〜約束「4」〜


清和

「なあ・・母ちゃん父ちゃん。腹減ったぁぁ。」
二人は朝からコナンのそばを離れなかった。いつ目覚めるか解らないから・・と心配なのかもしれないが別の思惑がありそうで清和自身も目が離せなかった。
コナンの熱がもうだいぶ下がっているのはさっき清和は確認してた。
多分今は7度あるかないかくらいだろう。

外は天気がいいらしくカーテンの隙間から日光がさしている。
薄暗い中の二人は大層あやしかった。
だが清和は慣れのおかげか軽く頬を引きつらせただけで黙殺した。
一体何考えてんだこの二人?

二人してベッドに手をおき膝立ちのままジーーっとコナンの顔を見つめ続けてるのだ。
まるで起きたらすぐに自分の顔が入るように・・・・・ってまさか・・。

「すり込み現象狙ってたりすんのか?」
雛じゃあるまいし、んなことあるわけないのにな。
呆れた目で二人に尋ねると父はうむっと頷いた。

「近いな。母さん清にご飯作ってやりなさい。」
「卑怯ですよお父さん。そのあいだにコナンちゃんが目覚めたらどうするんですっっ。」
「いーじゃないか私がしっかり責任もって可愛がっておくよ。」
「ダメですーー私に懐かせるんですからっっ。」
「いーーや。私だっっ。明日から仕事なんだぞ。今日ぐらいいいじゃないか。」
「その今日が大事なんです。てこでも離れませんよここから。」

・・・・アホくさ・・。
二人の争いは低次元すぎて清和の頭はついていけなかった。
しかも起こさないようにと小声でけんかしているところが笑える。

「そのまんま夜になってもここにいそうだな、この二人なら。」
やれやれ肩をすくめため息をつくと諦めて自分で朝ご飯を作ることにする。


時刻は午前7時。
コナンが眠るベッドの横に布団を敷いて寝ていた清和は4時くらいに母達に無理矢理起こされて布団から追い出されたのだ。
「ジャマよっっ。」
とか言って。
頼むよーーそんな早くから目覚めないってコナン君は。

一緒になって行動している父がまた情けない。
すでに父はコナン君用にと足下にお菓子を用意してある。
餌付けかい。
しかし風邪引いてるのに菓子食わせていいのか親父よ。



二人の説得(する気もないが)は諦め清和はぐぅぐぅ鳴るお腹をどうにかすることにした。
「起きたら呼んで。」
「おー。」
「はいはい。」
おざなりに返事をされたがまあいい・・・と清和は思った。。
だがしかし、あきらめて部屋から出ようとしたその瞬間空気が一瞬にして変わった。
なんだ?

それは両親の歓喜のオーラ。
波打つそのオーラは清和にはピンク色に見えた。
愛情垂れ流し。あなたへの愛はここにある。ここにあるの見てみてここよぉっ。
・・・そんな感じ?

どうやらコナンが目覚めたらしい。
清和が慌てて覗きにいくとまだうーんとぐずっているところだった。
それを見てデレデレの二人は布団についた両手の上に顔をのっけて笑っている。
(それ見たらコナン君ビビルんじゃないか?)
もっともな意見を清和は考えたが二人が聞くはずもないのでため息をつくだけにする。

コナンのまぶたがゆっくりと開く。

長いまつげの下から神秘的な青い瞳がそっと見えた。
すごい・・・きれい。

吸い込まれそうな瞳なんて話にしか聞いたことがない。
この世にあったなんて驚きだ。

「んっきゃぁぁ。かわいいっっかわいいわ。」
「まったくだ。目を開けるとさらにかわいい。」


無音で叫ぶ二人は興奮しているらしく手をぶんぶん無意味に振り回していた。
やめろっベッドがきしんでるだろーがっ。





「・・・・・ここ・・・どこ?」



朦朧としたままの瞳でその可憐な唇はかすれた声をだした。
「意識もどったかい?江戸川コナンくん?」
「え?」






コナンは目を開けた時知らない人が沢山いて驚いていた。
おじさんとおばさんと青年。
家族かな?
まだうまく働かない思考で考える。
そしてゆっくり視線を動かし全く見知らぬ場所だと思った。



「・・・・ここ・・・どこ?」



思ったより高い声が出た。
子供のような声。あれ?
喉が乾いているのか口の中が乾燥している。



「意識もどったかい?江戸川コナンくん?」
「え?」
清和の優しい問いかけにコナンは不思議そうな声をあげた。
それはその名に違和感を感じたから。
江戸川コナン?それが俺の名前?
しっくりくるような来ないような・・・。
その名は違うとは言い切れない響きを持っていた。

江戸川コナンっていうのかな俺?
そこまで考えてようやく気付く。
あれ?なんで自分の名前考えてんだ?
普通考えるまでもないよな。
えーーっと俺の名前は―――――

「それ僕の名前?」
解らなかったから聞いて見た。
その瞬間多分時が止まっていたと思う。
三人の動きがピタリと止まり視線をからませ、曖昧な笑みをうかべていた。
これって俗に言う―――――
「記憶喪失?」
母がつぶやいた。



「よしっ。」
なぜか父はグッとこぶしを握りしめヨッシャーと意気込む。
(なんで?)
清和とコナンは同時に思う。

父はコナンの頭を抱きしめるとポンポンと後頭部を優しく叩きながら
「コナン。君はね私の孫だよ。私の事をお爺ちゃんおじいちゃんとうちの中で一番懐いてくれていたんだよ。」

そんな大嘘をこいた。

「ちょっと待てそこのおやじぃぃぃ。」
履いていたスリッパでバシィィっと頭をなぐりつけた。

・・・・・んがっっ。

父は凄かった。
不敵な笑みでスリッパを真剣白刃取りしたのだ。
ただでさえリーチの短いスリッパをどう止めたのかは想像に任せたい。
数年前よりレベルアップした父に呆然の清和からそれを奪うとペコンっとはたく。

うーん頼りない音。
コナンはそんなどーでも良いことを考えつつなにやら格好いい父の勇姿を見つめていた。

父はそんなコナンに気をよくしたのか格好いい自分を存分にアピールするとちょっとこいっっとまるで生徒を連行する先生のごとく顎で廊下をしゃくった。

それまでそんな親子のやりとりをまるで慣れているかのように(いや慣れているのだろう)見つめていた母は
「ちょっと待っててね。コナンちゃん」
とコナンにひらひら笑顔で手を振り同じく廊下へと出た。
パタンと母が戸を完全に閉めたとたん二人は清和につめよった。
そして何故か三人でしゃがみ込みヒソヒソとやりはじめる。


ひそひそ話の中身↓
「いーい?よぉぉぉぉく考えてごらんなさい。これはチャンスよ。」
「は?」
「相手は記憶を無くしているわ。このまま頂いちゃいましょ。」
非道な事をサラリと口にした母にとなりで父が相づちをうつ。

「孫だまごっっ。」
秘かに小躍りする父に思わず清和は叫んだ。

「そんなバカな!!!」

「「声が大きいっっ」」
両側からスリッパではたかれる。
ダメだ・・目先の幸せにとらわれている。
「清だって弟欲しかったでしょ?しかもあーーんなに可愛い弟。嬉しくないの?」
いや・・嬉しいけど犯罪っす。それ。

「大丈夫。だまってればバレないバレない。」
危険だ。
誘惑にまけそうな自分がいる。


「ちなみにあくまで参考までに尋ねるけど孫って事は父は俺なのか?」
大変ムリある設定なのですがね。
「気合いよっっ。」
「・・・・」
力の入った母に清和は言葉もない。

「おっそーだ。それならお前の兄の息子にしよう。」
うん。いー考えだ。父は腕を組んで自分の考えを自賛する。
「その手がありましたね。それで両親は交通事故でってことで・・あら完璧じゃない。」
どこが・・・。
「勝手に兄弟増やさんといて下さい・・・。」

しかも殺してるし。
突然ドラマチックな家になったよな。
ってかおい・・・マジでやる気の二人をとめなければ大変な事態になりそうだぞ。


「ダメったら駄目ったらだめったらだめだぁぁぁ。俺の目の黒いうちは犯罪なんか許さんっっ。」
普通こーゆーのは父の役目じゃ・・・そう思いつつも清和は誘惑を振り払うがごとく首をブンブンふる。

「堅いわね。若いくせに。」
「そうだぞ。もっと柔軟な頭を持て。」
非難してくる両親に清和も疲れてきたのかフ・・と遠くを見つめる。
あなたたちの頭はふにゃふにゃ過ぎだっっ。

「とにかくちゃんと届けは出しますっ。」
「えーーーー。」


「迎えが来てしまったらどうするんだっっ。」


いや・・そのために届け出すんだって。

ズズイと父は清和の襟をひっつかむとなにやら真剣に語りだした。
「もう一度よぉぉく考えてごらん清。あの子の親はあんっっなに可愛い子を海に放り出すひどい両親だぞ?」
勝手に話つくるなよ。
涙も絶えないと言った風に父は続けた。

「お前はそんな所に帰そうなんて可哀想な事がよく言えたもんだなっっこの人非人っっ。ろくでなしっっおたんこなすっっ。」
「・・・・・」
さすがの清和も抵抗するのがバカらしくなってきた。


はいはい俺はどーせ人非人さぁ。いーよーろくでなしで。もうどうとでも言ってくれー。
なげやり気味の清和は次の瞬間度肝を抜かれた。




「僕・・・海に捨てられたの?」

「「「うはおぅぅぅ」」」
その声に三人が顔をあげるといつの間に戸が開いたのかコナンがちゃっかり立っていたのだ。
「どーしたの?」
バクバク鳴る心臓を押さえる面々を見て小首をかしげるコナンに

(あなたの登場にビビッタんですぅぅ)

なんて言えるはずもなく引きつった笑みをみせる清和と母。
そして唯一なんとか無表情を保っていた父は柔和な声をだした。


コナンの両肩に手をおき
「だれがそんな事言ったんだい?」
お前だお前っっっ。
清和の心のつっこみもなんのその父はそよ風のごとく爽やかな笑顔を見せた。


「きっとコナンの聞き間違えだよ。お前の親はな3年前に他界していて―――――」
ポン・・と父の肩をたたく清和。

それはまるで『君・・明日からこなくていいよ。』
そんなリストラを恐れる会社員にとって怖い肩の叩き肩だった。←どんなんや。

はたから見るとコナンの肩に手をやる父その背後から父の肩に手をやる清和。
実に変な光景だ。


「お父ちゃん・・・それ以上やるとさすがの俺も手段選んでられないんだけど?」
清和の笑みはまぎれもなく怒りの笑顔だった。
父はゆっくり立ち上がるといままでのデレデレの笑みを消し闘いのゴングを頭に響かせた。


「清和親を脅して楽しいかい?」

「人を騙して楽しい奴よりかはマシじゃないかな?」

あはははは。



二人はじつに楽しげにわらった。
それに寒気を感じたのは母とコナン。

空気が・・・その・・凍ってるんですけど。


こうしてコナンと三人は初めての対面を果たしたのだった。
変な人たち。
これがコナンが抱いた三人への第一印象だったとしても誰も文句は言えまい。

その1時間後闘いを終えた二人は事実を聞き終えすっかり母と仲良くなっているコナンの姿を見つけ秘かに部屋の隅で落ち込んでいた。

これぞ漁夫の利。

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えっと・・・宣言どおりお笑いです。
どうでしょう?私のお笑いはこんなもんですね。
話が暗いせいかお笑いもこれが限界(自分の腕が悪いのを棚上げ(笑))
この中では父がさりげに私のヒットです。
餌付け作戦大失敗の巻き・・・って所でしょうか。

                  2001.12.3