◆◆◆◆◆◆◆グリーン・グリーン3(中編)◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だれが私の娘をたぶらかしたのだね」
誘拐犯の第一声はこれだった
これにはさすがの快斗も目が点になる。
(タブラカシタ?それって何語?アラブ語ーーーー?)
ってなもんだ。
「信じらんない快斗ってばそんな事したのっっ!!!」
何故か青子は真っ先に快斗を疑った。
「ま・・まて青子っ何で俺がそんなことしなきゃなんねーんだっ」
「だって先週忙しかったってさっき言ってたじゃない。それってデートしてたんでしょ?」
「・・・」
なるほど筋は通っている。
だがKIDの事に感づいている白馬はきっと違う事に気付いているだろう
さあフォローをしやがれっ
そう期待した快斗に
「黒羽君っ見損ないましたよ。なんて事をしたんですかっっっ」
・・・・・ま・・待てっっ
天然もそこまでいくと極悪だぞ
快斗はうなだれた
「ええーっと藤堂さん」
「貴様なんかにお父さん呼ばわりされたくないっ」
誰もお父さんなんて呼んでないでしょうが
快斗は悲しくなってきた
「とりあえず俺は無実だって。白馬か委員長のしわざじゃねーの?」
「なんて事を言うんですか黒羽君。僕は誠意を持ったおつき合いしかしません」
「誠意を持ってここのお嬢さんと付き合ったならそれでいいじゃん?ほらっ正直にいえよ。俺は責めたりしないぜ」
「・・黒羽君酷いです」
「快斗ー白馬君が可哀想じゃないの」
俺は可哀想じゃなかったのか?
快斗は恨めしそうに青子を振り返った。
男三人は縛られているのにも関わらず青子と市村は優雅にイスに座り紅茶を頂いていたりした。
扱いの差が激しすぎる。
「まあいい。正直に言わない奴なんかに娘はやる気はないからな」
しょうじきに言ってもきっとくれないだろうなこの親父じゃ。
かなり頑固そうな親父に快斗はそう思う。
「それで?俺達誘拐したのってそれが理由なわけ?しかもこの三人のうち誰がダーリンなのか解らないってーの?」
「・・・仕方なかろう写真を渡されこの人が私の運命の人よっとか言われたんだから」
親父はふんぞり返る。
偉そうに。
写真の中には快斗と白馬と委員長が写っていた。
「この中の誰か聞かなかったんですか?」
白馬の言葉に親父は胸をうっと押さえた。
「聞いた。そりゃ当然聞いたとも。そしたらどういったと思う?」
「さあ?」
解るわけが無く白馬は首を傾げた。
「お父さんなら言わなくても解るわよね・・・そう言ったんだぁぁぁぁ」
ちくしょうそんな事言われて聞けるわけがないだろうがっっ
「見栄っ張り」
こっそり快斗が呟く。
隣りで委員長がギョッとした顔をしたが藤堂さんには聞こえなかったらしく未だ嘆いていた。
「んで?」
「お前達さらって聞けばいいかと結論を出した」
実にナイスアイデアだと自画自賛をする彼に三人は「そんなバカなっっ」心で叫んだ。
「うちのお父さんも同じことするかもー」
人ごとの青子はそんなことをポツリと呟きお茶請けのクッキーをほおばった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず家を覗くことにした2人。
運転手は車に残る事になり、二人はそっと家の門をくぐった。
幸いさびている様子もなくキイと音もたてず門が開く。
隣りの家までは結構な距離があり、怪しまれる事もないだろう。
反対に誘拐犯にとっても大きな声を出されても大丈夫という利点がある。
そっと玄関に耳を当てる。
ゴトッと大きな物音がして慌てて二人は耳を離した。
「何今の?」
「わかんない。でもなんかもの凄く鈍い音がしたね?」
次いでガタガタガターーーーと何かが倒れる音。
中は一体どうなってんだ。
コナンは眉を寄せると庭へと回った
カーテンが引いてあり中は見えない。
だが音はさっきより大きく聞こえ、叫び声まで聞こえてきた。
「まてっお嬢様を返せっっ」
「大事な人質を返すわけないだろ?あんたはここで大人しく寝てな」
「組長が黙ってないぞっ」
「下っ端風情が偉そうに。もちろん俺らのリーダーはそこまでちゃぁんと考えてんだよ。大丈夫暴れたりしなきゃお嬢さんも後で家に帰してやるからな。大人しくしてろよ」
仲間割れか?
コナンは視線をさまよわせ考えた。
そしてすぐに車庫まで行くと白い乗用車に発信器を取り付けタクシーへと緑を引き連れ戻る。
「どーゆーことなの?」
「解らないけど仲間われかなんかしてるみたい。多分ここから動くと思うから今は待機。」
その言葉に半信半疑だった緑と運転手はすぐに慌ただしく家から出てきた二人の男と腕に俵のように抱えられた少女を見てあっと口を開いた。
本当に出てきた。
慌ててエンジンをかけようとする運転手にコナンは鋭く声をかけた
「待って。あの車が見えなくなるまでもう少し待って」
「でも見失っちゃいますよ」
「大丈夫。発信器取り付けたから追いかけられる」
「へ?」
運転手はまじまじとコナンの顔をみつめた。
普通の子と同じ。いや並はずれて可愛らしい顔立ちだが、ただの子供に見える。
なんでそんな子が発信器なんて持参しているのだろう?
もちろん同じ疑問を持った緑が質問する。
「なんでそんな物持ってるの?」
「よく事件に出くわすから知り合いの博士が作ってくれたんだ」
「そんなに?」
「うん。犬が歩いて棒に当たるより大きい確率で出逢うね」
それはどのくらいか予想が付かないがとりあえず一般の人なら一生に一度の事件がコナンには日常的にあると言うことなのだろう。
「それでこの発信器もそんなに長距離は持たないから程々で追いかけないと範囲越えたら解らなくなっちゃうんだ」
「気をつけないとね」
「任せて下さいっ」
タクシーは誘拐犯の乗った白い乗用車がキレイに見えなくなったころようやくエンジンをかけ、ゆるりと動き始めた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「旦那様お電話でございます」
およそこの家に似つかわしくない執事調のお爺さんがやってきて子機を藤堂に手渡した。
「うむご苦労」
鷹揚に頷くと耳に当てる。
そして―――――
「誘拐だとっっっっっ!!!」
ピクリと死にかけていた白馬が反応を示した。
委員長は精神的苦痛か白馬よりぐったりしている
「それでっ娘は無事なんだろうな?」
電話の向こうに怒鳴りつける。
「ああ。もちろん金は用意する。」
だから娘の命だけはっっ見えないと解っていても頭をさげる藤堂にさっきまでこのくそ親父と思っていた面々はちょっぴり感動した。
これぞ親子の愛だ。
「す・・すまないが金の受け渡しに誰かついてきてもらえないか?向こうの要求なんだ」
なんでか一般の高校生がここにいる事を知ったのだろう。
「僕が行きます」
間髪入れず白馬が立ち上がった。
その姿は実に勇ましかったが右腕の痛みで顔は青ざめていた。
「そうか頼むぞ」
白馬の右手をとり振り回す親父。
一瞬白馬を見た目がどことなく射殺しそうな感じだったのは快斗の気のせいだろうか。
すぐに電話を切ると藤堂はお金の用意をするために去っていった。
どうやら白馬もあの親父の視線に気付いたらしく、藤堂の姿が消え去ってからしばらく後にぽつりと呟いた。
「と・・・とって食われるかと思いました」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「どう?おいつけそう?」
「うん。この調子なら大丈夫。次の次の交差点で左折ね」
「がってんっっ」
タダでさえ車の通りの少ない道のあまり近づいて尾行するとばれる為、見逃したらヒヤヒヤものだが発信器で拾えるギリギリの距離を保っていたコナン達一行。
「さっき車を見送っている間に家の中に入ったでしょ?どうだった?」
当然鍵がかかってているだろうと思ったが必要を感じなかったのか解放されっぱなしで、コナンは勝手に入り込んだ。
好奇心旺盛な緑も続いて入ろうとしたが危ないからと追い出され不服だったのだ。
「うん。それがね、どーもややこしいんだ」
ただの仲間割れではないらしい。
肩をすくめるとコナンは困った表情で説明し始めた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だ・・・だんな様っっっ」
「何だ?」
バタバタと走り込んできた執事に藤堂は眉を寄せた
「お・・お嬢様が誘拐されました」
テーブルの上にドンっと札束を置き一枚一枚数えていた藤堂他、高校生軍団は首を傾げた
(何を今更)
「ち・・違うのです。今度は本当に・・・」
それ以上言っても良い物かとチラチラと学生の方を見る
「どういうことだ?」
そんな執事を藤堂はいいから言えっと促した
「それが先ほど裏切り者が出まして・・・」
「お前が手配していた筈だな」
「は・はあ。面目有りません」
執事が頭をペコペコ下げる
藤堂は先ほどと大違いの怖い顔を見せた
「それで犯人からの要求は?」
「それがまだ・・今連絡があったのは一人だけ紛れ込ませたうちの組員の者です」
「・・ぬぬぬぬ。何故全員組員を使わなかった」
「それは旦那様がお嬢様は組員の顔をご存じだから顔を知られていない新人の河田以外は別の所で見繕ってこいとおっしゃって―――――」
「うぬぬぬ・・確かに言った・・・」
怒り心頭。だが八つ当たる相手はおらず唸る藤堂にそろそろと快斗は声をかけた
「いーかげんあらすじ立てて教えてちょーだいよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
犯人は三人
この誘拐を企てたのは清香の父藤堂組長その人で有ることか判明した。
この家が藤堂家所有の時点で充分怪しかったが動機が解らず首を傾げていたコナンは
その動機を聞いて壁に頭を打ち付けたいほどの脱力感を感じた。
曰く
「父のいげんを取り戻すため」
だそうだ。
はあ?ってなもんである。
組長は娘が最近つれないのできっと彼氏ができたのだと危ぶんだ
そしてそれとなくさぐりを入れるつもりがうっかりズバリと聞いてしまい、娘はそんな父に一枚の写真を手渡したらしい
「この人よ。私の運命のひとは」
当然の事ながら父はショックをうけた。かなりの衝撃にご飯も喉を通らない程だったらしい。
そして考えた。
その不届き者を貶め、ついでにじぶんの地位を持ち上げちゃおう一石二鳥作戦を。
彼の筋書きではこうだ
まず娘を誘拐する(危険のないようにお金を払って雇った人間を使用。中に一人組員を紛れ込ませて置いてこれで安心だろうと思っていた)
そして連れてきた彼氏と思わしき男に誘拐の話しを聞かせ勇気を試す。
自分と共にくる勇気があるかそれとも怯えて逃げ出すか。←どうやら白馬が真っ先に立ち上がった為「こいつが清香の運命の人とやらだな」と踏んだらしい。だからわざわざ怪我してる右手を振り回したに違いない
そして颯爽と出向き父が格好よく犯人をブチ倒し、もし付いてきたならば馬の骨はそんな素晴らしい父を見て、これは叶わないとすごすご引き下がり、ついでに娘は「さすがパパ♪」と抱きついてくれる寸法だったらしい。
そんな馬鹿げた事の為に組員使うなよアホ親父
タクシー内で説明を聞いていた二人、そして藤堂家で執事に説明を聞いていた5人はきっとそう思ったに違いない。
「さやかぁーーーーーーーーーーーー」
自業自得というか、娘が哀れすぎる
果たして藤堂組は犯人から連絡が来るまで待つしかないのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・まあそう言うわけで仲間割れでなく最初から仲間ではなかったと言う訳なんだ」
説明が終わった後のタクシー内の脱力感と言ったらたまったもんではなかった
「そんなバカな親父の為に本当に誘拐された清香ちゃん可哀想(涙)」
緑はシクシクと同情しているらしい。
まさしくその通りの為にコナンもふ・・と無気力に笑った。
「それで組員の人は大丈夫だったんですか?」
「あ、うん。かなり危ない状態だったから救急車呼んでおいた。多分ほうっておいたら出血多量で死んでたよ。だから代わりに藤堂さんの家に連絡入れて置いた」
そんな状態なのになんとか藤堂の話をしてから気絶したその組員はかなり痛めつけられたらしく頭から血を流していた。
彼もバカな親父の被害者の一人だ
可哀想に
「とにかく僕たちは犯人を追うしかないんだ。とりあえず警察に連絡した方がいいと執事さんらしき人に言っておいたからから連絡してくれると思うけど・・・」
パパパパパとコナンの思考回路が回り出す。
まだ黒幕が控えている筈なのだ。
リーダーがいる。
そして逃げる手段も考えている。
と言うことはこの誘拐劇に紛れ込む手段を持った人物がいると言うこと。
でなければこんな内輪の馬鹿げた事一般人が知るわけがない。
「自分で連絡いれとこっかな」
コナンは携帯を取りだし警察署ではなく目暮警部へと直通の電話をかけ始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さーーやーーかーーーーー」
うるさい。
「なあいい加減誰かあのおっさん黙らせろよ」
バカ親父の被害を受けたうちの一人快斗は委員長と白馬を振り返り顔をしかめそう言った。
「こらこら黒羽。おっさんはないでしょうが。あれでも組長さんなんだから」
「威厳もなにもないけれどね」
「秘かにいっちゃんも突っ込み厳しいよね。」
「あら青ちゃんに鍛え上げられているものね。それにしてもこのクッキー美味しい」
「うん。この紅茶のがおいしいと思わない?」
「そうそうっこれ手作りらしいから後で作り方聞いてみない?」
「賛成っっそしたら青子こっちのスコーンの作り方も聞くっっ」
「ジャムの作り方も聞いておきたいわね」
「そんなんどーでもいいから俺らの縄解いて欲しいよな」
「だよね。なんであっちは優雅に紅茶にクッキー食ってるんだろう・・白馬ー生きてる?」
「あー・・ええ、まあ・・」
とりあえず藤堂組長はそんなに怖い人でないことが解り委員長は精神的苦痛から逃れられたらしい。
白馬は未だ呻いている。
「あーもう。めんどくせー奴だな」
快斗は仕方ないなぁとパラリと自分の縄をほどくと白馬のもほどいてやった。
「く・・黒羽?」
「んあ?なんだよ」
「縄・・・縄抜け?」
「はっこんなん手品の基本だろ?ちょっと関節動かすだけじゃねーか」
ケロリと言うと快斗は委員長の縄もほどく。
「助かったけど・・・意外に黒羽って大物かも」
「そりゃどうも。」
たかが縄抜け。されど一般人には充分凄い特技だ。
「ついでにあの親父も眠らせてやるっっっ」
意気込む快斗。
それに
「黒羽君。乱暴はいけないと思うの」
市村が控えめに止めた。
「・・・」
振り返ると市村はクッキーをハイと差し出してきた。
フワリとした笑顔に快斗の力も思わず抜けてしまう。
(やるなー市村ぁ)
快斗の腰にへばりついて引き留めていた委員長は市村水鳥に感嘆の眼差しを贈った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これでよしっと後はねーあっ次の信号左折」
目暮警部に連絡を終えるとコナンは慌てて前方を指さした。
「あいっともうちっと早く言ってくださいよ。」
車線変更が大変らしく無理矢理割り込むように左の斜線に入り込んだ。
それに緑がわっと叫ぶ
「あっ危ないっってぇぇぇぇ」
後の車からブッブーーーと抗議のクラクションまで鳴らされてしまった。
もう少しで接触するところだったのだから当然だ。
「ごめんごめん。えーっとね。今解っていることだけ言うよ?犯人は3人以上。リーダーは頭が切れる。さらに犯人の中に・・多分リーダーがそうだと思うけど藤堂家の情報を知り得る人物がいる。もしかするとかなり組長さんに信頼されているかもしれない。後は犯人が藤堂さんを生かして返すわけがない・・・と言うこと・・かな」
車の中は一瞬にしてシンと静まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「旦那様っ電話ですっっ犯人と思わしき人物からですっっ」
「よしっ逆探だっっ」
息混んで言う藤堂に快斗がボソリと呟いた。
「警察いねーって」
「あ、ああ・私が藤堂だ・・ああ。清香は無事だろうな?」
さっきほどとは違いエキサイティングしていない口調。それがいかにも緊張しきっていて現実感が増す。
「声を聞かせてくれ」
かみしめた歯の隙間からそれだけ言うと藤堂は目をつむった。きっと娘の声を聞き逃すまいと耳をすませているのだろう。
「解った。金はすぐに渡せる状態だ。執事に?」
眉をよせ電話をもってきた老人に目をやる。
「どこに行けばいいんだ?・・ああ。それですぐに清香を解放してくれるんだな?」
その後何度か頷くと電話を切った。
「聞いての通りだ。犯人からの要求は金。運ぶのは悪いが橘・・・お前が指名された。頼めるか?」
「もちろんです旦那様。それでお嬢様は?」
「金を受け取ったらすぐに解放すると・・・」
「信じられませんっ」
白馬がすぐに口を出す。
「解っている。私だって信じていない。だが・・・」
それしか方法はないのだと自分に言い聞かせるように言った。
「卑劣・・・」
「卑劣よね・・・」
「卑劣だね」
(ってかさっきの時点で警察に連絡いれとけよ親父)
青子、市村、委員長が険しい顔でそんな事を呟いた時快斗はそんな薄情な事を思っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それってあの子が殺されちゃうってこと?」
「だから急いで追いかけてるんだ。じゃなかったらいったん警察の所によるよ」
「なんでですか?お金もらったら解放が普通でしょう?」
「いや・・・誘拐事件で人質が解放されるケースは非常に稀だ。確率的にはそのまま殺される方が高い」
自分たちの顔を見られたらもちろん、見られていなくても小さな手がかりを残してしまうことになる為、よっぽどでない限り解放はされない。
金を受け取ったらもう用済みだろうな。
「急がなきゃっっ」
「でも近づいて気付かれたらその瞬間に尾行はパーになるんだ」
「なるほど。わかりやしたっっっ急いで気付かれないように走りますっっ」
「ありがと」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チロリラリーーーチロリラリーーーン
良く分からない曲が流れる。
「ああっ俺の携帯が」
いつの間にかマナーモードが解けていたらしく音が出ていた。
「何その曲?」
青子が不思議そうに問いかける。
「コナンちゃん専用に俺が作曲しましたぁぁ♪」
コナンちゃんの愛らしさと俺の愛がこもったラプラプの曲でぇぇっす
その幸せそうな快斗のアホ面を見て、聞かなきゃよかったと言った顔で青子が頷いた。
「そう・・・」
「はあーいっなぁにぃぃぃ」
元気に返事をした彼は次の瞬間叱りとばされた。
『てめーさっき何で出なかったっっっ』
「ふえ?」
『さっきかけたのに無視しやがっただろっっ』
「ええ?あっもしかしてあの時かな?違うのよぅあの時はね、誘拐されてたの」
『冗談は時と場合を考えろ俺はこっちの誘拐だけで手一杯だ』
「コナンちゃんも誘拐されたの?」
『違う誘拐犯を追ってるんだ。お前どこにいるんだ?』
「藤堂さんのお宅」
『は?』
二人の意志疎通にはかなりの時間を要した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ナイスだぜ快斗。なんてラッキーな展開なんだ」
コナンはグッと手を握りしめた。
『喜んでもらえて嬉しいけど・・何がラッキーなの?』
「いや。今藤堂清香の誘拐事件を追ってるんだ。」
『あっそれこっちで親父さんが叫んでるよ清香ぁぁぁぁって五月蠅いの』
「ああ。まあ親父なんてどーでもいいんだよ、そんなアホ親父」
『あらすじ聞いちゃったのね』
「まあな。それでどうやら主犯格がその家にいると思われる。親父のバカ計画を知っていて、なおかつ誘拐犯を手配できる人物。さらには身代金の運びやなんか頼まれてる人物いるか?」
『いるいるっバッチリの人が一人ばかし。執事さんだね。橘さん。』
「じゃあそいつの身柄押さえて欲しい。その前に藤堂さんを助け出さなきゃなんねーけどな」
『あと5分後に身代金受け渡し現場に向かっちゃうよ?』
「尾行しろっとにかく俺が連絡入れたらすぐにそいつをとっつかまえろ」
『むずかしーーーい』
「やれっ」
『ふあーーーい』
「じゃあな」
それだけ言うとプチリと切った
朝からのストレスがすべて吹き飛んだ気がした。
なんか怒鳴ったらスッキリしたらしい。
「・・で?コナンくんどうなったのかしら?」
怯えた顔でコナンを伺いみた緑にコナンはちょっぴり調子に乗りすぎたなと反省した。
「とにかくリーダーは解ったから後は藤堂さんを救出するだけなんだ」
それが大変なんだけどね。
肩をすくめるとコナンはもう一度顎に手をやり考え出した。
「なんなんですかこの方は・・」
「私もよくわかんなーーーい」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なんかコナンちゃんも巻き込まれてるみたい」
「さすが事件体質ですね」
「ねー。と言うことでリーダー格が解ったので、コナンちゃんに言われた通りにこれから行動しまーっす」
快斗は暢気に手をあげた。
それに白馬は詰め寄る。
「誰なんですかっっどうしてコナン君は解ったんですかぁぁぁ」
「俺が知るわけねーだろ。ボスはね、どうやら執事さんみたいだな。」
ヘラリとこぼした快斗に4人がうっと呻いた。
あの優しそうな執事さんが?
そんな事あるのかっ?
って顔なんだろうな。快斗は思った。
「でもコナンちゃんが言ったから絶対だと思うわけよ俺は」
コナンの言うことなら例え誰が犯人でも信じるだろう快斗はニコニコと己の思うままに述べた。
「な・・・何者だコナン君という人は」
快斗がここまで信用し、なおかつ白馬すら恐れ入るほどの切れ者。
委員長はもの凄く興味を引かれた。
それに快斗はいつぞやのような答えを返した
「かわいーーーい小学一年生♪」
目を丸くするのはコナンを知らない委員長と市村のみ。
白馬も青子も呆れ顔で快斗を見つめた
(全く懲りてませんね黒羽君・・・)
白馬君の心の突っ込みは快斗に永遠に届かないことでしょう。
幸いここにはアタックをぶちかます怖いお姉さんはいないので快斗は暢気に笑っていられた。
「まあ藤堂さんには内緒ね。俺はこれからそっと出るからフォローのほうよろしくっ」
「解りました。お腹を壊してお手洗いにこもっていることにしておきますね」
「もっと可憐な方法はないわけ?」
「快斗らしくていいじゃん。青子も付いていきたいけど邪魔になるよね?」
「なるな。白馬もけが人。んで委員長は・・・・」
「悪いパス。興味はあるけど多分役立たない」
冷静に自分を判断できる委員長に快斗は微笑んだ。
だから委員長って好き♪
「じゃあ私もお留守番してたほうがいいわね。いってらっしゃい黒羽君」
市村も大人しくそう言うとまたもやクッキーをほおばりだした。
太るぞ?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆