光のかけら9
「江戸川君。」
KIDと契約を結んだ哀はそのまま案内をしてもらいコナンの元へと下る事にした。
「だって使えるものは使わなきゃ。」そんな哀の声がKIDには聞こえる気がする。
まあどちらにしても追っ手は近づいていてあの場にはいれなかったのだけど。

「灰原・・。おっせーよお前っ。」
少し憔悴気味のコナン。
見るに耐えない顔の親父(しかも死体)といつ野犬が出るかわからない危ない場所で一晩をすごす事を思ってげっそりしていたのかもしれない。

「ごめんなさい。ちょっと追いかけられていて。連絡しようかと思ったのだけど思いがけない事態でここにこれたものだから。」
『思いがけない事態』のくだりでコナンは眉をキュッと跳ね上げたが、灰原は無視して話を進めた。

「こちらが佐久間さん。私を助けてくれた恩人よ。」
「こんにちわ。佐久間正です。君がコナン君だね。」

柔らかく笑いかける佐久間にコナンは慌ててさっきまでのふてぶてしい態度をひそめた。

「こんにちわ。うんそうだよ。僕は江戸川コナン。よろしくね。」
ニコリと可愛く笑われ佐久間は瞬間見とれた。
意図して作ったコナンの笑みは偽ものだとわかっていてもよろめいてしまう輩がいるほど
可愛い。
(さすがあの怪盗KIDが見初めた相手・・)
どうでもいい感心の仕方をしつつ佐久間はコナンが出した右手をギュっとにぎったのだった。



「それで?どういう事なのかしら?」
「どーもこーも・・。こーゆーことだよ。」

肩をすくめ一本の木をあごで示す。
ゆっくりと木の元にうずくまる男を振り返る2人にコナンは注意を払っていた。
特に佐久間。
「・・・・まだってさっき言ってたのにね。」
呆れたような声の灰原に
(見ただけで殺人だと分かったのか・・)
と舌を巻く。
そして佐久間の対応は―――――。
「どうして・・ここに・・・・。」
目を見開きその男を凝視していた。
(ここに?)
ひっかかる言い方だ。
「佐久間さんの知ってる人?」
「あ・・うん・・えっと・・僕がつとめている会社の社長さんだよ。」
呆然としたまま答える佐久間。
「社長さんか・・。」
(うわー。こんな奴の下で働きたくねー。)
まるで誰かのような感想をもったコナンは佐久間の動きをじっと見張る。
そっと社長に近づくと佐久間は社長の手の辺りをみやりハッと息をのんだ。
「なにかあったの?」
不思議そうにコナンが尋ねるが彼は首をふりなんでもないよと振り返って笑った。
だがその手が社長の左手からなにかを抜き取った事にコナンは気づいていた。

あからさまにあやしい・・・。

「なあ、灰原。佐久間さんといつ会った?」
「・・・疑っているの?佐久間さんを。」

いつにない剣呑な瞳に気圧されコナンは息をのむ。

「まあ・・・な。知り合いだし容疑者の一人では―――――」
「佐久間さんはそんな事しないわ。」
コナンの言葉をさえぎりキッと睨み付ける灰原。

いつもなら一緒に怪しいと訴えるはずの灰原が今回に限って佐久間さんをかばう。
もしかすると助けてもらった恩?それとも一緒にいるうちに情が移ったとか?
コナンは首をかしげた。
感情に流されないはずの灰原が今回は感情の上で行動を起こしている。
なにか理由があるのか?

「佐久間さんは・・・そんな人じゃないもの・・・。」
唇をかみしめ灰原は小さくつぶやいた。聞き落としそうなほど小さな声で。
「それなら―――――」
ゆっくりと話し出したコナンに灰原は目をあげた。

「それならさ、信じてやればいいじゃないか。お前だけでも。お前が味方なら佐久間さんは凄い心強いと思うぜ。」
コナンは灰原の背中をバンバンと叩くと佐久間の方へと押し出した。
「全ての謎を解明するのが俺の仕事だ。でもお前の仕事じゃない。お前はただ、したい事をすればいいんだ。」
「したいこと・・・。」
思ってもいないことを言われたのか灰原は呆然とコナンの言葉を繰り返した。
「ああ。信じたいなら信じて・・そして、その人の無実を証明できるように自分が見つければいいだろ?真実を。」

人差し指を灰原につきつけにっと笑ってやるとようやく灰原は身体のこわばりをといた。
「そうね・・・私が誰よりも早く見つければいいのよねその真実を。でももし佐久間さんが犯人だったらもみ消してしまうかもしれないわよ。その真実ってものを。」
いつもの灰原の笑みで楽しげに言った。コナンはホッとすると同時に負けん気がむくむくとわき上がってきた。

「ふんっ。そのもみ消しの事実すら見つけて真実を明るみに出してやるさ。どんなにお前が手を尽くしたって真実はいつも一つなんだからな。いつかは見つかる・・いや見つけてみせるさっ。」
こぶしを握りしめ決意も新たに空の星へと振り上げる。その時一瞬視界に白いものが映ったがコナンは特に気にしなかった。

きっと虫かなんかだろう。そう思ったのかもしれない。

「あー危なかった。まさかあそこで上向くとは思わなかったぜ。」
秘かに木の枝に立ってコナンを見つめていたKIDは慌てて葉の中へと身を潜めていたのだった。

side hakuba

「遅いですね。」
「は?」

無意識につぶやいた白馬の声に側でなにやらごそごそやっていた男は首を傾げ振り返った。
「あ。いえこちらのことです。」
単に出ていった快斗の事を気にしての言葉だったのだ。
(まったく・・・連絡の一つもよこせばいいのに。)

心配する自分を素直に認められない白馬は電話を持たぬ快斗に文句をつける。
「それより。あなたは一体先ほどから何をしてるんですか?」
「あれ?言いませんでしたか?」
しゃがみこみ、地面をさわさわと触るその仕草はまるで落としたコンタクトでも探しているような感じだ。
長身のしかもがたいのなかなかいい男が地面にうずくまる姿はとても異様だった。

「ちょっと落とし物があるのでこの部屋も探させて下さいって頼んだつもりだったんだけど。」
「・・・すみません。聞いた覚えがあります。」
先ほど快斗の事に気をとられていた時にそんな話をされ曖昧に頷いた記憶があったらしく素直にあやまる白馬。
(あー。まったく僕は何をやってるんだか。)

思考を戻そうと額に手をあてる。
現在わかっているのは、失踪した2人が最後に見られたのはお昼頃。
それだけだ。
まったく役立ってないじゃないか。
(絶対なにか事件があると思ったんだけどな。)
探偵の感とやらがはずれたのかもしれない。

「えっと伊瀬さんでしたっけ?」
「あ、はい。そうです。」
「もう夜も遅いですし、そろそろ床についたほうがいいんじゃないですか?」
「ええ・・でもお掃除の人が捨ててしまったら困るし。」
眉をさげる伊瀬に白馬は(大切な物を落としてしまったんだろうな。)
と見当をつけた。
「でしたら僕もお手伝いしますよ。どうせ黒羽君が戻るまで暇ですし。」
一体ここへ何をしにきたのやら白馬は伊瀬と2人して地面にはいつくばって彼の宝物を探すはめにおちいった。

「一体何をなくされたのですか?」
「・・・娘にもらったお守りなんだ。」



side C

すっかり夜も更け、コナン達一行+隠れたKIDは移動を試みた。
大体ここにいたのもこの死んだ男を佐久間さんに見てもらう為だったのだ。
やはり予想通り身元が分かったため、もうここにいる必要はなくなった。

哀に検視もしてもらったし、写真は持ってないから撮れないが仕方ない。
さてと・・・と一同が立ち上がった時、木の影に息を潜めていたKIDは第六感がざわっと何かを告げるのに気が付いた。

「何だ・・?」
同時に殺気に気づくのにめっぽう強いコナンもハッと辺りに目をやっていた。
「ど・・どうしたんだい?コナン君。」
重そうな鞄を胸の前に抱えつつ佐久間は怯えた目を辺りに向けた。
「ちっ囲まれたか。」
ちいさくコナンがつぶやくのと巧妙に辺りに隠れていた怪しい男達が周囲を取り巻くのはほぼ同時だった。
「追っ手ね。」
今更だが灰原は冷静に言った。
「言われなくても分かるけどな。どーもそこらの一般人には見えないのは俺の気のせいか?」
「そうねぇ。一般人は拳銃なんてもってないでしょうね。」
2人の小学生の会話に佐久間は青ざめた。
「けっっ拳銃?どうしてっ。」
(そりゃあなたを殺してでも資料を取り戻すだろうな。)
思ったが言わないでおいたコナンの言葉は、どうやら佐久間には分かったらしい。
「じゃなくてどうして彼らが銃なんて持ってるなんて思ったんだい?」
良くも悪くも佐久間は常識人のため、そんな非日常的な事は分からなかった。

「ああ・・簡単だよ。ほら胸の辺りが膨らんでるでしょ?」
「しかも肩が上がってるわ。素人ね。あら?でも一人だけ慣れてる人がいるわね。」
「だな。多分あいつがリーダー格だろうな。」
(なんなんだぁぁこの小学生達はぁぁぁ。)
頭を抱えてしまっても無理はないかもしれない。
「それよりさ。いいの?逃げなくて。」

うなだれる佐久間にコナンは悠長に尋ねた。
こまれもまた今更だが。
「逃げ道はないからね。」
佐久間の言葉はもっともだった。
綺麗にまわりをとりかこまれ、今は12対3だ。
一人頭四人の計算。しかも拳銃もってる人がコナンの見る限りでは4人。
(全員持ってなくて良かった・・・って言うべきか?)
ちょっぴりやけくそ気味に思うコナン。

追われていると聞いていたのに、すっかり佐久間のあやしい行動に気を取られていた。
「佐久間正・・・だな。」
黒いスーツに身を包んだリーダー格の男が佐久間に向き直りサングラスの下から鋭い瞳をとばした。
「・・ええ。そうです。あなたはこれを取り戻しに来たんですよね?
これはお返し致しますから、この子達だけでも逃がしてあげて下さい。」
拳銃を突きつけられているとは思えない冷静な態度で佐久間は鞄をかかげた。
「無理ね。」
「そうだな。」
佐久間に聞こえない声で2人は会話する。どう考えても鞄を返したからはいそうですかと解放してくれるとは思えない。
「ねえおじさん達社長さんに雇われたの?」


小首を傾げ一番偉そうな人に尋ねる。
「なんだ坊主。殺されたくなかったらじっとしておく事だな。」
「だってね。社長さんに雇われてたらね、お給料もらえなくて可哀想だなって思ったの。」
「は?」
脅しはまったく利かなかったらしく、話続ける子供に怪訝な顔を向ける。
「ほら。あそこに社長さんいるでしょ?」
コナンが指さす方向に一斉に顔を向けた。その瞬間にコナンはしゃがみ込み蹴り安そうな石を足下に集めた。

「あっっ。ボスっっ。」
「し・・死んでるのか?」
拳銃を持ってるくせに死体を初めてみたのかおどおどと近くにいた3人が社長に近づいた。
「脈がない・・・。」
やはりと言った感じでつぶやいた男にリーダー格の男はコナンへと視線をおろした。
「佐久間さんを捕まえてもお給料でないでしょ?次の社長さんと取引しないとさ。」
ニコッと可愛らしくほほえむ。
その笑みにうすら寒いものを感じつつ、その男は拳銃を左手に持ち替え、懐から携帯を取り出した。
「こいつらから目を離すなよっ。」
周りの男達に言うと話し出した。

『失礼。こちら高宮義之と契約を交わしたものだが、社長の息子はいるか?』
流ちょうな英語でペラペラと話し出す。
さすがにこの場面で日本語で話したらお笑いかもしれない。内容丸聞こえなのだから。
だが、今ここにいるのはただの小学生ではない。
どちらも英語とは馴染み深い存在だ。難なく訳す事ができる。
『お前が息子の高宮真悟だな?ああ、そうだ。私はボス・・いや、お前の父と契約を交わしていた者だ。
お前の父が死体となって発見された。佐久間正の抹殺そして書類奪還の命を受けていたが、それは続行でいいのか?』

ヒアりングの苦手な佐久間は必至に分かる単語で話をつかもうとしていた。じっと聞き耳を立てる。

『ああ。抹殺は取り消し。生け捕りにして捕らえろと?では金額が変わるがいいか?』
きっと生け捕りの方が高いのだろうな。
コナンは皮肉な気分で思った。社長が死んでいたから佐久間は助かるのだ。
だが、その息子が捕まえた佐久間をどうする気なのか。まあ、良い方向には向かないだろうが。

『警視総監の息子?なんでそんな者がそこにいるんだ?なりゆきだと?』
その男は生け捕りの理由に眉をよせた。
しかも警視総監の息子に佐久間と社長探しの手伝いをしてもらっているという。
そこで佐久間を殺してしまっては、警察の介入を許す事になり、そしてこちらは痛い腹をぐりぐりと探られてしまう・・と言ったことなのだろう。

木の上でKIDはにやっと笑った。
白馬がその場にいなかったらこの場で間違いなく佐久間は殺されていただろう。
(あいつのお節介もたまには役にたつもんだな。)

あとがき

しまってしまいました。本当は別の話を先にアップする予定だったのですが、
完結のめどが付かないためそちらを後に・・・
いえ「光〜」ですら完結危ういのですが(笑)
まあ、頑張りますが。

さて。今回はえー。あー。また拳銃。
バカの一本覚えですね。
本当はこちらで出す予定だったので「真実〜」で哀ちゃんに拳銃もたすのやめようかなぁ
と思ってたんですけどねー。どうっっしても持たせたかった(笑)

いいです。趣味の小説だからっっ。
私が楽しければ。

2001.10.6