしら?)





電話を切ったコナンは蘭の方へ振り向くとVサインを送った。
会話を聞いていた蘭は両手をまるで祈るような形に組むと感動に目をキラキラさせた。

 「すっごーいコナン君っ。ナイス演技っプロも真っ青よっ」

 「そうかな?そんなに言われると照れちゃうよ蘭姉ちゃん。」

女優の息子ならこのくらい朝飯前だが、そんな事を言えるはずもなく器用に頬を染め照れた振りをするコナン。
なにせ日々演技してるからな。うまくもなるって。
そう思うとちょっぴり悲しくなるコナンだった。

 「とりあえず僕は下手に動けないから蘭姉ちゃん準備の方お願い」

 「任せといてっ」






 「つっまあんなーーーい」

一昨日からずっと自分の誕生日をコナンにアピールしてきたのは今日誘おうと思っていたから。
なんでさっさと誘わなかったかって?
ああ、本当に失敗だよな。本当はこーゆーめでたい日くらいコナンちゃんから誘ってくれないかなぁ?なんてちょっぴり期待してたんだよ。

あーあー。そんな事するわけないよね相手はあの江戸川コナン様だし。
ごろんっとベッドに転がると寝返りをパタパタうつ。
いっそ寝てしまえと思ったけど眠気はすっかり覚めてしまった。


 「予想はしてたけどまーさかずっと前から約束入ってるなんてなー。さすがにそれをキャンセルしろなんて言えないし。」

一応それなりに常識はあるらしく、快斗も残念だが諦めはしている。
でもやっぱり寂しい。

 「こんな事なら青子達の誘いに乗ればよかった」
 

今更である。
青子も紅子も白馬も暇だったらご飯くらい奢ろうか?と誘ってくれた。
それでもコナンとの未来を夢見ていた快斗は全て断ってしまったのだ。
ああ・・大失敗。

 「う゛ーーーーー暇ぁぁぁぁ」

断った手前誘うのも気がひけ、快斗は今日という日をどうやって過ごそうかと上布団の上をゴロゴロしながら考え始めた。
誕生日に家でゴロゴロって最悪な気ーするよな。
母さんと買い物?なんかやだ。
散歩?まあ天気もいいしそれでもいいけど青子達に会うとなんだかなー。


 「あ、そうだ。久しぶりに寺井ちゃんにでも会おっかな」

それに最近仕事部屋の掃除も怠っている。一応寺井ちゃんに任せちゃいるけどなんか補充しとくもんないかチェックだけでもとしこっかな。
そうそう俺も一つ歳とったんだしそーゆー所きちんとしとかないとな。
思い立ったらすぐ実行の快斗はそこまで考えがばりっと上半身を一気に起こした。

 「よっしゃ。きーまりっ。」





 「寺井ちゃーーーんいるーー?」

寺井の経営するビリヤード場にやって来た快斗はひょっこり顔を覗かせカウンターを見てみる。
まだ9時だし店も開いていないかな?と思いつつやってきたが、どうやら寺井はもう出勤しているらしい。

 「快斗ぼっちゃま。どうしたんですこんな朝早くに?」

カウンターでキューを磨いていた寺井は慌てて机にそれを置くと快斗の方へと駆け寄ってきた。
てっきりなにか大事が起こったとでも思ったのだろう。

 「うーん暇だったからさ」

言いあぐねた風の快斗に寺井は小首を傾げるとそういえばと続けた。

 「お誕生日おめでとうございます。きっとあの世で盗一様も喜んでいらっしゃることでしょう。快斗ぼっちゃまがこんなに大きくなられて」

う゛う゛・・とポケットからハンカチを取りだし泣き出す寺井に快斗はまいったなあと頭を掻き寺井の背中を叩いてやるのだった。

 「ほら寺井ちゃん泣きやめよ。準備の途中なんだろ?」

 「ああ。そうでした。すみませんみっともないところをお見せしてしまって」

 「寺井ちゃん今日って忙しい?」

 「ええ。休みの日は大抵客足が途絶える事がありませんから」

 「そっか。んじゃいいや。」

 「?」



仕事のある寺井のジャマをするわけにもいかない快斗は顔も見たことだし、と次の予定へと移ることにした。仕事部屋は結構多い。
しかも一つ一つ顔を見られないようにするか変装するかしていかなければならないためめったには行かないことにしている。

(でもそーいやこないだ私物一個運んだよな。)

絶対の約束事として私物は置かない。または髪の毛等にも気を付けるようにしている。
だが以前2ヶ月くらい前だったかそんくらいにでっかい私物を持ち込んだ。
あの時は寺井に見つかって呆れられたものだ。

さすがにコナンラブの快斗を知っているせいか処分しろとは言わなかったがせめて家に持ち帰れと言った寺井に、
 「だって家の玄関くぐれないもん。でかすぎて」
と口を尖らせて駄々をこねた。

 「仕方ないですね・・・」

諦めて寺井がこの言葉を言うまで延々と駄々をこね続けた快斗は粘り勝ちの商品にあの部屋を譲り受けたのだ。
だだし、ここには怪盗の姿では絶対にこないという条件の下に。


 「あれ先月くらいまではちょくちょく仕掛けが発動したか見に行ってたけどしばらく行ってねーなー」

いろいろな事があったせいですっかり忘れていた。
落ち込んだ時などにあの写真を見て心安らいだりしていたが、最近は何故かコナンにつれなくされる事も少なかったせいか、写真を求める気持ちが薄かったのだ。
でも今日はきっぱりつれなくされたしあの写真みて心を慰めようかなぁ。
ついでに仕掛けの方もちょっくら見ておくか。




 「んじゃ寺井ちゃん俺行くとこ出来たからまた来るな」

ここでも思い立ったらすぐ行動した快斗は即座に動き出した。

 「え?あ、はい。行くとこ?」

一体何をしに来たのかさっぱり分からぬまま、寺井は慌てて一体どこへ行くのですかぁぁと去りゆく背中に声をかけた。
それにてっきり答えはこないだろうと思っていたが快斗の素晴らしい耳は聞き取りクルリと遠くで振り返り叫んで返した。

 「こないだコナンの写真運び込んだ部屋あああーーーーーじゃあなーー」

大きく手を振り満面の笑みで去っていく快斗を見て寺井は思わず唇の端がほころんだ。

 (本当に良い子に育ちましたよ。盗一様)


寺井は快斗の後姿がすっかり見えなくなったころ、店の電話を取り手帳を見ながらある所へと電話を掛けた。

 「寺井です。ええ。ぼっちゃまはあの部屋へ行かれました。ちょっと予定より早いですが作戦を始動して下さい」




 「あー癒されるぅぅぅ」

あの部屋で快斗はゆったりくつろいでいた。
でっかいコナンの写真を見つめ好きな音楽をかけ、優雅に一人ココアを飲む。
至福の時である。

 「サイコーー」

どことなく虚しい風が吹き荒れるがとりあえず快斗はそんな事は忘れる事にして、今は幸せだと思っておくことにした。

 「この部屋に他のコナンちゃんの写真も貼っておこうかなぁ。そしたら見つかって没収って事もなくなるしー。
よしっここをコナンの部屋と名付けようっっ」

うむうむ。

腕を組んで良い考えだと自画自賛してから独り言がいかに寂しいかを感じた。

 「でも一人の時ってやっぱつい独り言つぶやいちまうんだよな」

大抵誰かにかこまれている快斗はあまり一人には慣れていない。
なんだかんだ言って親の愛情はたっぷり受けているし、友達も今まで居なかったことなどない。
誕生日だって一人で過ごすなんて実は今年が初めてかもしれない。


母は大抵誕生日には友達と遊びに出掛ける快斗のために自分自身遊びに出掛けてしまう。
家に母を一人で残すのを心配する快斗のために。

多分今家に帰っても誰もいないんだろうな。
うーんこんなミスするなんてバカだな俺。
それに今日は予定無いなんて言ったら母さん余計な心配しそうだし、下手したら友達と遊ぶ約束キャンセルしちまうよな?んな後味悪いことさせたくないしなー。


 「うーーーーだめだ滅入ってきた。コナンちゃーーん」

写真に集中する。

 やっぱかわいーー。

うっとりしている間だけはとりあえず現実を忘れられる。
今度今日の替わりに付き合ってくれるって言ったし、どこ行こうかなぁ。

そうこうしているうちにすっかりウトウトしてきた快斗はいかんいかんと頭をふる。
寝るなんてもったいない。
今日という日は今しかないのに。

 「あーもうお昼じゃん。早いなー」

なんとなくお腹も空いてきたし飯でも食いに行くかーと立ち上がった快斗はまだ仕掛けの方をチェックしていないのを思い出した。

 「そーだった。どっか開いた所ねぇ」

額縁をゆっくり調べ始める。

 「・・・・あれ?」

どこも開いたところは無かったが額縁の立てかけてある後の床に小さな鍵が一つ落ちていた。
これは

 「コインロッカーの鍵?」

パチクリと目をしばたかせると快斗は小さく微笑んだ。
やったね暇つぶしー。





 「こちら青子。作戦2発動します。」

右手にキーを持ちチャリチャリと投げたりパシッと取ったりという動作を繰り返す快斗を影からそっと覗いていた青子は手にした携帯で連絡をいれた。
そしておもむろに鞄からサイフを取り出すと中身を数え始める。

 「うん。大丈夫っ」

もちろんそんな影の行動に気付かない快斗ではない。
さすがに距離があったせいか声は聞こえなかったものの、青子の気配ぐらい感じていた。

 「なぁにやってんだアホコっ

 「え?」

いつの間にか前方に居たはずの快斗が背後に立っていて青子は目を見開いた。

 「か・・快斗?」

 「なんだよ俺がここにいちゃ悪いかよ」

 「悪いに決まってんでしょっ。さっきまであそこに居たじゃないっっ」

 「ほー見ていたのかー」

あ・・・墓穴をうまく掘った青子は慌てて自分の口を押さえ上目遣いで快斗を見つめた。
ここでしくじるわけには行かない。

 「か・・快斗こそ今日用事あるって言ってたのになんでここにいんのよ」

 「用事がつぶれたんだよ悪いかっ」

 「えーなんだ。昨日言ってくれれば仲間に入れてあげたのになー」

・・・今日の朝だよちくしょーめ。

 「仲間ってなんだよ」

 「あのねー園子ちゃんがおいしーケーキのお店教えてくれたの。だから今から紅子ちゃんと一緒に食べに行くんだー」

えへへ。と嬉しげにいう青子に快斗はヘッと鼻で笑う。

「たかだかケーキぐらいではしゃぐなんてお子様だなー」

 「なによーなんて言ったって園子ちゃんから三割引の券もらったんだから今日の青子は強気よっっ」

 「へーそーですかー俺には関係ないねぇ」

頭の後で手を組みそっぽを向く快斗に青子は焦った。

 (どうしようここでなんとか快斗を誘わないと・・)




 「あら?中森さん。それに・・・黒羽君まで?」

 「紅子ちゃん。あれ?なんでここに。」

 「約束の時間が過ぎてもなかなか中森さんがこないからちょっと迎えに来てみただけですわ」

オホホと何でもないことのようにいう紅子に青子はそっかあと脳天気に頷いた。

 「お前紅子とどこで待ち合わせしてたんだ?」

 「駅前の本屋さん」

 「・・・・」

あそこから青子の家には幾多のルートがある。大方赤魔術とやらで青子の通る道筋を調べたのだろうが、何故青子はそこの所を気にしないのだろうか?

 「でもすれ違わなくてよかったねー。」

 「そうですわね。とても奇遇でしたわ。」

オホホホホ。と口元を押さえる紅子はきっと青子のアホアホっぷりに感心していることだろう。

 「ちょうど居ることですしよければ黒羽君もご一緒します?お誕生日ですものケーキの一つくらい奢りましてよ?」

 「青子も一個くらいなら奢ってあげるよ」

うーんこれは魅力的な。
あの金持ちの園子が美味しいと言うくらいだからきっと美味しいのだろう。
しかも2個もただ食い。
だがポケットの中の鍵も気になる。
いや待て、俺はさっきお腹が空いていなかったか?そうだよ丁度いいじゃねーか。

 「そこの店ってなんか普通の食いもんもあるのか?」

 「うーんどうだったかなー確かパン系のならあった気がするー」

 「ホットサンドならメニューに載ってた記憶がありましてよ」

 「よっしゃー行く行くーーただケーキ食いーー。」

 「タダには弱いよね快斗って」

 「うるせー俺は年中金欠なんだよっ」

そんな快斗の言葉に紅子がクスと笑う。




どうせ怪盗なんてものやってるのに貧乏なんて不思議ぃとか思ってんだろ。
ひがみ根性で紅子を睨むが実際は普通の会話と普通の空気そんな普通の生活になじんでいる快斗を微笑ましく思って笑っただけのこと。

怪盗という裏の姿を見ているせいか、快斗に対する紅子の対応は少し大人びている。
それに対した快斗もやはりちょっと大人びた空気で返してくるため、紅子は時々こんな風に子供っぽい快斗を見ると目を丸くしてしまう。
相手に会わせているのか、それとも無意識にそういう対応をしてしまうのか分からないが、彼が一番大切な人の前でどんな対応をするのか興味を持ってしまう。
子供っぽいのか、かっこつけた態度か、それとも全く別の?


快斗のあのプライドを捨てたアタックを見たら紅子はきっと3日はうなされることだろう。




 「うまーーーー。うわさっすが園子お嬢様ご推薦のケーキ。うますぎっ」

ホットサンドでなんとかぺこぺこのお腹を押さえた快斗は次いでケーキ攻略へと進んだ。
結局ホットサンドとジュースは紅子が奢り、青子はケーキを2個奢るはめになった。
予定外の出費である。

 「快斗ちょっと静かに出来ないのっ」

 「いいじゃねーか誉めてんだし。それよりそれ一口くれっ」

 「もうっ」

自分のケーキを差し出し交換と訴える快斗に青子は大きくため息を付きながら食べかけのチーズケーキを差し出した。
快斗の食べていたチョコレートケーキは甘すぎずちょっと苦みが利いていて美味しかった。

 「紅子ちゃんっこれ本当に美味しいっっっ」

今度は青子が感染されたように叫びだし快斗のケーキを紅子に差し出す。

 「あっコラ待てっっ回したら経るっっ」

 「黒羽君。私のケーキも一口どうぞ」

これで文句はないでしょ?と言わんばかりに微笑まれ快斗は肩をすくめ紅子のアップルパイを頂いた。

 「あれ?これも美味いじゃん。ほれっ青子」

 「いいの紅子ちゃん?」

 「ええ。私もチーズケーキ一口もらってもよろしいかしら?」

 「もっちろん。」

 「チーズケーキも美味いよなー。うわーすげー園子ちゃん良い店見つけたな」

俺通っちゃうかも。快斗は陽気に笑う。
だがこの店はさすが園子の御用達だけあって高い。
遠慮なくバクバク食べる快斗とは対照的にもうこんな良い店これないかもと思った青子はゆっくりと一口一口を味わって食べていた。

 「あっおいしーパイがさくさくっ」

 「でしょ?チーズケーキもくどくなくていい感じでしてよ」

 「うーんもう一個どれにしようか迷うなぁ」

メニューを開いて真剣にケーキの写真を眺める快斗に青子は恨めしげな目を向けた。
青子の誕生日の時には絶対奢らせてやるんだからっっ。


そうこうしているうちに時計はすでに2時をさし、快斗はハッと我に返った。
しまったむちゃくちゃのんびりにしてた。

 「あれ?快斗なんか用事あったの?」

 「いやちょっとな」

曖昧にぼかす快斗にふぅんと青子は頷くとんじゃバイバーイと立ち上がった快斗に手を振った。
まったく未練なさげな態度にちょっぴりムッとする。

 「なんだよ追い払う見たいなその態度はー」

 「なによーせっかく人が親切に気ぃ効かせてげてるのに文句つけるってゆうのっ」

 「ああん気ぃ効かせたあ?青子にそんな芸当が出来たなんておっどろー」

 「うっわームカツクぅぅぅ。ちょっとそこに座りなさいっっ」

 「やっだねん」

そのままヒョイヒョイと沢山のテーブルをかわしながら店の入り口まですたこらさっさと逃げていった快斗に青子はグルグル唸りながら睨み付けてきた。

 「じゃーなー。青子。紅子。ケーキサンキュッ」

ウインクを一つ贈ると背を向けて走り出す。
下手な男がしたらお笑いもののその動作も何故か快斗がやればバッチリきまり、今までちょっとうるさい客がいるなと眺めていた店の人も、美味しいを連呼する少年に微笑ましいものを感じ騒ぎを見ていた客も一瞬目を奪われた。


 「これだから侮れないのよね黒羽君という人は」

一瞬だ。
ほんの一瞬とてもなんとも言えない雰囲気を出すときがある。
それが丁度今だったらしい。

 「ケーキ・・そんなに嬉しかったのかなあ?」

青子のそんな呟きに紅子はクスクス笑いだし、

 「そうかもしれませんわね」

相づちを打ったのだった。





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