光のかけら8
side K

つまんない探偵のまねごとにつきあい、会社内で事情聴取をしていた俺は、もうどうしようもなく飽きてきて、白馬に申し出た。

「なあ。俺その人捜しに出掛けていいか?じっとしてんの性にあわねーんだよなー。」
「ああ。そうですね。黒羽君なら空から探せますし。」
ちょっと待てそれは俺が怪盗KIDであることが前提の話だろう?
「なんの事だか。でも雨もやんできたし今なら探しやすいと思うんだよな。」
「解りました。ここは僕一人でやります。行って来てください。」
話を聞いた限りでは、社長もいないと言う噂が流れているので、ついでに社長の写真も借りていく。
二人も同時にいなくなるってどゆこっちゃ?
まさか駆け落ち?ははは。あー面白い冗句いっちまったぜ。

白馬に言われた通りなのが少ししゃくにさわるが、俺はKIDの格好になりハングライダーで空から探す事にした。

なんでKIDになるかって聞かれるとちょっと困るが、俺なりのポリシーって奴だな。これに乗る時はこの格好でと決めてるからだ。

「さてさて、どこからせめて行こうかな・・・。」
まだ少し強い風にうまく乗ると川下へとゆっくり飛行した。
「おーおーわらわらといるなあー。げっあいつもしかして拳銃もってんじゃねーのか?」
どうやらただの人捜しと言うわけではないらしい。この必至さがなーんか隠してるっつーの。
しかも拳銃様のご登場ってもしかしてかなりやばい事なんじゃねーの?
「まったくこれだから探偵と一緒にどっか出掛けるのやなんだよなあ。」
必ず事件と遭遇してしまうのだ。自分一人でも事件引き寄せ体質なのに探偵といるとさらにその確率がぐぐーーんっとアップしてしまう。

「えーっと探し人は佐久間正。三十四歳。独身。妻は3年前に他界。ほー。」

この場合独身とか関係あるのか?とか思いつつ、写真と人物の特徴がかかれた紙を見つめる。
背は180cm後半。結構あるよなー。体重は関係ない・・と。
えー髪はいつも固めて上に上げてあるっ・・てあの雨の中走りまわってたらもうそんなん原型とどめてないんじゃねーのか?
うーわー。役立たねーこれ。

あとはー。げっはげ、デブ、油ギッシュ。嫌いな金持ち像そのまんまの親父じゃねーか。
「高宮義之。52歳。社長ねぇ。」
うわーこんな奴の下でなんか働きたくねー。
写真見てげっそりする。もう一度見たくない顔だった。本人はこれよりひどいのだろうか?
「あくどいことむちゃくちゃやってそー。」

その写真は見なかったことにして、俺はもう一度佐久間の写真をじっくり眺めた。
風は安定してきたため、少々余裕が出てきたのかもしれない。
「なかなかいい男だよな。まっ俺にはかなわないけどな。」
だれもつっこむ相手がいないためそんな独り言はなにやらむなしい。

「とりあえずこっちからさーがそっと。」
二枚の写真と紙をギュッと握りしめるとポンっと手の中から消した。
まあ、単にポケットにすべりこませただけの簡単なマジックなんだけどな。
普通にしまえばいいじゃんとか青子によく言われるけどマジックは日々の小さな積み重ねが大切だからな。こんな何気ない所でも練習練習。
それが天才への一歩ですってか。

そんな事を考えているとおや?何やら人影を発見。
しかも・・あれは―――――

「江戸川コナン・・・」
呆然とした声が転がりでた。俺にしてはめずらしい事だ。
まさかこんな所で見かけるとはな。
そうかドライブってここだったのか。凄い偶然だ。

『あなたが探していた光』

フっと紅子の言葉が思い浮かんだ。光ねえ。
暗くなってきた山の中に一人ポツンと頼りなげに座り込むコナンを見つめ俺は心の中でつぶやいた。

「まさか・・・な。」

あいつなわけないよな。

肩をすくめ無理矢理奴から目をそらす。するとちょっと離れた辺りにまたもや見知った顔を発見した。
あの少女は。

昨日コナンと一緒にいた普通じゃない少女。
しかも同行してるのは俺が探してるやつじゃねーのか?
慌ててさっきしまった写真を取りだし見比べる。

「間違いない。佐久間だ。」
しかもその二人に接近する12,3人の怪しい人たち。とりあえず、警告ぐらいはしておくかな。

ハングライダーをスウッと飛行させ、少女の上まで行く。

「お嬢さん。」

「え?」

慌てて見上げる少女の顔。それはやはり小学一年生にしか見えない。
白い装束の俺を見て目をぱちくりさせている所がまた幼くて可愛らしかった。


side ai

哀は声に驚いて見上げたわけではない。気配に気づいて見上げたら驚いたのだ。

(あらあら。まさか彼だとは思わなかったわ。)
昨日の帰り道、コナンが気にしていた視線の主。
哀はさっき昨日と同じ気配を感じたのだ。
そして、見上げたら彼がいた。昨日ストーカーまがいの事をしていたのはこの
白い怪盗なのだろう。
そう思い、とてもびっくりしたのだ。

(まさか怪盗があんなにあからさまに気配を見せるなんて思わなかったし、それにあの視線は・・・)
あの視線の意味まで哀は読んでいた。
そして、ふふ・・・・。


「こんにちは。もうそろそろこんばんわかしら?怪盗さん。」

抑えきれない笑みを浮かべ哀は楽しげに話しかけた。

「そうですね。こんばんわ・・ですね。私は夜しか現れませんから。」
哀の笑みにうすら寒いものを感じつつも紳士的に答えるKID。
「今日はすこし早いみたいね。それで?夜の怪盗さんは私になんの御用なのかしら?」
「いえ、少々忠告を。あなた方を捜している沢山の星達がこちらに光を向けております。」
「あら?そんなに遠回しに言う必要はないのに。追手が来たのね。」
「ええ。そう言うことです。」

空の上から少し目を細めて遠くを見つめるKID。
哀はニコリと笑うと

「ねえ。怪盗さん。ちょっと手を貸してくれないかしら?」
「おや?怪盗に頼み事ですか?」

KIDはようやく地に降り立ち、楽しげに尋ねた。

「レディには親切に・・が紳士の基本よ。」
「あいにく私は今いそがしいので―――――」
「仕方ないわね。言い方をかえるわ。」

(うわ。この言い方紅子そっくり。)
嫌そうな顔をそっとシルクハットで隠すと、哀に先の言葉をうながす。

「取引しましょ。」
「・・・・・。」

(なに言い出すんだこのガキ。)
まさかこんな子供の口から取引なんて言葉が出てくるとは思わなかったKID。

「そちらは私が危機の時手を貸してくれればいいわ。」
(くれればってかなりそれは大変なのでは・・。)
「で?私は何のメリットがあるのですか?」
(そんなこっちまで危険になるような頼み事聞けるかっての)

そんな気持ちをおくびも出さず、KIDは穏やかな笑みで問いかけた。
「そうね・・・・」
KIDの目をしっかり見つめ、意味深に笑うと、



「江戸川コナンの恥ずかしい写真三枚セット・・・なんていかがかしら?」



その瞬間空気が凍り付いた。


KIDの腕時計がチクタク時を告げるのすら聞こえるほどの静寂が、数分ばかし辺りに広がった。

「あ・・哀ちゃんそれは人間としていけないのでは・・。」
そっと洞窟から覗いていた佐久間が耐えきれず声をだした。

「あら?一番効果的な手よ。ほら」
とKIDを見やる哀。

(ほしーーーーーーむっっっちゃほしーーーーー。いやでも紳士がそんな物欲しがったらただの変態に成り下がるのでは・・・でもほしーーーーー。)

口元に手をやり苦悩するKIDに佐久間はポカンと口を大きくあけた。

「えっと哀ちゃん。その・・コナンっていうのは・・男の子だよね?」
「ええ。小学一年生の可愛い男の子よ。」

しらっと答える哀に佐久間は頭をかかえた。
怪盗KIDなんてすごい人を間近に見れて、さっきまで興奮していたが、その彼がまさか小学生のしかも男の子の写真を欲しがるなんてショックもいいところだ。

「まっ深く考えているあたりでもう救いようがないわね。怪盗さん。契約成立よ。」
ポンっと軽く怪盗の足を叩いてやると哀は怪しい笑みをうかべた。

(こんな大物の弱点を手に入れるなんてラッキーね。この先たびたび使えるわ。)
きっとそんな事を考えている笑みだろう事は紅子で慣らされつつあるKIDには簡単に想像がついた。


(やばい相手に弱みをにぎられてちまったな・・・)
なんでこんな時に限ってポーカーフェイスで対応できないんだか。
「なんのことです?」
とかとぼければいいのに、つい誘惑に負けてしまった。

でも・・・どんな写真だろう。
そんな事をウキウキ考えてしまう自分がちょっぴり悲しいKIDであった。

 

あとがき

なにが楽しいってKIDと哀ちゃんの会話ほど楽しいものはないですね。
しかも哀ちゃん圧勝。さすがですっ。

ああ。満足って感じです(笑)

でも私もコナン君のあやしい写真なら欲しいっす。
哀ちゃーん取引しよー。

さて、次回はやっと出会えるか?
なかなか出会えない彼らです。
じらしのテクニックは一級品っっ←意図してやっているわけではないのにね(笑)

しかし気づいている人もいるだろうが今回コナン君出番ないし(笑)
まあいっか。

2001.9.28