光のかけら11

Sde C

あの倒木があった辺りを少し過ぎたころ一台の車が猛烈にトロイスピードで前から近づいてくるのに気が付いた。
あの車は・・・。
「哀君っ新一。」
がーーーーと窓を全開にして顔をだす。
「あっ博士迎えに来てくれたんだサンキュ。」
「悪いがちょっとここで待っててくれんかの。近くでUターンしてくるから。」
「おっけ。」
「解ったわ。」
灰原の顔をじっくりと見た阿笠博士はホッとしたのか肩の力をようやくぬいた。
そして自己紹介は後・・と佐久間に軽く頭を下げると少し下でUターンをして戻ってきた。
「乗りなさい。」

いつものごとく助手席は灰原。そして後にコナンと佐久間が座る。
「あなたが哀君を助けてくれたそうですな。」
前を向いたまま博士は佐久間にお礼の言葉を述べた。
「ええ。えっと佐久間です。」
「阿笠です。哀君の保護者です。」
「おじいさまで?」
「・・・そう見えますか?」
やっぱ年寄りに見えるのか・・と阿笠はささやかに傷ついていた。
それを側で聞いていたコナンはくっくっくと押し殺した声で笑う。
「新一ぃぃ。」
「悪い。だって博士・・あはははは。そっかおじいちゃんか。そうだよな。」
そんな歳じゃん博士っ。
と思い切り笑われ博士は唇をゆがめた。
自分はまだまだ若いつもりだったが世間ではもうそんなに若くないということだろう。


そんな事を考えつつ隣にちらりと目をやる。
そこにはびしょぬれの灰原哀。
「新一。後にタオルがあるはずじゃ。哀君に一枚渡してやってくれ。」
「ああ。そっかびしょぬれだもんな。風邪引くぜお前。」
「それを言ったらみんなそうよ。吉田さん達も雨に濡れてたし佐久間さんもそうね。」
コナンからタオルをうけとり頭をふく灰原。
暖房をがんがんに効かせているがどうやら寒かったらしく小さくくしゃみをする。


「え・・っと一ついいですか?」
コナンからタオルを受け取りありがとうと笑うと佐久間は博士に向かって尋ねた。
「なんじゃね?」
「しんいち・・ってコナン君の事ですか?」
「お・・・。」
しまったといった顔で博士は口ごもる。
「えーっとまあそのぉ。」
「あだ名みたいなものだよ佐久間さん。」
狼狽える博士に対してコナンは慌てず騒がず当たり障りのない答えを返した。


「へーそうなんだ。そういえば今さらだけど阿笠さん来たのなら僕はあのまま降りればよかったんじゃ・・・。」
あまりに今更な事のため引き返してくれとは言えなくなってしまった佐久間。
コナンはもちろんとっくに気づいていて、さっきの時点で「じゃあね・・」と手を振られたらどうしようかとちょっぴり思っていた。
「まあいいじゃない。灰原の恩人さんなんだしきっと歩美達っ―――――一緒に来た奴らもお礼言いたいと思うんだよな。」
「そうじゃな特に歩美君はとても責任を感じていたからきっと佐久間さんに一言言いたいだろう。」
「あら吉田さんのせいじゃないのに。」
悪い事をしちゃったわ。と目線をおとす灰原。
相変わらず歩美には甘い奴だな。
歩美を心配する灰原にコナンは苦笑する。


「おじゃましているのは白馬さんという人の別荘なんじゃが今家の持ち主が出ていて未だに挨拶しておらんのじゃ。」
「ああ。人捜しにってそれもしかして佐久間さんの事探しに出てんのか?」
よくよく考えてみるとかなりやばい事態なのでは?
このまま佐久間さんを連れていっていいのかなぁ。


「今いるのは中森さんと小泉さんという二人の少女じゃよ。たぶん蘭君と同じくらいの年頃じゃな。」
「へー。なんだてっきり家族連れかなんかだと思ってた。高校生くらいか。」
「二人出ていったというのも女の子なのかしら?」
「いやそちらは男二人じゃな。」
「それって・・・。」
ダブルカップル?
かなりお邪魔なのでは?
コナンが引きつった笑みで尋ねる。

「いやクラスメートらしい。バーベキューにきたら雨のせいで帰れなくなったそうじゃ。」
「あー雨ねあの倒木のせいかもな。」
困るよな雨だけならともかくとコナンは嘆く。
「ねえ江戸川君。このまま佐久間さん連れていってもいいのかしら?」
さっきの言葉で考えていたのだろう灰原はタオルで髪を拭きつつ後に目を向けた。
「俺もちょっと思ったけど大丈夫だろ?多分。」
これまた無責任に楽観的な言葉を吐くコナンに灰原は少々いらついた。
「どうやったらそんな楽しい考え方が出来るのかしらね。もう少し最悪のケースを考えてみて欲しいものだわ。」
「なんだよ。俺だって一応考えては―――――」
むっと言い返すが
「例えば?」
途中で遮られてしまった。
「だからそいつらが向こうの手下になってる場合の話だろ?んな事いってたらキリがないじゃねーか。」
もしかすると話せば解ってくれるかもしれないし・・・
そんな事まで言う始末。
「なんてお気楽な思考なのかしら。爪のあかでも分けてほしいくらいだわ。」
「いーぜ?欲しいなら分けてやろーか?」


「これこれその辺でやめなさい。」
ぐっと運転席と助手席の背もたれの間から顔をのぞかせるコナンの頭にポンと左手をのせる阿笠。
「だって博士っっ」
ぷうっと膨れる姿はどこからどう見ても小学一年生にしか見えなかった。
「新一は白馬と言う名に記憶はないかね?探偵と言っていたのじゃが。」
ポンポンと軽くなだめるように頭を叩くとコナンはんーと首をかしげる。
どっかで聞いたような気ぃすんなー。
あ?高校生で探偵で白馬。
その瞬間頭の中でポポン・・と一匹の大きな鷹を思い出した。


「あっそうかあいつか。」
古典的に手のひらを打つとコナンは一人でうんうんと納得する。
「知ってる人なの?」
「あうん。以前『黄昏の館事件』で会ったんだよ。」
「ああ、職業として認められているのが不思議な職業『探偵』が寄せ集められたあの事件ね?」
灰原の失礼な言葉にそうそうと嫌そうにうなづく。なんだよその不思議なって。


あの時は大変だった。
ヘリじゃあ山道に降りられないため一回山のしたまで運んでもらってからもう一度おっちゃんのいるガソリンスタンドまで警察に運んでもらったのだ。
どうやらあの一件以来おっちゃんのKIDに対する嫌い度はぐぐんとアップしたらしい。
そりゃあんな目に会えば当然といえば当然。
コナンはしみじみと思い出していた。

「あーそういやあん時もKIDが出やがったんだよな。ってかKIDが主犯だと思っていったら違う人だったんだけどよ。しかも寸前で取り逃がしたし。あーむかつく。」
あそこであのばーさんがヘリから飛び降りなきゃっっ。
とぶつくさ文句を言うコナンに佐久間はやっぱりKIDとはよく会ってるんだなと感心したように見やった。
あれを会ってるというのか。はたして疑問だが。


「そういや博士さっきKIDに会ったぜ。」
「は?」
「ここら辺に有名な宝石でもあるのか?」
「さあどうかな?相変わらず縁があるのう。」
「はっ腐れ縁ってやつか?会いたくもねーって。」
けっと吐き捨てるコナンにとなりで聞いていた佐久間はKIDが哀れになってきた。
向こうはお気に入りみたいなのにね。片思い?
つらいねKID。

「白馬にKIDに俺・・・かそりゃ事件も発生するってもんか。」
探偵二人に泥棒一人なのだ事件体質がここまで集まれば事件の一つや二つ起こってもおかしくない。
「ってことは俺だけのせいじゃないって思わねーか博士?」
「さあの。新一は根っからの事件引き寄せ体質じゃからの。」
「なんだよ根っからって。いつもいつも事件に遭ってる見たいな言い方すんじゃねーよ。」
「おや?違ったかの?」
「たまにだろ。たまーに。」

「あのねコナン君。こーゆー事件っていうのは一生に一度遭遇するかしないか・・ぐらいなんだよ?」
「・・・・・。」
「それにあの怪盗KIDもね。僕なんて今日みれてすごいラッキーとか思っちゃったよ。」
「は?」
「だって今話題の人だよ?話すどころか一生お目にかかることすら出来ないって普通なら。」
お・・俺って普通じゃなかったのか?
ガーンとショックをうけるコナン。どこをどうやって普通だと思っていたのやら。


「でもその白馬って人があなたの知り合いならなんとかなりそうね。」
まるで世界がコナンを中心に回っているかのような錯覚を覚え灰原はため息をつく。
なんて都合がいいのかしら。
真剣に考えている自分がばからしくなってくる。

「そうだな。って言っても大して話した事ないけどな。大体KID関連で現場で会うとかだからな。」
しかも現場で会っても大抵話すのは小五郎である。
「そうなの。その人もKIDを追いかけているのね。」
「そうみたいだな。あー。ちょっと待てよ。なあ博士。」
「ん?」
「女二人のうち一人が確か中森とか言わなかったか?」
「おうそうじゃよ。中森青子さんじゃったかな。」
その言葉を聞きコナンは目を据わらせる。


まーさーかーあの人の娘だったりしないだろうな?
いやだがそんな偶然があるものか?
現場でよく叫んでいるあの男。

KIDの名を聞けば飛んでいきKIDを見つければウキウキと追いかけ、KIDが現れなくなると元気がなくなるというあの中森警部。
うわーあの人苦手なんだよな。
怖いから。

「なに?その人も知ってるの?」
まさかねと思いつつ灰原は尋ねる。
「いやもしかすると中森警部の娘さんかな・・と思っただけ。」
KIDがいるし白馬がいるし警部の娘がいてもなにやら変じゃないかもとか思ってしまったコナン。
いやその前にあの人に娘がいるのかすら解らないんだけどな。

「中森警部?」
警察と知り合いなの?と佐久間が問いかける。
あ、やばい事言ったかな?
「えーっとね。怪盗KID担当の警部さん。僕じゃなくておじさんが知り合いなんだ。」
「へえ。そうなんだ。」
おじさんって誰だろうと思いつつそれ以上つっこむのも悪いと思い佐久間はうなずいたのだった。








今のコナンの心の内を聞いたらきっと灰原は怒髪天をついていつもの冷静さをかなぐりすてて怒鳴り散らしたかもしれない。


「ま、なんとかなるか」
なにせ彼はそんな事を思ってていたのだから。


あとがき

ものすごくお久しぶりです。
実は二ヶ月ばかし間をあけてました。
しばらく「約束」にはまっていて「光〜」に手をつけていなかったもので(笑)
もし待っていて下さった方いらっしゃったらすみません。
ようやくアップです。
もうすぐ二人の本当の出会いですね。
なんとか言うか・・・・何も考えていません(涙)
予定とものごっつい狂ってしまったので、話が歪む歪む。どこからずれてきたのかすら私には解りません(笑)
とりあえずこれはなんとか終わらせます。私の意地に掛けてっっ。

2002.1.3