クリスマスを貴方と……






クリスマスと言えば、古今東西恋人達のイベントナンバーの上位にランクされる特別な日である。
世の男どもはこの日の為に、愛する人を喜ばせたり吃驚させたりする為に、用意をしているものらしい。
ずいぶん前から計画を立てて、この日を指折り数えて待つ男どもの頭の中には無論、最終目的の事しかないのだろう。すこぶる機嫌よく、多少の相手のわがままに寛大になっている。



そして、ここにも同じように恋人達のクリスマスを夢見ている男が一人。




黒羽快斗。




高校生と怪盗の二足のわらじを履く日本一忙しい少年だ。

昼間は高校に通う普通(?)の少年だが、一度夜の街に消えれば白い装束を纏った気障な怪盗に早変わり。
亡き父の意志を勝手に継いだ少年は『あるはずもない』といわれる石を探して、犯行をくり返していた。


真実を知る為に………。


父の仇を討つ為に………。








な〜んて、深刻な一面を持つ彼にもついに春が来た。

世間一般で言う所の恋人なるものができたのだ。

自分の犯罪に後悔はしていない快斗が、先の見えない毎日の中で空しさを感じて過ごしていた中見つけた大切な愛しい人。
運命の神様がいるなら思わずその出合いに感謝した程の衝撃に打たれたと、後に快斗は語る。



運命の恋人・工藤新一。



お互いの立場は探偵と怪盗という極端なモノだった。

光と闇に別れて立つ二人。
そんな二人の出合いで怪盗は探偵に恋をした。

端から見ればそんな怪盗の想いは言語道断とも言うべきモノなのだろうが、快斗はあきらめようとはしなかった。

否、諦めきれなかった。

本気で恋して本気で欲しいと願った人。
初めての恋心なんて言うつもりもないが、実際これ程執着するなんて本人考えてもいなかっただけにその本気の程が伺えるであろう。




くる日も、くる日も口説いて口説きまくった怪盗の情熱に負けたのか?
鬱陶しくて「取りあえずOKすればいいかな…」なんて思ってしまったのだろうか?
とにもかくにも探偵は怪盗の想いを受けいれたのだった。
付き合ってみれば案外気があうかもしれないし……そんな簡単な動機だったかもしれない。




笑顔で手を差し伸べた探偵が、本当は怪盗と同じ様に恋いに落ちていたと知ったのは、探偵の家に同居人が一人増えてすぐのことだった。

お互い一目惚れだったなんて、本当に人の心は解らない。
新一も初めは解らなかった。
自分が何故、黒羽快斗という人物をすんなり受け入れたのに疑問を抱かなかったとか…。

他人を無意識に寄せつけない自身がその手だけ受け入れられたのかなんて。

知ってしまえば案外簡単な事だったのかも知れない。

初めて逢ったその日に恋いに落ちていたなんて……

快斗と新一は幸せそうに笑いあった。






そんな二人にも訪れた年末最強のクリスマスイベント。

隣の隣人曰く、ラブラブバカップルな二人にとっての初めて過ごすクリスマス。

そんなイベントに張り切らないはずのない快斗は、その日笑顔で愛しい人に切り出した。





「12月24日俺、新一迎えに行くからね〜〜」





クリスマスまであと1週間とさし迫った今日。リビングで寛いでいた新一に快斗はそう言った。
まだ高校生である二人には学業という本分がある。
例え警察に信頼厚き名探偵と言えども、世を騒がす世紀の大怪盗と言えども、こればかりはどうしようもない。
終業式が24日にある為に二人は学校に行かなければならなかった。
特に新一はただでさえ出席日数がギリギリである為に、絶対サボリなんて出来ない。
本当は朝からデートしたかった快斗も新一に留年させる訳にはいかないので、ここは涙を飲んで見送ることにした。しかし、人気のある新一の事。終業式に迎えに行かなければ、ここぞとばかりにクリスマスに浮き足立ってるクラスメートに連れて行かれてしまうに違いない。
だから快斗は迎えに行くと言い出したのだった。
そこまで気の回らない新一は不思議そうに首を傾げる。

「なんで?別に来なくてもいいだろ」

「ダメ〜〜〜!そのままデートするから迎えに行くの!」

「………………デート?」

「そう!クリスマスデート」

「…………………………」

ニコニコ笑顔の快斗とはよそに、新一は一瞬、困ったように口を閉ざす。
無論、そんな新一の僅かな変化を見のがさない快斗は「何?」と視線だけで問いかけてきた。

しかし、楽しそうにしている快斗の笑顔が凍ったのは次の一言だった。






「俺、クリスマスは両親とあっちで過すことになったから……」






しばし沈黙。

凍った笑顔のまま快斗は自分を取り戻すのに10秒も要した。
その間にかの優秀な頭の中にはどんな言葉が埋め尽くされたのか?
テーブルに乗り上げて快斗は断然抗議しはじめた。

「そんなぁ!!せっかく色々計画立てたのに?なんでだよっ!!」

そりゃそうだ。指折り数えてこの日を待っていた快斗にはまさに寝耳に水の話だったのだから。陶然、クリスマスは一緒に過すと思っていただけにショックはでかい。

「恋人同士になって初めてのクリスマスだよ?新一何考えてんだよ〜〜〜」

半泣き状態の快斗を尻目に、新一は実にのほほんと快斗の入れてくれたコーヒーを飲んでいたりする。
相変わらず快斗のいれたコーヒーは美味しいなぁ……等と考えながら。




「………知ってるか?フランスではクリスマスの事『ノエル』って言うそうだぜ?」

突然の会話の転換にジッと睨みながらも快斗は律儀に答えていく。

「………知ってる。俺フランス育ちだもん」

「じゃあ……ノエルってフランスではどう言う意味が込められてるんだ?」

「そのままクリスマスだろ」

「フランスでは家族優先だそうだ。その日ばかりは仕事も恋人も2番目。家族の為にその日一緒に祝うそうだぜ?」

「……………そうだけど………でも!そんなのラブラブな恋人同士には通用しないってばっ!!」

「ラブラブって…………」

半ば呆れたように苦笑すると新一は快斗をそのまま引き寄せた。
ソファーに座っている新一に快斗が覆いかぶさる形になって。
見上げる新一の瞳が優し気に細められた。

「………まぁ、俺も快斗の意見には賛成だな」

「じゃぁ………」

デートしよう。その言葉が快斗の口から続く前に新一は恐ろしい提案をしてきた。

「で・も。それ言ったの父さんだぜ?そんなに俺とすごしたかったらあっちに言ってくれ」

「…………………それって優作さん?」

「確かそんな名前だったな」

「…………………………………」

どうやら快斗の反論を防ぐ為に前もって、勇作氏は愛しい息子に作戦を伝授していたようだ。
詳しく聞いてみると遠く離れた一人息子とすごしたい母・由希子のたっての願いだそうだ。
「家族の〜云々」等言ってきたからには、勿論快斗は除外されるのだろう。
しばし「どうやって新一を取り戻すかシュミレーション」をしていた快斗は、新一の肩にうなだれた。

「‥‥‥‥‥無理だ………(T□T)」

何百回やってもどうしても快斗に勝ち目はない。
そもそも勇作氏は快斗にとって父親に近い存在であるだけに刃向かうなんて出来そうにもなかった。
しかし新一と一緒に過すクリスマスに未練アリアリ。
肩口でしきりに唸っている快斗に新一は笑いを噛み殺した。自分と過す事をこんなにも望んでくれる快斗におもわず嬉しくなったのだ。

「あきらめろよ?」

「う〜〜〜〜〜〜」

「俺も残念だと思ってるぜ?」

お前を想う気持ちは一緒だよ。笑いながら耳もとで囁いた言葉に快斗は胸が熱くなるのを感じた。
幸せ一杯。多分……自分は世界一幸せなのだろうと快斗も同じく笑う。


「じゃあ、諦める。…………でもそのかわりクリスマスの分まで付き合ってもらうけど?」


クスクス笑いながら啄むようにキスしてくる快斗に新一は誘うように視線をからめた。
白い手を快斗の首に回して引き寄せる。
まじかに快斗の瞳を試すかのように覗き込んだ。悪戯を仕掛ける様に。

「…………楽しめるならOKだぜ?」

「勿論、文句なんか言わせないさ」

「ふ〜ん。ま、口では何とでも言えるよなぁ?」

「いいぜ?そんな事言って後悔すんなよな」




するかよ………。

新一の最後の言葉を飲み込むように、快斗は深く口付けた。

新一はその全てを愛しい恋人に預けるように、ゆっくりと瞳を閉じたのだった。

「明日起きあがれるかな?」そんな心配を頭の片隅で考えながら。






リビングにしだいに深く重なる二人の影は落ちていった………。















クリスマスを貴方と……

2001.12.16





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