そっと絨毯が濡れないように鞄のしたにタオルをしき、勢いこめて重いリュックのボタンを開きひもをとく。
このかばんはむちゃ重い。
濡れてるからだけとは思えない。
俺は鉄アレイか辞書が入っていると真剣に思っていたほどだ。
「あ?」
だが違っていたようだ。
わけの解らないものが沢山詰まっていた。
いや・・・解るけど解りたくない物もあるけど。
「これは・・おもちゃ?」
だといいな、そんな期待をこめてつぶやいてみる。
手榴弾に似ていた。
パイナップルの形に似ていると言うけどそんなに似てるかな?どうでも良いことを考えてしまった。
ずっしりした重さといい本物みたいだよなーあははは。
いや、うんそっくりだけどおもちゃだよ。うん。
きっと宝物にしてるんだろうからちゃんとしまっておこうっと。
そしてそれはリュックの一番下へと封印されたのだった。
「後はー。ん?これはノート?」
大学ノートらしき青いノートが一冊入っている。
普通でホッとした。
へー。何が書いてあるんだろう。見てもいいかな?
ドキドキしながら一枚目を開いてみる。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
えっと・・・・
とりあえずパタンと閉じ、それもおもちゃの手榴弾とともに封印。
なんでノート開いたらパソコンが登場すんだ?
明らかに狼狽している自分。
つ・・次いってみようか。
次に出てきたものはロープ。
まあ、ロープぐらい今時の小学生は持ってるかもな。
無理矢理っぽいが納得する。
その次に出てきたものは―――――薬品?
そんじょそこらの救急セットとは訳が違う。
何故か救急グッズに針と糸が入っているところが怖い。
ちょっとまって裁縫セットだよねこれ?
まさかこれでさあ身体の破れたところを縫おう・・とか言わないよね?
ねっね?
さらに入っていたのが小さなピンバッチ。
なんだ?あっ線が延びる。
これって小さなトランシーバー?
凄いなー最近はこんな物まであるんだ。
世の中の進歩に感心してうなづく。
でもあいにく最先端の東京に居たはずの自分はこんなおもちゃを見たことがなかった。
どこに売っているんだろう?
えっとーお次は・・っといや・・もうやめよう。
見ればみるほど解らなくなるから。
かばんをきっちり閉じ、ベッドの下へと押し込む。
昔から大切なものを隠す時の癖だ。
よく宝物とか赤点の答案とか隠してたなー。
「結局名前が書いてあるものはなかったな。」
肩をすくめそう思っていたら俺の机の上に何か置いてあった。
ん?時計?結構ごつい時計だな。
さすがにもう乾いているため腕のベルトがすこししけっているだけで触っても手が濡れたりはしない。
スポーツ時計。だがこれは確か某メーカーの結構高い時計だ。
しかもペアの片割れらしい。
裏に何か彫ってある。
『seek one's fortune』
・・・ごめん意味わかんない。
辞書辞書ーー。
えっとぉ。
fortune って幸運だったよな?
それくらい知ってるけどさ。
『幸運を見つける?』
いや・・この場合は『運命を切り開く』かな?
どっちだろう。
しっかしこんな子供とペアの時計をする人ってどんな人だろう?
父とか?
でもこんな文彫るか?
普通だったら名前とかだよな。
「あ・・・これかな?この子の名前。」
Dearの後に続けられたローマ字を読む。『こ・な・ん・え・ど・が・わ』
コナン・・江戸川かな?
コナンが漢字かひらがなかカタカナかもわからんけど。
多分これがこの子の名前だろう。
なんだ鞄漁って損した。
「コナン君・・・か。変わった名前だな。」
しかも江戸川・・ってあれだよな小説書いてる人でいたよな江戸川ーーー乱歩だっけか?
俺は読んだことないけど本屋で表紙は見たことある。
あとコナン・ドイル。
何書いてる人だっけ?んー知ってるような知らないような。
あーなんで名前知ってるんだろうと思ったら正也・・東京の友達の飼ってる犬がコナンとドイルだったんだ。
なんか大好きな小説家だとかなんとかあれ?推理小説家だったか?
あーだめだななんかうろ覚えだ。
まあ、そんなんで名前だけしってたんだよな。
「・・・と・・。か・・・と・・・。ごめ・・な・・。」
また謝ってる。
ハアハアと熱の為に吐き出す熱い息と共に小さく小さく呻く声。
だれに謝ってるんだろう。
俺は側にあった水桶にコナン君の額ですでに温かくなっているタオルをひたした。
ギュと水をきりそっと髪を掻き上げ汗を拭いてやる。
本当に熱い。
まだ40度あるのかな?
苦しそうな表情と今にも泣き出しそうな目元。
そしてつらそうに吐き出す謝罪の言葉。
何をそんなに溜めてるんだろう。
この小さな身体の中に。
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2001.11.18 |