〜約束「5」〜


銀三


近づこうとすると怒鳴り声みたいな物が聞こえた。
白い服といったら銀三にとって思いつくのはたった一人だけだった。
そう。あの人。銀三が唯一命を懸けてもいいと思った大泥棒。怪盗KIDその人だけだった。
例え今そんな場合じゃないと言っていても目の前にいたら追いかけずにはいられないほど魅力的な人物。
だが、残念ながらその怒鳴り声はKIDの声ではないようだった。

・・だが奴は声も変えられるから違うとはいいきれない。




複数の声・・・他にもいるのか?
電柱柱の陰に身をひそめ銀三は息をこらした。
やはり見間違えではなかったらしい。
あの白いスーツに真っ白なマントはどう考えても怪盗KID意外にありえない。


そういえばあのトレードマークのシルクハットをかぶってないな?そこまで考えた時自分の足下に落ちているのに気がついた。
とりあえず拾う。どうするかなこれ?証拠物件として押収していいか?
銀三は一応自分のかばんにつめこんだ。
高そうな帽子がぐしゃぐしゃになるのにもかまわずに。



一体全体何故こんな所にKIDが?
銀三は眉をしかめる。



KIDの周囲に何人かの男が微かに見え、もしかするとKIDに仲間がいたのかもしれない銀三はそう考えた。
自分としては一匹狼のほうがなにやら格好いい気がして嬉しいのだが、仲間がいるというのなら今までの数々の作戦もうなづける。あの暗号文にしてもだ。

一人であそこまで考えつくのはそれなりの頭脳がいる。
背後に頭脳犯が何人かいるのかもしれない。
ならば一人くらい捕まえればKID逮捕の役に立つかもしれない。
情報収集のため銀三はそっと電柱柱からもう一度のぞきこんだ。



だがしかし彼は、もやから見えたその光景を見て息をのんだ。
「・・・・っ!!!」
なぜならKIDがやられているから・・・。
仲間と思ったのは銀三の思い切り勘違いらしい。

よくよく見ると相手はKIDと対象的な黒いスーツを着た男4人ばかし、いつものKIDならちょちょいのちょいっと煙にまいてしまうような少人数のはずだ。
だから蹴られたり殴られたりしてももしかしてあれはすでにダミーで・・とか過去の記憶からそう考えていた。だから銀三は思わず飛び出そうとしたが思いとどまったのだ。



だが・・・どう見てもあの踏まれまくっているのは憎みたくても憎めないあの怪盗KID。
そしていつもの覇気がないように見える。もしかして大きなケガでも負っているのか?



そこまで考えて今度こそ本当に銀三は電柱から走りだそうとした。
距離は約50メートル。走れば即座にたどりつく距離だ。
こんな偶然のような形で捕まえる事になるとしても、彼を助けたかったのかもしれない。
自分の危険なんて考えてもいなかった。

命が消えるのを黙ってみてられるような人間でもない。
だがしかし






「お待ちなさい。」
銀三が今にも飛び出そうとした瞬間、さらに怪しい人が現れたのだ。
なんというか・・・コスプレ?

銀三の思考は数瞬停止していたらしい。
その人は女性。
遠いせいとその人物の背中しか見えないため年齢的にはわからないが声のはりで若いのは解った。
この寒い中ピチピチの布の少ない服を着ており何故かマントを羽織っている。
あ・・あやしい。
多分男達もそう感じたのだろうやや腰が引けている風だった。
「な・・なんだお前は?」

「あなた達のよなうものに名乗る名などないわ。その人をお離しなさい。」

ビシッと人差し指をつきつけるその姿はりりしかった。
せめてその格好をどうにかしてくれれば。


「はっどこか頭のねじがゆるんでるんじゃねーの?」
秘かに銀三は同感だった。
言い終わる前に男の一人が素晴らしいスピードでその女性へ襲いかかった。
だめだっ民間人の危機っっ。
慌てて飛び出した銀三は三分後心底自分の行動を恨むことになるのだった。





「あら?ごめんなさい。まさか他の人がいるなんて思わなかったものだから。」

バタッとまさか無人のはずの背後から人が倒れる音がするとは思わなかったのだろうその女性は慌てて銀三の元へ駆けてきた。
どうやらその女性は怪しい外見に似合った怪しい薬を周囲にばらまいたらしく、銀三の身体から力がぬけていく。


しびれ薬とは違う気がするが・・・なんだこれは?
先ほど女性のいた辺りで、同じように男達4人が転がっているがどうやら意識を保っているのは一番その女性から遠かった銀三だけのようだった。


そしてその女性に一番近かった怪盗KIDはというと暴行を受けたショックか今だ地面とたわむれていた。



「・・・中森警部?中森さんのお父様ね。」
どうしましょう?その女性は口元に手をあて小首をかしげた。
真上から聞こえる声に銀三はとまどう。


閉じてしまいそうな目を微かに開けて、よく見てみるとまだ少女と言えるような歳に見えたのだ。
しかも美人・・青子もこんな美人なら俺は鼻高々なんだが・・・。
どうでもいー事を朦朧とした意識のしたで考えていた。



この人は・・青子を・・知ってるのか?
だれなんだ?



眉をよせ銀三が考え込むと多分元いた位置に戻ったのだろう遠ざかった場所から少女の声が聞こえた。


多分少女は銀三が意識を保っているのに気がついていないのだろう。

なにせその少女が使用したのは通常の3倍以上の薬。


それは組織の人がどれだけ薬に耐性があるか解らなかったためとりあえず多めに使ったというその人にしてはおおざっぱな行動のあらわれであったが、どう考えても意識を保っている銀三のほうが超人なのだ。


果たしてKIDへの執念の現れか、そういう体質か。
彼の場合はどちらでもありそうな気がする


「黒羽君。意識は?」
だからこの失態はその少女だけのせいとは言い切れなかった。


銀三はハンマーで殴られるような衝撃をうけた。
朦朧とする意識も覚醒するくらいの衝撃を。
快・・・斗くん?


「ああ・・・悪いな紅子。お前にまで迷惑を掛けるつもりはなかったのに・・・。」
「いいのよ。大したことではないわ。それより立てる?」
「・・・・ちょっと待て。お前の薬俺もすったんだけど?」
「あら?あなたにはちょっとやそっとの薬では効かないでしょ?」
「まあな。でもあれは少々効いたぞ。手がしびれてる・・・」



少女・・紅子の一番近くにいたというのに手がしびれるだけですむとは驚きだ。
もう目も開ける気力のない中森は眠りへと引きずられそうな意識を必至に引き留め、小さな声を拾っていた。


これは確かに快斗君の声・・・帰ってきていたのか?いや・・それならあのKIDは?



「さすが怪盗KIDね。それより早くこの場を去らなければ中森警部が目覚めてしまうわよ?」
「あ・・そうだったな。そいつらの始末頼めるか?」
「ええ。忘却の粉を大量に持ってきて置いて正解だったわ。適当に忘れさせて遠くへ捨ててくるから安心していいわ。」
「こえぇぇ。サンキュー紅子。それと・・・いろいろとごめんな。」
「そうね。あなたには沢山謝ってもらうことがあるわ。全て後にまわして差し上げるから今はその傷をどうにかなさい。」


「へーへー」
「それと・・・そのつまらない笑顔今度会うときまでにどうにかしておきなさい。」
「・・・・」


言うだけ言うと紅子と呼ばれた少女は男達のほうへと歩いていった。気配でそれだけ読むと銀三は近づいて来る足音に耳をすませる。


「まいったな。バレバレ・・・。」


どうやら真上に快斗がいるらしい。
ぽつりとつぶやくと快斗は優雅にマントをひるがえし片膝をつき銀三の顔をのぞきこんだ。




「すみません中森警部。・・・私は・・まだ捕まるわけにはいかないんです。どうか忘れて頂けませんか?」


・・・こちらもバレバレだったらしい。息を潜めてはいたのだがさすがKIDと言ったところか。
未だ衝撃から立ち直れていない銀三はどういう反応をすればいいのか解らなかった。
実際声を出そうにも顔を動かそうにもどうにもならない状態だったのは彼にとって幸いだったのか。



彼はそんな銀三を見てどう思ったのかそのままマントをはためかせてどこかへ行ってしまった。
ただ足音が遠くなる。
それを銀三は歯がゆい思いで聞いていた。
快斗君・・・・。




私は君のことを何もしらない・・・




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銀三さんなかなか好きですね。
毛利のおっちゃん書いているときは彼にはまっていたけれど(笑)
おじさんの考え方って楽しいですよね。
小難しく考えているけれどきっと子供のほうが柔軟だから
あっさり解決してしまうのだろうな。
その点快斗はおじさんと同じ思考かも(爆)

               2001.12.7