「警部ぅーー目暮警部ーー大変な事が解りましたぁーーー」
「なんだ?」
「昨日捕まえた強盗殺人の件なんですがーどうやら協力者がいるみたいなんですー」
「ばかもーーーんっっ何でそんなに大変な事をそんなに暢気に言うっっ」
「えええっ!!!」
そんな事言われても徹夜明けで眠いんですよーー高木はひたすら惚けた声で言った。
昨日、コナンや快斗達の事情聴取をしていた高木はちょっと快斗とカードゲームにハマってしまい、それを見た目暮警部に見事に雷を落とされた。
その罰に犯人の事情聴取まで押しつけられてしまったのだ。
眠いーーー
それしか彼の頭にはない。
「それで?協力者は何人いるのか?特徴は?」
「ちょっと待ってくださーーい今から聞いてきますーー」
「・・・・解った私が聞くから君はそこらへんで仮眠でもとってなさい」
ありがたい目暮警部の言葉だが今の高木には最終宣告もいいところ。
・・・・・・・・・帰らせて欲しかった(涙)
高木刑事の一日はまだまだ長そうだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆グリーン・グリーン3(前編)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「この人よ。私の運命のひとは」
そんな少女の無責任な一言からその騒動は始まった・・・・・
大河内緑(高3、バレー部部長)は走っていた。
彼女は昨日あんな事があったにも関わらずいつものように学校へ向かっていた。
いつもと少し違うことといえば自転車な事くらいだろうか。
元々電車通学すべき距離を、美容と健康そして節約(これが最大の理由とみられる)の為に40分毎朝歩いていた彼女。
当然学校に駐輪の許可などとっていない。
だが今日は昨日の事件を大義名分にして
『昨日あんな怖い目にあってしまい、とても満員電車になんて怖ろしくて乗れませんでした』
とか涙目で言えば許してくれるだろうと打算していた。
事実、電車なんて密閉した空間で昨日の恐怖体験をしたこの体が耐えきれる筈もない。
嘘ではないので、真実味はとても含まれていて誰も文句などいえまい。
ふふふん♪
緑は鼻歌を無意識に歌いながら自転車を転がす。
実はすこし遠回りするつもりでいつもの時間に出てきた。
目的はとある小学校。
と言えば誰に会うかなんか聞くまでもないだろう。
これまた昨日借りた高木刑事のハンカチを返して貰うという大義名分のもとコナンに会いに行けるのだ。←快斗に渡せばいいじゃんなんて理屈はこの際無視する事にするらしい
本当は帰りでもいいが最近部活をさぼってしまっているのでそろそろやばい。
一応手をひねったと言ってしばらく休みを頂いているが、
「あんた部長でしょっ手ぇひねってても下級生のめんどうくらい見れるでしょうがっっ」
と副部長にお叱りを受けるのも、もうそろそろだろう。
(仕方ないわよねー)
小学校の方が始まるのも早いから登校も早いだろうとふみ、緑は校門で自転車を止めた。
さーってと、一枚くらい写真とっておかなきゃ。せっかく撮った写真は今は警察行き。
はたして戻ってくるのはいつになるやら
(下手したら戻ってこないかもしれないもんね)
懲りていない彼女はあんな目にあった原因だというのにカメラを持参してきた。
カメラをいつでも出せるようにしておき、さあいつでも来なさいと構えていた緑は余念無くあたりを歩く小学生達をチェックしていた。
早く来ないかな〜〜
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「くあぁぁぁぁぁぁ」
盛大なあくびと同時に大きなノビ。
そのしぐさは猫を連想させ隣りで歩いていた中森青子は笑みを誘われてしまった。
「何笑ってんだよ」
「べっつにー」
ムッとした顔を向けられたが青子はそっぽを向き笑ったままそう答えた。
隣りを歩くのは幼なじみ腐れ縁の黒羽快斗だ。
彼は昨夜大変な事件に巻き込まれ、さらには解決に導いたと青子は父から聞いていた。
正確なところは解らないが、とんでもない犯罪者を捕まえたらしい。
隣で暢気にノビをしている少年からは考えられない出来事だ。
「ふあああ・・・」
快斗はもう一度あくびをした。
さっきからあくび続きだ。
「眠そうだねー」
「んー・・・ああ。昨日けーさつ行って帰ったら11時過ぎだろ?そんでそれからコバちゃんの出した宿題片づけてたら1時過ぎ。たまんねーって」
「・・それ先週だされてた数学のプリントの事?まだやってなかったのー?」
同情をかうどころか呆れられてしまった快斗は唇をとがらせた。
「だってよー先週は忙しかったんだぜ。仕方ねーじゃん」
「帰宅部でバイトもしてないくせに何言ってんのよ」
そっけなく言われてしまった。
夜のお仕事を知らない青子は正論を述べる。確かに正論だ。他の奴がそう言ったら俺だってそう言うだろう。
だが・・だが・・・
マジで先週は忙しかったんだよぅぅぅ
こんな時だ。快斗がブアァァァァァっと全てをバラしたくなるのは。
あんなにハードな日常を送っているというのに誰も同情してくれない。
シクシク
先週は丁度狙っていた宝石が来日していたのだ。今しかないチャンスの為、宿題そっちのけで奔走していた。
昨日一日あれば余裕だと思っていたのに大河内緑の事件に巻き込まれたせいで夜まで拘束されてしまったのだ。
それはひとえにフィルムを手にしてしまったせいだ。
(ああ。俺のおばかさん。あそこでフィルムさえ盗まなければあの事件は起こらなかったのに)
自業自得である。
だが警察関連の方々は心からお礼を述べたいだろう。
彼が盗んでくれたおかげであの事件は解決へと導かれたのだから。
そうでなければ未だに被害は広がっていたはずだ。
他人の生き死にはどうでもいいらしい快斗はひたすら己のうかつさを呪っていた。
(ああ。俺のバカバカバカーーー)
救いは高木刑事がカツ丼を奢ってくれた事くらいかもしれない(普通は自腹らしい)
コナンは明日学校だからと7時には小五郎につれられさっさと帰っていった。
同じく事件の当事者の緑も女性だから遅くなってはいけないとか理屈をこねられ帰された。
白馬は病院らしい
(まあ居ない方がありがたかったけどな)
ようするに事件に詳しい人物が一人いればよかったのだ。
それを見事におしつけられた快斗君。
そして事の次第を何度も何度も飽きて飽きてしょうがないくらいに言わされ、なんでフイルムを持ってたかなんて質問をサラリとかわし、調書作成に延々時間をとられた。
本当ならここにいるのは緑だった筈なのだ。
それがそれが・・・・・
中森ケーブがヒョロリと現れ帰りについでに連れて帰ってやると行ったからさあ大変。
中森警部はその日10時までお仕事があり、それじゃあ快斗君がいれば話は聞けるねとばかりに一人おいて皆帰って行ったのだ。
中森警部のバカーーーーーーーー!!!
ってなもんである。
本人、いたって親切のつもりなところが憎めない。
そうして快斗は目つきの鋭い刑事さん達に囲まれ一人さみしくカツ丼を食ったというわけなのだ。
「結局取り調べ終わっても中森警部こなくってさー暇だっからずーっと高木刑事達と世間話してたんだぜ」
本当なら遅くても9時には帰れたのにさー
「でもお父さんが行ったとき刑事さん相手に楽しそうにカードゲームしてたって言ってたけど・・・」
「・・・」
じつはその通り。
高木刑事が弱そうに見えて意外に強く、うっかりババ抜きなんかにハマってしまったのだ。
「10時に行ったのにその後一時間くらいババ抜きやってたって言ってたもん」
やっぱり自業自得じゃないの
青子に言われ快斗は肩をすくめた
(ま、結局のところそうなんだけどね)
安易に同情を買おうとした自分が悪いのだろう。
宿題もダーッと一時間くらいで終わらせたし実はそんなに遅くには寝てない。
一時すぎは快斗にとってそう遅いとは感じないのだ。
やろうと思えば3日ぐらい貫徹できる快斗は大げさにあくびを繰り返した。
単なる八つ当たりなのかもしれない。
「あーなんかあそこ人がもめてるよー」
そんな快斗に気付くはずもなく頭はいいのにボケボケ青子は脳天気に別の話題にうつった。
すっかり頭も次の話に移動しているのだろう青子はその騒ぎの中心を指さした。
(こらこら人様を指さしちゃいかんでしょうが)
なんて保護者的つっこみを思わずしてしまうのは相手が青子というお子様だからかもしれない。
とりあえずつっこみは心の中でしておいて指の先へと視線を走らせた
一枚の小さな何かを見ながら三人の黒服の男が喧々囂々と口げんかをしているのだ。
爽やかな朝にとても違和感を漂わせていた。
(異様だ・・異様すぎるほど異様だ)
近づけば何かに巻き込まれることこの上なし。
無視するのが一番だろう。
うっかり目なんか合わせる前に視線を戻し青子に言った。
「例え飴をくれると言われても、知らないおじさんに付いていったらダメだぞ」
「・・・快斗もしかして青子のことバカにしてるの?」
「いや。何となく言いたくなったから青子が誘拐されたら中森警部泣いちゃうだろーなって」
「お父さんのことだから拳銃で脅して警察署内の全刑事さんを出動させちゃうよー」
アハハと冗談じみて言うがめちゃくちゃあり得る話に快斗は一緒に笑えなかった。
(あの人にならやるよきっと)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
爽やかな朝である。
昨日と同じくらいに天気はいいが昨日よりもよっぽど気持ちよく感じる今日という日。
それは昨日世のために貢献したせいだろうか?
いや、単に昨日から今朝方にかけて小五郎のお小言を延々くらっていたせいでやけっぱちになっているだけだろう。
例え台風がきてようが嵐に見舞われてようが
「ふっなんていい天気なんだ嬉しいぜ」
と叫んでしまうくらいに今のコナンはやさぐれていた。
今日も朝から蘭の心配性に悩まされてきたのだ。
「どうしよう。またコナン君があんな凶悪犯と出会ったりしたら・・・やっぱり今日はお休みして・・・」
そんな事を言う蘭をなんとか説き伏せ登校できたのだ。
だいたい今日休んだところでどうなるというのだろうか。
会うときは嫌でも会うのだ。
明日会うかもしれないし、来年会うかもしない。犯罪者なんて会おうと思って会えるものでもないし、会いたくなくとも会う物なのだ。そこはそれ割り切るしかあるまい。
そんな心配をしていたら探偵の娘なんてやっていけないぞ。
とは思う物の、今の自分は他人からの預かり物の小さな子供だ、蘭が心配しても仕方ないよなとは一応解っている。
「だってコナン君こんなに可愛いのよ?どっかのおじさんとかがお持ち帰りしちゃったらどうするのよ?」
どうするのよってそりゃ麻酔針打ち込んで逃げ出して、後々、色々な報復をたくらむだろうな。
むしろ快斗に告げ口すれば己の手を染めることなくムカツク親父を闇に放れるかもしれない。
「ああ・・・外に出れてよかった・・・」
眩しい朝日に向かってそんな事を呟いた。
シミジミそう思う。
下手したらしばらく家から出してもらえない勢いだった。
犯罪者より蘭のほうが怖いと思うコナン。
小五郎も蘭も預かっている子供だから心配しているわけでなく、本当に心から心配してくれているのがあの真剣な顔から解るからコナンも邪険にできない。
だから余計にやっかいなのだ。
朝方まで続いた小五郎の心配まじりのお小言も、朝から蘭の「でも・・やっぱり・・」から続く言葉も大人しく聞いたのはそのお礼の心の現れだ。
そしてやれやれ、今日くらいは平和に過ごしたいものだと思ったコナンだが、あいにく世の中はそうそう上手くできていないものである。
「こっなっんく〜〜〜ん♪」
その声と共に平和な日常が遠ざかるのをコナンは感じた
きっと何かおこる。
絶対何か起こる。
グッバイらぶ&ぴーーす
もはや訳が解らない言葉しか思いつかない自分が何やら笑えてきた
結局のところコナンは本日学校の門をくぐることすら叶わなかった。
校門にたどり着く前に緑の洗礼をあびたからである。遠目であるにもかかわらず一目でコナンを見つけた緑は名前を呼びながら駆け寄ってきた。
もちろん周囲の子供達の目など全然お構いなしである。
見られなれているからだろう彼女は平気で大声をだした。
「会いたかったわvvvv」
と。
なんでこの人がこんな所にいるのだろうというもっともな疑問を抱いたが目の前の人物はそんな疑問を尋ねる暇すら与えてくれなかった。
「あのね。昨日借りたハンカチ返しにきたんだけどーその前に一枚写真とってもいーい?ねっねっ?」
「は・・?」
何故に写真。
と思ったが、昨日現像した写真に何故か自分の顔が大量に写っていたのを見ていたコナンは何かに必要なのだろうと思い、とりあえず頷いた。
「いいけど・・今?僕学校始まっちゃうよ」
「大丈夫っすぐ済むから」
強引にそう言うと壁に押しやりカメラを構える。
「うーんアップに耐えうる顔だわ」
そりゃどうも
一枚と言ったくせにバシャバシャ心ゆくまで撮る緑にいいかげん放してくれと思うのだが目の前の人物は楽しそうで聞く耳持たない様子だ
「え〜っと」
いい加減放してくれと勇気を持って言おうと思ったその時だ
かなり近くからタイヤの軋んだ音が聞こえた。
キキーーパタンっギュルルルルーーー
車を急ブレーキ、そしてドアを勢いよく閉め、更に急発進した音に似ていた。
当然好奇心の沸いたコナンと緑はそちらへ目を向けた。
どこにでもありそうな白い乗用車が走り去っていく。
「あら?」
さっきまでそこを歩いていた少女が消えたような気がした。
可愛い子だったから遠目からチェックを入れていて(コナンの写真を撮りつつもちゃんとチェックは忘れない素敵な根性)、近づいてくるのを秘かに待ち望んでいたのだ。
そう考えてから思い出してみるとあの車にあの少女が乗っていたような気もしないでもない。
しっかり見たわけではないから自信をもっていえるわけではないが、確かに右側からきていた少女がいなくなったのは確かなわけだし・・・・
「あらあらあら・・・もしかして・・誘拐?」
そんなドラマチックな出来事なんてそうそうお目にかかれるものではない。
昨日の事件ですら未だに実感が湧かないというのに更に誘拐事件までこの目で見てしまったというのだろうか。
「誘拐だよっっ」
コナンははっきり言いきると右手に抱え込んでいたスケボーを足下に放りだした。
ブンッと激しい空気が押し出される。
それに押されるようにコナンののったスケボーは驚くべきスピードで走り出した。
「なっっ何?何なのっっっ」
緑はとりあえず近くに止めてあった自転車で追いかけ始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おーっす黒羽ー中森ぃ」
「おはようございます黒羽君中森さん」
「おはよー青ちゃん黒羽くん。」
学校まで後5分ぐらいの距離だった。
周りをみれば学生ばかりで大抵は同じ高校の人間ばかり。
だから当然出逢っても不思議ではないその三人が背後から声をかけてきた。
取り合わせはかなり珍しかったが。
一人はクラスの委員長、小暮庸司(こぐれようじ)
小さな眼鏡をかけた学年一の秀才君である。
もう一人は昨日腕を怪我した男白馬。まあこれは説明は省く。
そしてもう一人。クラスメイトの市村水鳥(いちむらみどり)。元来大人しい彼女が何故青子のようなやかましい人間と連めるのか快斗は疑問でたまらないがこの二人、もの凄く仲がいい。
今時めずらしい長い黒髪の大和撫子タイプの彼女は青子と共にかなり男子から人気がある。
「よう。委員長ー白馬それに珍しいな市村まで一緒って」
「あーいっちゃんだーーおっはよーん。いいんちょーと白馬君もおはよーー。そういえばお父さんに聞いたよー腕大丈夫?」
「ええ。腕のほうはもう。」
と包帯を巻いた右腕をかかげてみせた白馬に快斗は眉をしかめた
「10針縫ったってきいたぞ」
昨日の今日でなんで学校にでてくんだこいつ。
「正確には11針ですね。まあ探偵業長いとこういうことも少なくないので慣れてます」
優男といった雰囲気なのに意外な事を聞いた。
もしかすると白馬も快斗のように傷だらけの体をしているのかもしれない。
(なーんで好きこのんでわざわざ怪我しに出向くのかさっぱりわかんねーや)
「っていうか白馬怪我してたんだな。全然気付かなかったよ」
「私も全く気付かなかった。痛くないの?」
「服で隠れる位置ですし気付かなくても無理ありませんよ。それに痛み止め打っているから痛みは感じないんです。」
「そうなの。でも無理をすると悪化するものよ。痛くないからって無理をしたらダメよ。」
「ええ、気をつけます」
市村のおっとりした言葉に白馬もおっとり頷いた。
「しっかし一体何やらかしたんだ?」
不思議そうな委員長に
「まあちょっと・・・」
「あのねっ殺人犯と闘ったんだよっもう、すっっっごく凶悪な犯人だったんだってっっ」
言葉を濁した白馬。それに青子はまるで自分の事のようにペラペラ喋りだした。
「えっそれじゃあもしかして今朝の新聞にのってたお手柄高校生って・・・」
「私も見た。高校生と小学生お手柄犯人逮捕って見出しでしょ?」
「そうそうそれー。んで?それがそうなのか?」
市村の言葉に小暮が頷き白馬に尋ねる。
だがやはり答えは青子から返ってきた。
「それはー快斗の事だよ」
「は?白馬じゃなくて?」
話が見えないのも仕方あるまい青子の説明不足だ。
混乱している委員長の為に快斗がやれやれと補足説明をする
「正確には犯人捕まえたのは俺の相方。俺は見てただけ。白馬は犯人足止めして怪我した。それだけ。」
「まあコナン君の助けがなかったら僕は今ここにいないでしょうね」
サラリと怖いことを口にすると白馬は苦笑をみせた。
「怖いって白馬。んで黒羽の相方ってのがコナン君って人なわけだな?じゃあ白馬の命の恩人ってわけか・・いやいやその前になんでお前らそんな事件に関わってんだよ」
「・・・話せば長くなるから言いたくねー」
「そうですね。なりゆきと言うか偶然というかそんな感じです」
「えっとねーお父さんの話では〜」
言う気の全くない快斗に、何と言えばいいのか悩む白馬。青子は聞いた話をやっぱり自分のことのようにしゃべくりだす。
それに委員長は調子よく相づちをうっていくから青子は楽しそうだ。
「ほうほう。そういうわけか。ようするに黒羽の場合自業自得ってわけだ」
「まさしくその通りですね」
委員長の言葉に即座に頷いた白馬。
ちょっと待てお前ら。
俺も被害者だろ?
いや何にもしてねーし、されてもいないけどさ
反撃をしようと口を開いたその時、ズボンのポケットに入れていた携帯の揺れに快斗は気付いた。バイブ設定のそれにビクリとする。
「うおっこんな朝っぱらから誰だっ?」
そして出そうとしてそちらに気を取られたその時・・・・
「「「委員長っっ」」」
悲鳴が聞こえ慌てて振り返ったそこには車に押し込められている委員長と白馬の姿があった。
ゆ・・誘拐すんなら女の子のほうが楽しいと思うぞ。
なんて軽口叩いている暇がなかったのは腕をどこかに打ち付けたのか顔が歪んでいる白馬とさらに騒ぎはまずいとばかりにもう一台の車に詰め込まれた女性二人を見てしまったからだ。
先にその車が発進した。
青子と市村が遠ざかる。白馬は車の中で腕を押さえて呻いているし、小暮は何がなにやら解らないといった風にオロオロしている。この場で快斗が出来る事は一体なんだったのだろう。
「君も車に乗ってもらえるかな?」
そこにはいかつい体型の黒い服の男が立っていた。
(大人しく誘拐されとくしかねーってか?)
他には残念ながら思いつかなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「コナンくーーーーんっっ」
「あっお姉さん着いてきたの?」
スイスイと前方の一台の車から目を離さず人の間をすり抜けていくコナンに緑はようやく追いついた。
必至に自転車をこいでようやく・・だ。
「だって突然走り出したし。何だろうって思うじゃない。なにそのスケボー自動なの?」
「うん。太陽エネルギーで動いてるんだいいでしょ」
「ホントにね。自転車でも追いつくの大変よ。」
「結構早いもんね。しかも小道走れるから先回りすれば追いつけるんだけど・・・」
「だけど?」
「この先は信号機があんまりないんだ」
「それはやばいわね」
「うん。タクシー拾わないと追いつけない」
「じゃ拾いましょ」
あっさり緑が言った。
(そっか。今はこの人がいるから大丈夫なんだ)
以前タクシーに乗ろうとして子供だからと断られた経験を持つコナンは予定外に役立つ緑に感謝を感じた。
「タークシーーーっ」
早速とばかり右手をあげた緑を横にコナンはサイフにお金かカードが入っている事をコッソリ確かめていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なあ黒羽。一体どういう事だろうな?」
「さあねぇ。とりあえず青子達が連れて行かれちゃった以上下手なことは出来ないんでない?」
「っていうかさ、したくても出来ないって普通。白馬もこんなんだし」
車のドアは鍵がかけられさっき試してみたがどうやら運転席からしか開けられない仕組みらしい。
前には屈強な黒服の男が二人いて、一人は運転しているから隙をつけばなんとかなったとしても、もう一人が目を光らせているからどうあっても逃げ出せない。
更にはお荷物が一つ。
未だ腕を押さえて呻いている白馬の存在だ。
さっき押し込められた時におもいきり打ち付けたのだろう本当に痛そうだ。
脂汗までながして痛みに耐える白馬は見ている俺まで痛みが伝染してくるよう気がする。
黒羽はそんな白馬を見ても特に何か感じる訳ではないらしく暢気に窓の外の景色を眺めていた。
仕方ない・・ここは俺がなんとかするしかないか
「その・申し訳ないんですが医者とか用意してもらえませんか?」
恐る恐る助手席の男に向かって尋ねてみた。
いかにもやくざですっと言った容貌に黒のスーツガラ物のシャツ、これまた黒のサングラスの兄ちゃん(とは言う物の30は越えてるだろうなぁ)は厳つい顔で振り返った。
見事に目が会いビクッとしてしまった俺は慌てて手を振った
「あっ・・いえっ何でもありません」
小心者でごめんよ白馬。今はお前の怪我より俺の命のほうが大事なんだ。
そう心で叫ぶと男はその顔のままボソリと呟いた
「怪我か?」
思ったよりいい人なのかな?
合った視線を外すのが怖くてそのままの俺はビビっているのか声が出なかった。
変わりに黒羽がやっぱり暢気に答えてくれた
「なんかねー10針縫ったらしいよー」
友達とでも喋っているかのような口調だ。聞いているこっちがヒヤヒヤしてくる
更に
「11針です」
苦しい息の下から白馬が言った。
こんな時でも訂正を忘れない白馬君に俺はさすが探偵とか訳の解らない感動を覚えた。
「すげーよ白馬。お前の真実を曲げたくないその根性だけは認めてやるぜ」
黒羽も同じ気持ちだったのだろうか、パチパチ拍手を送っている。
だが黒羽の態度はどうもバカにしているようにしか見えないから実際俺のように感動しているわけではないのかもしれない。むしろ呆れてるのかもしれん。
「・・・死なれては意味がない・・医者の手配をしておこう」
(な・・なに?俺達に何をさせる気なの!?)
怖い想像しか出来ない俺はヒイィィィと胸の内で叫び声をあげた。
と・・とりあえず殺す気はない・・のかな?
いやいや海外へ売り飛ばす気かもしれないし。
そうだったら白馬とか黒羽は高く売れるだろうなぁ俺はきっと大した価格じゃ売れないだろうし逃がしてくれないだろうか?むしろ政府とかに売ってくれてその頭脳を使って世界を転がせと言われたら喜んで協力するかもしれない・・←危険思考
うんうん。よく見ると黒羽もなかなか格好いいし、白馬なんかハンサムだもんな。
どんくらいの値がつくのかなぁ
って・・まるで俺が売るようじゃねーか。
俺って実は悪のサイノーがたっぷりつまってんのか?
うわーこのお兄さん達に弟子入りしようかな。
もはや混乱の極みのような自分の思考達に疲れを感じてきた
そんな時
「なあ。俺達どこに連れて行かれるわけ?」
黒羽の声が聞こえた。
そういえばどこ行くんだろー
「そのうち解る」
そりゃそうだ。
目隠しもされてないし・・まさか警察に駆け込めない状況にするから道順くらいみせてやらぁ・・みたいな?うわーまるで刑事ドラマ。ってかこれよく考えると誘拐?
今更ながらに気付いた。
おお。生まれて初めての誘拐事件だっっ
すげー今俺誘拐されてんだーー
「身代金目的ですかっ?」
確かに誘拐ならばそれが定番だ。
「今は何ともいえないな」
だがそんな返答をうけ俺は
「わけわからん・・」
呟いた。
両隣から同意の印が返ってきた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
無事タクシーを拾えた二人は開口一番にこういった。
「「あの車を追って」」
「へ?」
驚く運転手に構わず二人は急かした
「いいからっ早くっっ」
「探偵ごっこか?」
こんな平日のこんな時間に良いご身分でと内心付け加え尋ねると二人は真剣な顔で言った
「誘拐犯を追ってるんだ」
「誘拐犯を追ってるのよ」
数秒後
「おらおらおらどけぇぇぇぇひかれてーのかっっ」
まるで生まれ変わったかのようなタクシーの運ちゃんをお目にかける事となる。
「ふっ俺はこーゆーハードボイルドな人生にあこがれてたのさ」
とホカホカボイルされたばかりのウインナーのような真っ赤な顔で運転手のおじさんは言った
きっと平凡な日々に疲れていたのだろう
コナンはそう思うととりあえずありがたい事態に感謝した。
ただし運転は荒く吐き気をもよおしてきた緑は隣で呻いていたけれど
「程良く間を開けて気付かれないようにねっ」
「あいよーー!!!」
ノリノリである。
途中からは金額メーターまで切ってくれて純粋たる趣味で走り続けるこの親父。
額のハゲ具合から50代はいっているだろう。
(うーん世の中いろんな人がいるもんだよな)
と非凡人の一人コナンは思った
「どうやら都心から外れたところへ出るようですぜ」
心なしか運転手さんの口調は変わっていた
江戸っ子口調?
どうして?
どうでもいい疑問ばっかりコナンの頭を占める
こらこら今はそんな場合じゃないだろう
今出来る事をしておかなければ・・・そこまで考えてふと思いついた。
そういや学校に連絡いれるの忘れてたな。
コナンは慌てて携帯を取り出すとすぐに哀に伝言を頼んだ。
なにせこのまま無断欠席をしたら本当に家から出してもらえなくなる事態に陥る事となるだろう。
ついでに快斗にも連絡いれとくか大河内緑も巻き込まれていることだし。
だが生憎彼はたった今誘拐され中で電話に出る事は叶わなかった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なんでこんな事になってるのか解らない。
気が付いたら青ちゃんと二人車に押し込められていた。
黒羽君の携帯が鳴ってそちらに目を奪われた瞬間委員長が目の前から消えた。
そちらを振り返れば車に押し込められている最中だった。
その次にもう一人の男が出てきて白馬君を押し込めていた。
それに青ちゃんと二人呆然と魅入っていたら黒羽君がようやく振り返ってパチクリ目を開いていた。
まあその時にはすでに私たちも車に連れ込まれていたんだけどね。
あっという間の事でとにかくビックリしていた。
これが噂に聞く誘拐というものなのだろうか。あまり実感が湧かないのは隣にいる青ちゃんも同じらしく二人で首を傾げていた
「誘拐だと思う?」
「・・多分そうじゃないかなぁ」
そんな惚けた会話を二人でしていたのは運転手さんと助手席の方が全然しゃべってくれないからだ。沈黙に耐えきれない青ちゃんがぼそぼそとしゃべりだしたて、そのうち文句をいわれ無いのが解ったから普通の声で普通に話している。
「あっ見てみてっあの家知ってるっやくざが住んでるんだよっ」
窓の外を指さし、今の状況を忘れているのか暢気にそんな事を言った青ちゃんに「そうなんだ?」と相づちを打とうとしたら
「悪かったなやくざで」
ボソリと前からそんな声が聞こえた
「え?」
声は聞こえたが聞き取れず私は尋ねた
その言葉は黙殺されたがすぐに私は知ることとなる。
・・・・だってさっき青ちゃんが指さした大きな家に車が入って行ったのだから。
さすがに暢気な青ちゃんもみるみる顔が強ばっていった
「な・・なんかやばい?」
「うんもの凄くやばいかも」
ヒソヒソ、でも車の中だし丸聞こえ。
そうだよね。誘拐だもんねこれって。なんでさっきまであんなに気楽にいれたのかさっぱり解らない。
私と青ちゃんはそっと手を取り合いどうしようと言った顔を見合わせた
「わ・・・わかりましたよっっ」
沈黙続く空間の中、突然白馬が叫んだ。
とは言う物の死にかけの息も絶え絶えの状態だから大して大きな声ではない。
お前そんなに苦しいなら大人しく寝とけよってマジ思うよ俺は。
「白馬ぁ死に急ぐ事はないんじゃない?」
隣りで委員長が見事なつっこみを入れる。
「いいえっ言わせてください。・・・貴方がたは悪の秘密結社の一員で探偵である僕を目障りとして―――――」
最後まで言わせず手刀をおとしておく。
ガクリと白馬の頭が前方へと倒れた。
慌てて委員長が支える。
「黒羽っいくらむかついたからってけが人に乱暴はいけないよっ」
気持ちは分からないでもないけどと続ける委員長にふんっと鼻を鳴らす
「けが人は大人しく寝てろ」
くだんねーボケかましてんじゃねーよ。
こんな時に言うことだからそうとう大切な事だろうと大人しく聞いてやればくだんねー
本人いたって真剣に言っているから余計に始末に悪い
わざわざ苦しい息の下から言うことではないっ
「それってさー実は心配してんの?」
「呆れてんだ」
「へーやっぱり二人は中森さんが言ってたとおり仲良しさんなんだな」
「やめろっ鳥肌が立つ」
青子ぉぉぉお前何を言いふらしてやがる
「だってお前らいつも夫婦漫才みたいな事やってんじゃん?
ボケと突っ込みが見事に別れてるし」
しかもボケが天然と来た日にゃ見ていてこれぼと楽しい漫才は他にあるまい
ふ・・と儚く素敵な青空を見上げたくなってくるぜ。そうかハタからはそう見えるのか・・・
「いーーんちょ〜楽しんでるだろ?」
「え?本気だよ?」
「目が笑ってるって」
「バレタ?ほらこんな時だし黒羽でもからかって気を紛らわせようとしたわけだよ」
悪びれない委員長にさすがの俺もうなだれた
天然『白馬』もやっかいだが計画犯『委員長』の相手も大変だと言うことを俺は初めて感じた
そうしてたどり着いた先は
「・・・」
やくざさんだっ
外からみたら武道場に見えるかもしれない
だがここはまぎれもなくやくざさん宅である事を俺は知っていた
当然(今は気絶している)白馬も知っているだろう
「・・・やっぱりこーゆー系列なのか」
ポツリと呟いた委員長もどうやら知っているらしい
それくらい有名なのだ
「悪いが一応縛らなくてはならない」
「あっでも白馬は―――――」
「怪我に響かないように縛るから安心しろ」
どうやったら安心できるんでしょうねぇ
青子と市村を人質にされている俺らに選択の余地はなく、大人しくお縄についた
「すげーよ黒羽。俺今縛られてる」
何やら隣で感激をしている委員長君はおいておいて、さて一体どういう理由で誘拐されて来たのかちゃんと聞かないとなー
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都心から少々離れた場所に一件の家があった
車がなければ不便な地域のここは人通りも少ない。
もちろん車の通りも少なく尾行していて何度ヒヤヒヤしたことか
そこに例の車は止まった
「着いたみたいですぜ」
言うと同時に少し離れた位置で路上駐車する。
止まったタクシーから緑はよろよろと安全な地へと降り立ちほっと一息ついていた。
「ああ・・空気が気持ちいい・・もうしばらくタクシーは乗りたくないわ」
そりゃそうだろうあれだけ怖い目に会えば
前の車ばかり見て運転するから人を轢きそうになるわ、電柱にぶつかりそうになるわあげく曲がる時あまりの遠心力に一瞬車体が浮いたほどだ。
あれ以上の恐怖を緑は知らない・・と言いたいところだが昨日の殺人犯の方が怖かったからナンバー2を授けることとなる。
「フハー結構良い家ですねー」
額に手をやりそういった運転手。
「ここは・・・」
コナンは顎に手をやった。何か気付いたのだろうか。そんな緑の視線にふと顔をあげると
「お姉さんさっき誘拐された人の顔しっかり見えた?」
「え?ええ。見たわよ」
「それって6年生くらいの女の子で髪がロングで―――――」
「そうそう背中までのストレートの黒髪にキリッとしたすすしげな瞳の美人さんよ」
「やっぱり」
「てっきりコナン君もしっかり見てると思ったわ」
「誰かが連れ込まれたのだけは見えたんだ。もしかすると誘拐じゃないかもしれないけどね。」
でもあの状況とあの場の雰囲気からしてコナンの感は誘拐だと言っていた。
それを信じてここまで追ってきたのだから。
「だから警察に電話しなかったの?」
「そう。警察は確かな事にしか動いてくれないからね。」
昨日もそうだったしね。
そう言うコナンに緑は頷いた。
「とりあえず誰が誘拐されたかは見当ついたよ。」
問題はこれからだね。
「心当たりがあるの?」
「うん。でも余計謎なんだけどね。この家の所有者がその子のお父さんなんだよ」
「え?父が娘をさらったって事?」
「それっておかしいんじゃないですか?」
「うん。おかしいね。だから僕も迷ってるんだ。」
「コナン君の勘違いって事はない?」
「そうだね。もしかすると違う子かもしれないし。犯人が勝手にこの家を使用しているだけかもしれないし。でも・・・・」
「でも?」
「その子藤堂清香って言うんだけどね。藤堂組の組長の娘だから誘拐される可能性があるかなーって思って」
「藤堂組って?」
「やくざだよ」
うふ・・・
続きます・・・しかも多分これ前、中、後の三部作になります。
長い・・長いよ。しかもぜんぜん身がないし。
持ち帰り用にしていいのか?って感じの駄文ですがまあ、書いたのでアップします。
気が向いたら持ち帰って下さい。