光のかけら10
side C

ま、結果的に言えば俺達はあっさりと捕まった。
いやもう楽しいくらいあっさりとな。

あの後、連絡を終えたリーダーへ俺はとりあえず一撃を加えた。
まずは拳銃をはじき飛ばす。
そしてすぐにお腹めがけてもう一撃。
石は痛いだろうなあ。さすがに頭に攻撃したら下手したらあの世行きだもんな。
俺の足もいてーよ。まったくもっと良い物があればよかったけどよ。
周りの奴らもまさか俺の蹴った石のせいでリーダーが吹っ飛んだとは思わず、怯えていた。
何が起こったのかわからないんだろうな。
もちろんその隙を見逃すわけがない。
がんがん蹴りまくり敵を吹き飛ばして・・・いけたのは最初の2人だけだった。
リーダー+2人。残りは9人。

多勢に無勢で負けました。

足さえ避けりゃ勝てるもんな俺なんて。
背後から抱えられて終わったさ。

灰原も大人しく手をあげてるし佐久間さんも青ざめて捕まってしまった。

さーてどうすっかな。佐久間さんは生かしておくだろうけど俺達は?

「なー芝さん伸びてるけどどうする?」
「さっきの会話わかった奴いるか?」
ざわざわと数人が話し出す。黒スーツの軍団が固まるとちょっと迫力だよな。
だがその中でひときわ目立つ奴が約一名。
ど金髪の髪をつんつんに立てている20代くらいの男がいた。
こんな中にいるのが不思議なくらい明るそうな奴。


「はいっ俺ヒアリング出来たっす。えっとー佐久間殺すなーって言ってましたー。」
多分最年少だろう彼ははーいっと小学生のごとく右手をあげた。

「本当か武?」
男達はまったく別の奴に問い返した。

「ええ。俺もそう聞こえました。」
金髪君の隣に立っていた武とよばれた男は真っ黒なさらさらの黒髪と長身のせいか和服が似合いそうな感じの奴だった。
いかにも冷静です・・・みたいな顔と抑揚のない声音。

「ひどいっす先輩なんで俺の言うこと信じてくんないんっすかぁぁ。」
まるでぴよぴよ鳴くひよこのようだ。

「あ?めんどいなー。んじゃこのまま生け捕りか。」

「無視?無視なのね俺。えーーん武ーー。」

「はいはい。うるさいよお前。」
無表情が微かにくずれる。幼なじみか?そんな雰囲気がこの二人にはあった。


なにやら漫才みたいな奴らの会話を聞いてた俺はちょっぴりうんざり。
こーーんーーなーー奴に捕まってる自分が情けなくなってくるぞ。

「こいつらどうすっかな。埋めとくか?」
「ひどいっす先輩子供相手にっっ」
掴みかかる金髪君。
「武・・。」
「はい。抑えておきます。お前いい加減にしないと先輩に殺されるぞ。」
「だって。」

なんか武さんが哀れになってきた。
完璧子守役。
ってそんな場合じゃなかったな本当に埋められたら大変だ。
えーっと解決策解決策ーーー。うーーーだーれーかーー助けてーーー。

その俺の心の叫びに呼応したごとく声が響いた。

「おいお前らっ。」
のっそりと起きあがるがたいのでかい男が一人。
凶悪な面と野太い声で素晴らしい威圧感を辺りに漂わせていた。
あーあの人復活しちゃったじゃねーか。
「あっ芝さんっ。目ぇ覚めたんっすねーー。」
パツキンの明るい兄ちゃんは最初俺が吹っ飛ばしたリーダーに近寄っていった。
まさかこんな早く目を覚ますとは・・。これはやばいぞ。
と芝という男に目をやる。

バッチリ目があった。
その瞬間感じた違和感。
そして違和感の正体が分かり俺は激しくうろたえた。
お・・・・。え?
まさか・・なんでここに?え?嘘だろ?
気のせい?いや・・でも。
俺の感情がめまぐるしく変化する。
隣で縛られている灰原と佐久間さんがそんな俺を不思議そうに見ていた。

「芝さんこいつらどうします?」
奴らは近づいてくる芝と金髪君に目をむけ俺達を顎で示した。
「ああ?ガキなんかほっとけ。どうせここらへんに捨てておけば明日の朝には冷えてるさ。」
「芝さん冷たいっすー。」
悲しそうな瞳で長身の芝を見上げる。
「お前この世界ぬけろっ。」
疲れたように芝は金髪君の頭をこづいた。
甘い。この青年に対してはなにやら甘いぞ芝。

「いやーー。俺一生芝さんについてくって決めてるんっすよー。」
と腕にしがみつく。
まるで子供だ。だがそれがまんざらでもないのか芝は少し苦笑すると子守役を呼んだ。
「武っこいつっ」
「はいはいはいはいっ。もう俺も切れるぞっ。」
「むぅぅぅ。」


そこで芝は唐突に手をつきだし三本たてる。
「いいか?三秒後だ。」
あまりに突然の事態に周囲が呆然としている間に芝はサクサクと進めていった。
「は?」
「三」
「ちょっ芝さん何の話で?」
「二」
「芝さんっ。」
「一」
「GOー。」
辺りに閃光弾が落とされた。

気づいていた俺は目を閉じていたから無事だが目を開けていたら数分は機能しないだろうな。
閉じてても痛いくらいの光だから。
もちろん目を閉じていなかった佐久間さんはうがぁぁと呻いていた。
ごめんな。

「これで契約は十分守ったよな?」
「ええあと少しあれの数を減らしてくれるかしら?」
「おやおや。仕方ありませんね。では数人は受け持ちますよ。」

そんな会話が微かに聞こえた気がする。
灰原とKID?
どういう意味だ?
いやその前になんでこいつがこんな所にいるんだよ?


縄を外してもらい、俺と灰原とさっきまで芝さんとやらに化けていたKIDは反撃開始をした。


さすがに目のみえない相手9人ならたった3人でも倒す事は可能だった。
俺はちらっと見ただけだが灰原の関節技が怖かった。
ゴキッバキっとか鳴ってるんだぜ。
それ無表情でやるから怖すぎだって。
見えないなりにもあの音は恐怖だったのだろう。特にあのパツキン君はとても怯えていて武さんに(どうやって見分けたのか)しがみついて逃げよーー武ーーとか叫んでたな。
しっかしあの男実に楽しい奴だった。




side K

「まさかお前がここらにいるとは思わなかったぜ。」
「そうですか?でも私の変装を一目で見破るとは思いませんでしたよ。」
「そうね私もカウントしだしてやっと解ったし。」
「まあな。ま、なんにせよ助かったぜ。」

「・・・で?お前は今回の件どこまで絡んでるんだ?」
ここにいる以上なんらかの関わりがあるのだろう。そう踏んでいたコナン。


「私は関わってませんよ。」
関わってるのは黒羽快斗だもーん。
怪盗KIDじゃありませーん。

屁理屈かもしれないけど譲れない事だ。
「じゃあ。あなたはどこまで知ってるのかしら?」
おっとそちらからせめてくるかいお嬢ちゃんや。
「そうですねー。あなたが佐久間さんで社長さんが高宮さん。そして2人がお昼過ぎから姿を消した。そんなとこですか。」
たいした情報でもないしさらりと喋ってしまう。
「昼過ぎから・・・。」
だがコナンにとってはたいした情報だったらしい。
あごに手をやり考え込む。

考える姿も可愛いなー。

side C

昼頃姿を消したってことは・・だ。
社長は昼以降に殺されたってことだろ?
「ねえ佐久間さん。会社からここまでって歩いてどのくらいかかるの?」
車が通行不可能なため外部犯の可能性は極めて低い。
「そうだね・・・。僕の足で休み休みきてお昼からこの時間までかかったね。」
「追っ手から逃げる時間と足のケガを差し引いて・・・」
「あと私が目覚めるまで時間かかっているし。」
「・・・それも差し引くと・・?」
「そうだねー。2、3時間かなぁ。」

「往復で4〜6時間。昼って12時くらいとして・・・4時頃までいなかった人をリストアップしてもらえばいいのか・・・。で、外部犯の可能性は限りなく低い・・と。」
ぶつぶつつぶやく。
いや、俺は心でつぶやいてるつもりだったんだけどな。

「江戸川君。とりあえず今は博士達と合流しましょ。皆心配して待っているだろうし。」
お・・すっかり忘れてた。そうだよ博士達がいたんだった。
「佐久間さん。悪いけど付き合ってもらえる?」
「え?僕はこのまま一人で降りるよ。」
ずっと大事に抱えていた黒い大きめのかばんを抱え直して佐久間さんは当然とばかりに言った。
でも犯人の可能性のある佐久間さんをここから逃すわけにはいかない。


「でもね。僕帰り道が解らないんだ。佐久間さんならここらへんの地理詳しいんじゃない?」
「まあ何年もここにいるしね。」
「お願い。道に迷っちゃったら僕たち遭難しちゃう。」
しかも暗くてさっぱり辺りは見えないときたもんだ。
常識ある大人なら子供だけにしないだろう。
「でも彼がいるし案内頼めるんじゃないかな?」
とKIDを指さされ俺はちっと舌打ちをする。
他に理由ないかなー。

「あら駄目よ彼は彼の用事があるからすぐにここを去らなければならないのよ。」
「ええ。私はもう失礼させて頂きますよ。」
ナイスフォロー。
これで佐久間さんは逃げ道を失った。
灰原を助けてくれた人だきっと子供を見捨てたり出来ない人だと思う。
「―――――はあ・・。それで?その人達はどこにいるって言ってたんだい?」
しばらく百面相をしていたがとうとう諦めたのか大きくため息をつくと尋ねてきた。
「えっとね。ずっと上の方にある木でできた大きな別荘だって。」
「大きな別荘・・うん多分場所は解るよ。ただそこには別荘が確か3、4件集まっているからどの家か解らないけどね。」
「十分だよ。あとは呼んで家から出てきてもらえばいいから。」
と探偵団バッチを見せた。
佐久間さんは苦笑すると便利なバッチだねと俺の手から探偵団バッチを持っていった。
「へー。こんなに小さいのにトランシーバーになるんだ。凄いなー。」
クルクル裏表を見た後ありがとうと俺の手の中に返すと行こうかと声をかけた。

「あっちょっと待って。」
走り寄って何故かKIDが持っていた縄で縛り上げられた男達に近寄る。
「コナン君?危ないよ。」
「大丈夫。えーっとここら辺に・・あった。」
探していたのは携帯。
芝がさっき使っていた携帯をちょっと拝借しようかなと思い至ったコナンは懐にしまってあった黒い少しごつめの携帯を右手に
「ちょっと電話してくる。」
と草原に入っていった。
聞かれたくないのだろうか?


side K

コナンはほんの数分で戻ってきた。
だれに電話したんだろう?
まさかあいつかな?
思い当たるのはあの大阪弁の男。
そうだったらなんかむかつく。
眉を寄せ嫉妬バリバリに大阪の方へむけて呪いの電波をとばしてみる。
ふっこんな山奥で大阪の方面が解るなんて俺って天才。
どうでもいい自画自賛をしつつ俺はトンっと木の上へととんだ。
そしてカシャンとハンググライダーをセットすると
「じゃーな。」
一声かけ夜空へと飛び立った。


コナンは携帯をそのまま持っていくらしく雨でべたべたにぬれたリュックに詰め込んでいた。
それは窃盗という犯罪の一種だぞ?
まあ俺が言っても説得力ないから言わないけどさ。
それを瞬間に見取るとすぐにその場から離れる。緩やかな風が丁度よく吹いてきて俺を別荘へと運んでくれる。



本当は遠くから見守ってようと思ってたけどコナンの言葉を聞いてやめた。
「大きな別荘。」
ここらへんに別荘といったら俺らが泊まっている地帯にしかなかった。
そして佐久間がいった3、4件の別荘のうち人がいるのはたった一件白馬の別荘のみだったのだ。
ってーことは間違いなくあのじいさんとお子様達は俺がさっきまでいたあの別荘にいて、
これからコナン達はそこに来るのだ。
うーん。縁だよななんか。

だからこそ一足先に別荘に帰り黒羽快斗として出迎えようかな・・とか思ったのだ。
多分ここまで着くのにあいつらの足で約1時間半くらいだろう。
あの家から高宮製薬会社まで1時間くらいかかる。
俺らのような若者の足での話だけど。
まあ俺はハンググライダーを使えば風しだいでもあるけど大体10分くらいでどちらも着いてしまうけどな。
「たーだいまー。」
家の前で白い装束を元の白馬に借りた服に戻し、ただの高校生に戻った。
女の子二人だけにしてはにぎやかな家の戸を叩き、わざとらしくお客が来ているのに驚くつもりだ。
果たして紅子がどこまで騙されてくれるかわからないが。

「おかえりー快斗。あれ?白馬君は?」
「あーあいつとは別行動してたからな。まだ帰ってないんだ?後で迎えに行くかな。」
もう時間は22時をまわっていた。
たぶんあいつらはあと一時間くらいで到着するだろう。
「二人と連絡とれないから心配してたんだよー。」
「仕方ねーだろ。俺は携帯持ってねーんだから。文句なら白馬に言えよ。」
ぷんぷん怒ってくる青子に俺はでこぴんをくれてやりながら文句を言う。
いつもの光景だ。


そこへ紅子がやってきて
「黒羽君はやく上がってらっしゃい。お客様を紹介するから。」
と俺達の小さなけんかを仲裁する。
「あ?客?」
訝しげに眉をよせ隣の青子にどんな奴?と尋ねる。
「可愛いーーーのーーー。」
「・・・そう。」
どうやら興奮気味の青子の事は無視することにした。

「あっえっとお邪魔してます。」
そばかすの少年が礼儀正しく頭をさげる。
「あ、うん。いらっしゃい。」
いままで騒いでいた子供達が一気に大人しくなったらしく空気が少し緊張気味だ。
あーこの空気嫌いなんだよな。
まあ初対面同士だとこんなもんなのかな。

「えっとね右からこの子が歩美ちゃん。」
「こんにちわ。」
「この子が元太君。」
「へへ。よろしくな。」
「この子が光彦君よ」
「はじめまして。」
一人一人と目を会わせニコリと微笑んでやると3人に笑顔が戻ってきた。
「俺は黒羽快斗。こいつらのクラスメートだ。よろしくな。」
ぽんぽんと頭をなでてやると3人がまとわりついてきた。
「快斗お兄さんっっ。」
おっこれは嬉しいかもしれない。
小さな女の子えっと歩美ちゃんだっけ、その子が俺のズボンの裾をつかんで笑顔で言った。
「後ね阿笠博士もいるんだけどね今コナン君達迎えに行ってるの。」
「え?」
「駄目ですよ歩美ちゃん。きちんと説明しないと。」
光彦と呼ばれたそばかすの少年が指をたててちっちっと振っている。
まあ事情はだいたい知ってるから今の説明で十分解ったけどな。
ただ迎えに行ったって事はもしかするともう帰ってくるな。
まーいっか。
のんびり子供達がする今日の出来事に耳を傾けながら青子が持ってきてくれたホットコーヒーをすする。
うーん落ち着くな。

子供達の話が灰原哀というあの怖い少女が川に流されさあ大変・・・という佳境のくだりで俺は背後からもう一人の怖い女に声をかけられた。

「あなたの光・・出会えたかしら?」
「さーな。会った記憶ねーけど?」
「あら?おかしいわね。」
「お前の占いがはずれたんだろ。」
どうでもよさげに答える。
まさかあいつ?・・・とかちょっぴり思った事はおくびも出さずさらっと流す。

話を全て聞き終え子供達の興奮がやっと落ち着いたころ、俺は簡単な手品を披露することになった。
俺がすすんでしたわけではない。青子の奴が「このお兄ちゃんはねー手品が出来るんだよーーー。」
とまるで自分の事のように自慢げに言ったからだ。
当然小さな子供は喜ぶだろう。
「やってやってーー」
「見たいーーー」
と口々に叫ぶ中に青子の「私も見たいーー。」と言う声が聞こえた。
お前子供の中にいて違和感なしだぞ・・・。
かくして俺は小さな観客達+青子相手に簡単な手品を披露したのだった。

ちょっと離れた所で紅子が微笑ましそうに見守っていたのに気づいたのは俺だけかもしれない。

あとがき

今回の目玉。
私的お気に入りのつんつん金髪君。名前が出せなかったのが残念だ。
出す機会がなかったから考えてないんですけどね。

彼はもうでてこない脇キャラの一人です。
彼と武君の会話とか芝さんがいかに彼にメロメロか・・とか。書きたかった。書かないけど。
ああ・・いかん私の煩悩が叫んでいる(爆)

当初彼はまったく出てこない筈でした。だってあの戦いに勝つつもりでしたから。
↑どうやったら勝てるんだか。
でもそれは人間技ではないと思い直しあっさり捕まる事にしました。
そしたら金髪君が登場。
嬉しい誤算です。
今回は久しぶりのため長い文にしてみました。いつもの倍くらいあるかも。

     2001.10.28