〜約束「6」〜


快斗


俺はさ、昔っから頭よくってさ。
まあ生まれつきの天才ってやつ?
IQ400とか冗談みたいな事本気で言われて母さん達はとってもビックリしてたの今でも覚えてる。
あの調査したのっていつだったんだろう?
確か父さんは生きていて・・。

まあいいや。
そんでさそんな持ち前の明晰な頭脳とさ、父さんから教えてもらったポーカーフェイスで
昔からいろい得してきたんだよな。
大体において皆の俺に対する印象ってのはいつも笑っているお銚子者。はたまた脳天気な悩み知らず。いつまでたってもいたずらっ子で困った手の掛かるガキ。
その全てが俺の作り上げた猫だと知ったらどう思うだろうな?


あの調査してからというもの周りの目が変わったみたいで近所のおばちゃんとかもあの子頭いいらしいのよ。
とか陰でこそこそ言ってんだよな。
悪い事じゃないのにまるで悪口言われてるような気がするのは俺の気のせいか?


そんでその子供達とかがさ、からかってくるんだ、これが。
「お前頭いーんだろーこれくらい解けるよなー。」
なんで高々2歳や3歳のガキに小学生やはたまた中学生達までがからんでくるのかさっぱり解らない。
ただ俺って負けず嫌いなんだよな。っていうのはこの時に気づいた。
意味不明の数式とか出されてそんなん知るかって心の中で思いつつも

「ふんっ」
とバカにしたように鼻で笑ってそいつらから去っていく。
まあ逃げだしたも同然なんだけどな。それがあいつらには気にくわなかったんだろうな。
それからというものしょっちゅう絡んできて。あーうざかったなぁ。
それが払拭されたのは俺が小学校上がったときだったと思う。
向こうも大人になっていかにバカな事やってたのかに気づいたんだろう。

あの時出された問題が解けなかったのが悔しくて不屈の根性で父さんに無理矢理教えてもらい小学一年にして多分中学生の問題くらい解けるようになってた。

バカだよな大人しく「僕子供だからわかんなーい」って言っときゃそれですむのにさ。

でもそんな俺に父さんは優しい瞳で苦笑しながら教えてくれた良い思いでがあるからそれはそれでいいかなって思ってる。


多分父さんが死んでからだろうな。いろいろと変わったのは。
父がいないせいで沢山苦労してきた母。
最初はそんな母に気を使って脳天気な自分を演じていたんだと思う。
母さんの負担を少しでも軽くすべく俺は俺が出来ること全てする気でいたから。

まず役に立たない自分と言う物に最初に気づき歯がゆい思いをした。
普通のガキなら気づかないよな。
いかに自分って存在が無力なのか・・・なんてさ。

バイトもできなきゃ家事も出来ない(物によってはできるけどな)。
こんな子供には母さん愚痴も言えないんだぜ。
だからさ、沢山考えた。
俺の事で煩わせなきゃそれが一番の孝行ってもんかなって。
だから性格構築。
自分の性格を一番母さんの役に立つものにしようって・・・。
猫をかぶるってことだな。

最初はさ優等生にでもなってどこぞの有名中学とか高校とか入っちゃって母さん喜ばせようかなとか思ってたけど、そういうの違うよな?

もっと子供らしく楽しく生きてる雰囲気を出すのが一番ホッとするんじゃないのかな。
そう考えたんだ。

そんで今の俺がいる。

友達沢山。
先生とも軽口たたき合ってさ。
時々宿題忘れて立たされたり怒鳴られたり。
教室で掃除時間にちゃんばらやって女子たちにたこ殴りにされたり。
そんな普通の生活。
家に帰ったらそんな楽しい毎日を母さんに報告して
俺はこんなに毎日楽しいよ。
幸せだよ。
笑ってるよっ。
て伝えて。
それに母さんも笑ってくれて。

隣の青子の父ちゃんと「うちの子ったらまだまだやんちゃで―――――」
とか楽しげに喋ってるの聞いて俺すっげー嬉しかったんだよな。
よかったうまくいってる。俺の猫ちゃんと機能してる。

そして満足してた。自分の思った通りの結果が出せたことに。
この笑顔のポーカーフェイスはだれにも見破れないんだってことに。

実際だれ一人疑う者はいなかったのだから。
母さんですら。

望んだ結果。
でも何でだろう。その満足と共に何か・・・重い物が胸の奥底に沈没していく。
重くて・・・苦しくて・・・なにかわけの解らない感情が浮かび上がってくるような。
そんな物がどんどん底へと溜まっていって―――――

ずっとそれが何かわからなかった。
これを消す方法も。
こんな物がわき上がってくる理由も。
この優秀な筈の頭脳でもってしてもさっぱりと。

年々積み重なっていくそれに俺は悩んでいた。
なんなんだよ一体。この訳の分からない感情は?
ふ・・とした瞬間に思い出したかのようにわき上がる感情。
イライラするような苦しいような。
それが払拭される日は永遠にこないかもとすら思っていた。



あいつに会うまでは。


つもりにつもった苦しい物に俺は日々耐えていた。
KIDをやり始めて父さんの死の事実を知って芽生えた醜い感情。
『復讐』という言葉。
敵というものが目の前にあるせいか俺はもっている怒りをすべてそいつらにぶつけていたように思う。
この苦しい気分も少しだけ軽くなった。
もしかすると今まで怒り・・・という感情を封じ込め過ぎていたのかもしれない。

それでもまだ大量に残る重苦しい感じ。
それが本当に消えていったのはあいつがいたから。

はじめはビルの屋上だったよな。
そんで変なガキと思ったのが第一印象。
その次にあいつの瞳を見て駄目だと思った。
強い瞳。
こいつといたら自分が壊される。
自分で作りあげた『俺』という人形をぶち破って中にいる本当の俺を引きずりだしてしまう。
そんな瞳だった。
だから会わないようにしてたんだよ。本当に。
でもしょっちゅう現れるし話してると会話がポンポン返って来て楽しいし。


暗号を送って確実に解いてくれる貴重な一人だったし。
下手をすればその一歩先を行って逃走経路で待ち受けているような素晴らしく頭が切れる奴だった。




そんでいろんな事情により怪盗KIDとしてじゃなく黒羽快斗として出逢ったその日に言われた一言。
「お前のその性格は地だな。」

まだ六歳という幼さに加えて一般的小学一年生より小さめな身体。6歳というのは適当に言った年齢らしいから本当はもっと昔まで退化したのかもしんねーけど。
そんな外見にそぐわぬそっけない口調と鋭い神秘眼。

いつもは温厚な俺がこいつの言葉に何度切れかかった事やら。
一度なんかマジ切れして手ぇあげちまったぜ。ありゃ後味悪かったよなぁ。
最初は多分・・・・すんげぇぇ嫌いだった。と思う。
生意気だし、すぐ怒るし、探偵だけあってちょっと言った言葉尻とらえてくるし、図星さしてくるし。
たまんねーよな。
あげくにこの言葉だぜ。

確か別れ際に言われたんだ。
半日ほどずっと話してて、それで彼なりの結論はこれだったらしい。
「最初さ、すっげーーーーーー軽い奴っぽかったからきっと性格変えてるんだと思ってたんだよな。
ほらお前って変装の名人だし性格だって簡単に変えれるだろ?だけどずぅぅぅっと見てた俺が言う。
お前それ地だ。」
ビシィィィっと指をつきつけられ、人を指さしちゃだめよん。
とか軽口を叩きつつも俺は衝撃的な気分を味わっていた。
だってさ今の俺は昔作り上げた性格で本当の俺はもっと違う奴だった・・・筈なんだよ。
なんでたかだかさっき会ったばかりの奴にここまで断言されるわけ?


「探偵ってのは観察力が必要だ。演技してると解るよ。ただ性格構築ってのは大げさだけどたまに仮面かぶってる時はあるよな。」
ニッと下から見上げられ俺もとまどう。
そうなのか?この性格は本当の物なのか?
なにか言いくるめられてる気がしないでもない。

「こんな事で嘘言ったって何の得にもなんないって。お前の仮面はさ、自分が苦しい時とか悲しい時とかに被るんだよな。絶対人に弱みを見せない為のもの。」
だからなんでたかだか今日の昼からあってたったの5時間くらいしか俺の事見てない奴が言い切るんだよ。

「解るって。お前時々苦しそうな目してるもん。」
「え?」
目をパチパチさせる。そんな事言われたのは初めてだ。
「気づいてない?そんな時に限ってかならず笑顔なんだよなお前。」
苦しい時には笑う。
悲しくても笑顔で。
そんなの当たり前だよ。だって俺人前でそんな感情出すの嫌いだもん。
弱みなんて人に見せられるわけねーじゃん。


「バレバレなのに笑顔のがかえって変だって。普通にだしゃ良いじゃねーか。
例えば今。ものすっげーむかついてるだろ?」
「あ?」
むかついてるのか俺?

「うわー自分で気づいてないし。目が怒ってるって。だから言ってるだろ?目みりゃ解るって。」
「んじゃ何で俺怒ってるわけ?」
「それ聞くか?そーだな。多分自分の考えと俺の考えの食い違いじゃねーの?俺の言葉を否定したいけど否定材料がないし、どこから突き崩せばいいのか解らない。簡単に言えば言い負かされて悔しいってかんじ?」

・・・言葉もない。なるほど考えてみれば今まで言い負かされた事ってのはないんだよな。
だって俺頭いいもん。
せいぜい人間関係円滑のためにわざと言い負かされてあげた時とかそのくらいだよな。
そうか俺悔しかったんだ。
うんこの感情は悔しいって思いだ。
忘れていた事を思いだす。
きっと他の人ならなんて事ない事。

それ以来今まで沢山押さえ込んでいて忘れ去られていた負の感情が少しずつ蘇っていったんだと思う。
それはとても大切な事だったんだと今ならわかる。

それを見破って俺の目の前で突きつけてくれるそんな相手。

それが江戸川コナンだった。

たくさんの感情を思い出させてくれた。
たんさくの本当の笑顔を思い出させてくれた。
たくさんの・・・・幸せをくれた。

いつの間にかかけがえのない人になってた。

こいつの前なら感情が簡単にポロポロでて。
今までしたことの無かったケンカとかいっぱいして。
冷戦とか結構したよな。
そんでそんな俺達見て母さんが目を白黒させてさ。
きっと俺見て驚いたんだろうな。
あんな意地っ張りな俺見せた事なかったから。
絶対謝らないからなとか二人でにらみ合ったりしてたもんな。



俺は結局うぬぼれてたんだよな。
いろいろと・・・さ。


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どう考えても「約束」って快斗君が主役みたいです。
今更ながら私は気づきました。マジ快メンバーだらけなあたりで
気付くべきでしたね。
2001.12.12