もう12時も過ぎたというのに一人一人を呼び一室で尋問する白馬(「社長室の鍵を取りに行ったんじゃないんですか?」と尋問中伊瀬に素朴な疑問を尋ねられ綺麗さっぱり伊瀬の事を忘れていた白馬は事情聴取真っ最中にぺこぺこ頭を下げたという経過がある。)に快斗はあらかたの人の事情聴取が終わった頃に尋ねた。
「なあ・・もしかしてさぁ。違ったら悪いかなぁぁぁと思って黙ってたけど、これってあれか?事情聴取」
「黒羽君・・・あなた最初から分かっていたんじゃないんですか?」
「ぜーんぜん。たった今気付いたぜ?いやーそうかそうか。そうだよなー殺人事件発生だもんな。事件大好き探偵君としては放ってはおけないってか。っつーかそのせいで俺はさっきまで外ウロチョロしてたんだけどよー。」
「部屋でぬくぬくご飯食べてたのはどこの誰でしたでしょうね。」
「・・・・」
それを言われると何も言い返せない快斗。
「まだ根にもってやがるよこいつ。嫌だ嫌だ。やっぱこーゆー奴の方がねちっこいんだよなー。あー俺ってさっぱりしてて素敵ぃ。」
「誰がさっぱりしてるんですか?大体なんであなたまで怒ってたのか教えて貰ってないんですけど」
「いやお前関係ないし」
「八つ当たりされた僕に関係ないと言い切るあなたもなかなかの人ですね」
「そうか?たかが飯一つ奪ったくらいでうだうだ言うなって。大人気ねーなー」
(それはこっちのセリフです。)
ぬかに釘。のれんに腕押し。
快斗と会話をしているとそんな言葉が時々頭を横切る白馬。
ヒラリと闘牛士のように避ける快斗にだんだん体当たりしていくのが疲れてくる。
そして疲れ果てて諦めよう・・と思った時に限って彼は何か不思議な表情を覗かせるのだ。
ハッキリいってずるい。そのせいでまた彼の事が知りたくなって体当たりを開始してしまうのだから。
(きっとそんな事をいったら『お前の気のせいだろ?』とか『訳わかんねー事いうな』とか言うんでしょうね)
ハア・・・とこれみよがしに盛大なため息をついた白馬に快斗は「ん?」と首をかしげる。
なーんかこいつくたびれてんな。
あーでも考えてみりゃ昨日いろいろあったしな。
雨のせいであの重い荷物を抱えて別荘へ向かった事、ここで色々な人に話を聞いていた事、そしてついさっきまで伊瀬という人の宝物探しに付き合っていたらしい。
しかも更に今こうして尋問開始だ。
本当にタフな奴だ。
12時を越え、昨日と一くくりに出来てしまう過去の出来事をゆっくり思い返し、快斗は眉をしかめた。
「あー大体お前がこんな事に自ら首を突っ込んだのが悪いんだよっそうじゃん。うわーー元凶お前だったんだ。すっかり忘れてたぜ。」
いろいろありすぎて快斗もすっかりど忘れしていた。
よくよく考えてみれば白馬が「僕もお手伝いします」
なんて言わなければよかったのだ。
それがなんだ?飯の一つで文句いいやがって。俺こそ文句言いたいって。
「探偵にあの怪しい人たちを見過ごせというのは息をするなと言うのと同じことです」
「大げさな」
「いえ。真の探偵というのはそう言う物なんです」
グッとこぶしを握りしめ力説する白馬に快斗は肩をすくめ「へーへー」とうなづく。
それに眉をよせつつも
真の・・・ねぇ。
それじゃああいつも同じ状況に陥ったら同じ事すんのかな。
っていうかあいつの場合自分から突っ込まなくても向こうから事件やってくるしな。
そこまで考え快斗はククっっと笑い出してしまった。
「な・・なんですか黒羽君突然に」
「いや思い出し笑い。まあ真の探偵がどんなんかしんねーけど犯人のめどはついたのか?」
「いえ・・とりあえずさっきリストを頂いたので消去法で5人ばかし残ったところです。」
「へー減ったじゃん?」
「ええ。53名の従業員、社長の息子真悟さん、たまたま午前中にいらしていた取引相手の柴田さん、そして昨日・・いえもう一昨日ですね、泊まりがけでこの近辺の森を視察していた社長の古くからの友人だと言う建設会社の城戸さん。計56名の中から当日アリバイの無かったのは5名。」
「アリバイっつーとあれか?社長が死んだ場所からの往復の時間の間だれもあってない奴」
「そう。5人です。丁度昼食時でしたから大体食堂に集まっていたため、これだけ絞れました。」
自室で食べていた真悟。
同じく自室で食べていた城戸。
腹痛だと部屋で寝ていた従業員の宮越。
行方不明になった佐久間。
そしてもう一人社長自身。自殺はたまた事故という考え。
「正確には4人か。多分あの状態なら自殺ではないだろうし、事故の線も薄い。」
「黒羽君・・・遺体を見たんですか?」
続けて何故それをさっき真悟に言わなかったのか尋ねようかと思ったが、快斗の紫紺の瞳がゆっくり辺りを彷徨い何かを考えている風だったので白馬は慌てて口を閉じた。
「ん・・・ああ。佐久間も見つけた。ちょっと色々あって今お前の別荘にいるぜ?っと正確には俺はまだ会ってないけどな」
しばらくたってようやく焦点が自分の顔へと結ばれた頃快斗は返事を返してきた。
その言葉に大方空から見てたんでしょうねと見当つけた白馬は一つ頷くと、
「縁ですね・・・」
窓の外へと目を向け小さくつぶやいた。
嫌な縁だな。
快斗も同じくすっかり真っ暗な窓の外を眺めて小さく心の中でつぶやいた。
雨は止んだが月はない。少ししめった空気に未だ灰色の雲が連なっていた。
あの小さな探偵は今頃何をしているのだろうか。
そんな時ではないのに快斗の頭はそればかり考えていた。
夜は長い。そして短い。
明日の出会いを楽しむ為にきちんと睡眠はとらなければならないな。
「白馬・・・あのひも。運がよかったらルミノール反応でるかもしれねーな」
「え?」
突然の快斗の言葉に目をぱちくりさせる白馬をよそに快斗はソファからゆっくり立ち上がり背を見せる。
「俺は寝る。起こすなよ朝まで」
「ちょっ黒羽君っっどういう事で―――――」
「自分で考えな。た・ん・て・い・さん」
Side C
白馬が快斗にご飯を奪われている頃ようやく別荘にたどり着いたコナンは暖かな歓迎をうけようやく今日初めて一息つけた。
よくよく考えてみると本当に今日と言う日は忙しかった。
朝っぱらから元気に山に来たはいいが、カレー作るのに苦労するわ、雨に降られるわ、灰原は川に流されるわ(これが一番驚きだな今から考えると)、死体を見つけるわ、犯人らしき人と出会うわ、殺し屋みたいな奴らに殺されそうになるわ―――――あとは・・ああそう言えばKIDにも出逢ったしな←付け足しっぽい
考えてみればはちゃめちゃな一日だった。
「疲れたぁぁぁ」
哀の次に風呂を使わせてもらったコナンは体の疲れが一気に来たのか眠気におそわれた。
でもまだ今日中にしなければならない事が残っている。
睡魔を青子が作ってくれたココアで追い払うと(甘くて目が覚めた)動きのノロイ手で携帯を鞄から引きずり出す。
コール三回で出た相手の第一声は家の電話にも関わらず
『工藤か?』
だった。
「おうーーおーれだーーーーー。よくわかったなぁーー」
きびきびした喋りなんてもう出来る状態ではない。
今この場で寝てもいいと言われたら3秒以内に夢の世界に吹っ飛ぶだろう。
隣りには哀の無事な姿を見てようやくホッとしたのか三人の子供達がすやすやと安らかな寝息を立てていた。そして当の哀もさすがに疲れたのか小さく丸まって歩美の隣りで眠りについていた。
布団三枚に子供5人。狭くはないが、元太の寝相の悪さのせいでコナンは端っこに追いやられていた。
『そらまあこんな時間にかけてくんのはお前くらいやろし。なんや工藤むっちゃ眠そうやな。』
「むっちゃ眠みーんだよっ。んで?どうだ?頼んでたもん」
『ああ。調べたっ。ちゅーか今もまだ調べてるけど・・・お前なぁ突然電話しくさっておかげで和葉との約束ドタキャンしたんやで?後でフォロー手伝えや。』
「ああ。フォローでもなんでもすっから早く言えっ俺は眠いんだっ」
『人使いの荒いやっちゃなー。ったく・・・えーっとなんやっけ高宮製薬のなんとか支店のリスト?そん中からー既婚者だせっちゅーたな。とりあえず該当したんは7名。そのうちの一人がさっき工藤が言うとった佐久間っちゅーおっさんやな。ほんで更に子供のいる人っちゅーのはたったの2人しかおらんかったで』
佐久間の方は正確には妻は三年前に他界しとるけどな。
付け加えるとコナンは閉じかけた目をこじ開け先を慌てて促す。
「で?その二人は?」
『社長と従業員の伊瀬っちゅーおっさん。それだけや』
「ああ。そうか社長には息子がいるらしいからな。それは除外だから伊瀬さん・・・か。まあ予想通りだけどな。こんな所で働くくらいだから大抵独身男性が多いし、子供がいる人はのっぴきならない事情でも無い限り別の仕事に就くな。」
めったに家に帰れないのだから家族持ちにはちょっとつらい職場だ。
『ま、そゆこっちゃ。』
「それで?やっぱり小さな女の子だよな?伊瀬さんの子供って」
『ああ。そうや。よー分かったな工藤。今そん人について調べ取る所やったんやけどな・・・なんか・・・やばいことになっとる見たいやで』
「やばい事?」
『ああ。』
それがな――――――――――
その先に続く服部の言葉はコナンの霧の掛かった思考をハッキリさせるに足る出来事だった。
「・・・そうゆう事だったのか」
真夜中。とは行ってもたどり着いたのがすでに12時に近づいていたので今は朝方の2時。
「ごめんね哀ちゃん。コナン君。」
大きな黒い鞄を一つ抱え。佐久間はそっと白馬の別荘を後にした。
皆がすっかり寝入るのを待っていたのだ。
佐久間だって昨日の疲れは溜まりに溜まっている。
だがこのままここでノウノウとしている訳にはいかないのだ。
これを一刻も早く届けないといけない。
もしかするとさっき車の中で哀が言っていたようにこの別荘の持ち主が会社の人と通じていたら・・・。どう考えても今しかチャンスがない。
嫌な考えばかり頭の中で巡ってしまい佐久間はどうしようもなく、置き手紙一つで山を下る事にしたのだった。
「あー・・寒っ・・。一度ゆったりしちゃったから余計に体に堪えるな・・。」
むなしい独り言をつぶやきつつ朝の散歩のような足取りで木の間を抜けていく。
辺りは夜だけあって暗く、しかもさっきまで哀というお供が居たせいか一人がとてつもなく寂しく感じる。
そんな自分に苦笑をしていた佐久間はどこからかガサッと草を踏む音が鳴るのを聞き取り緊張を顔に走らせた。
「佐久間さん」
「え?」
目の前の木の陰からまさかの人物が現れた。
月は出ていないというのにまるで月明かりに照らされたかのようにその人物だけ周囲から浮き上がっていた。凛とした双眸は自分を映し、小さな体がまるで立ちはだかるかのごとく進行方向を塞いだ。
「コナン・・君」
しっかり寝ているのを確認してきた筈なのに何故ここに?
「出ていく事は予想ついていたんだ。でも僕も眠いんだから大人しくしていて欲しかったんだけどね。とりあえずあなたに言って置かなければならないことが一つだけあるから。」
眠いといいつつ、疲れているだろうにしっかりとした足取りと口調で佐久間に近づいてくるコナン。
「コナン君。何を言われても僕は今から山を下りるよ。これを少しでも早く警察に届けて一人でも救いたい。例え僕が捕まったとしてもね」
「うん。それは分かるよ。でも一つだけ。社長を殺害したのは・・・あなたではないよ。佐久間さん。」
その言葉に雷を打たれたような衝撃をうけた佐久間は抱えていた鞄を取り落としそうになった。
「―――――どういう事だいコナン君?」
二人の真剣な瞳が交差した。
コナンの小さな唇が寒さに震えつつもハッキリとした声でよどみなく紡ぎ出す。
真実という・・現実を。
「あなたは高宮義之さんを殺していない。これはハッキリとした事実です」
ようやくその言葉が頭の中に浸透したのか佐久間が青い顔で尋ねた。
「・・・・・そしたら誰が?」
その問いには答えずコナンは静かな声で続けた。
「今日、僕が見つけた真実を皆の前で話します。でもまだ予想の域を超えていないから真実とは言い切れないかもしれないけど。でも・・・根拠のある話だから・・・後であなたの会社まで連れていってください。」
とても冗談を言っているようには見えないコナンに佐久間も強ばった顔で頷いた。
真実を知りたい気持ちと、コナンの蒼く鋭い瞳に気圧されたのとでまるで催眠術にかかったかのように朦朧とした意識で頷いた佐久間はコナンに連れられ別荘へと戻った。
あの場に戻ったらどうなるかなんて佐久間は分かっている。
例え社長が亡くなっていたとしても、息子がいる。
この鞄を警察に突き出すという使命は果たせないだろう。
それでも本当の事を知りたい。
自分が着いてくると信じて疑わないように前へと歩みを進めるコナンの背を佐久間はぼうっと見つめた。
蒼い瞳を思い出す。
甘えを許さないような。中途半端を許さないような。
強いまっすぐな瞳。
そうだったこの子はあの怪盗KIDが一目おく存在。
ただの子供とみくびったらいけない。
今更ながらに目の前の小さな子供の存在の大きさに佐久間はため息をついた。
真実を見透かす目と、絶対諦めない強い意志、
「探偵」
そんな言葉が佐久間の頭にフイに浮かぶ。この子は探偵なんだ。きっと・・・生まれながらの。
Side K
次の日、朝っぱらから元気に活動していた白馬は、いぎたなく仮眠室で惰眠をむさぼる快斗に肩をすくめつつ、昨日の快斗の言葉を考えていた。
昨日も寝るまで考えていたのだ。
だがさすがに疲れた思考では頭もうまく動かずしっかり寝て明日考えようと思い、床についた。
「ルミノール反応が・・・」
白馬特製探偵七つ道具に入っているルミノール液。
やはり反応は出た。
快斗の言うとおり
ひもの所々にまばらにでた反応に白馬は首をかしげる。
一カ所だけなら被害者が死に際に掴んだという可能性がある。
だが全体的にしかも点々と。
どういうことだろう?
ひもが落ちていたのは真悟の部屋の下あたり。
言い換えれば社長室の下でもある。
もしかすると社長室からひもがのびていたのだろうか?
だとするとまさか・・・いやそんな非常識な事普通するだろうか?
こんなひもで―――――
だがもし仮説が当たりだとするとアリバイは崩れる。
昼から往復4時間かけて社長・・高宮義之が殺された現場へ行く必要はなくなるのだ。
その仮定で考えるならば犯行は社長室の窓辺となる。
そこから遺体を運ぶ必要はどこにあったのだろうか?
おそらく凶器は今はない社長室のテーブルの上にあった灰皿。
ヘビースモーカーの高宮の部屋に灰皿がないのはおかしい。
一応昨日のうちにそれだけは見て置いた。
とすると・・・
犯人は誰一人絞れていない事になってしまうのだ。
56人の容疑者。
僕にどうしろと言うんだ?
「よお・・白馬はえーな。」
かちゃりと社長室の扉を開きはいってきたのは寝癖をそのまま跳ねさせた快斗だった。
接客用のソファに座りテーブルの上に置いたひもをジッと見つめていた白馬はようやく顔をあげどんな所でも我が家のごとく、くつろげてしまう快斗に唇をとがらした。
「黒羽君。もう10時過ぎですよ」
「だって寝たの2時過ぎてたしー。あーよく寝た」
うーんと背伸びをして白馬の向かいにあるソファの背にもたれかかる。
「寝すぎです。」
「いいだろ。睡眠不足はお肌の大敵なのよぅ」
「・・・・」
「このハリのあるお肌がカサカサになったらお前どう責任取るつもりだ」
「いえ。もう良いです。」
またもやのれんを押しているような気がしてきて諦めて会話をうち切る白馬。
「ああ。それやっぱ出たか」
テーブルの上に置いていた昨日拾ったひもを見て快斗は即座に反応を見破ったらしい。
「ええ。あなたの言った通りでした。なんでそう思ったんですか?」
「んーまあ色々とな。」
「このひもは元はもっと長かった筈ですよね?」
切れたのか切ったのか一見わからない状態の先端に白馬はきちんと気付いたらしい。
それにまあ「真の探偵」だしそんくらい分からなきゃな。と苦笑しつつ、快斗は頷いた。
「多分な。残りがどこにあるかはしんねーけど間違いなくあのおっさんが居た位置より下に落ちてんだろうな」
「ええ。でも・・・それ以上は僕にはさっぱり分からなくて・・」
こんなんで探偵を名乗ってもいいものだろうかと落ち込む白馬に快斗は顔をゆがめた。
めんどくせーなー探偵って職業は。
「ま、お前の今回のポジションはどーも不利だしな。今回は別の探偵に任せとけよ」
「別の探偵って・・・あなたですか?」
訝しげに下からのぞき込まれ快斗は瞬間爆笑した。
ぶはっっ。
「ありえねーー絶対ありえねー」
世界の終わりがきても俺が探偵なんてしないって。お腹を抱えて笑い転げる快斗に唇を尖らせて
「それじゃあ―――――」
と、なおも言い募ろうとした白馬。
その言葉を突然笑いを治めた快斗が右手を一振りして止めた。
扉の向こうから気配を感じたのだ。
そんな快斗をなにが起こったのか未だ分かっていない白馬がキョトンと見上げた。
「誰だ?」
快斗は大股に扉に近づくと一つ呼吸をしてから勢いよく戸を奥へと押した。
戸の向こう側で叩こうか叩くまいか悩んでいたらしいその男は突然開いた扉に三歩ばかし飛び退いた。
「伊瀬さん?」
立っていたのは昨日一緒に宝物探しをした伊瀬だった。
白馬はソファから腰をうかし驚いた様子で伊瀬を見つめていたが、しばらくしてハッと我に返り新たなお客人を部屋へと招き入れた。
「もしかして今からこの部屋を探すんですか?」
「いえ・・・その・・・・」
歯切れの悪い伊瀬に白馬はとまどう。
こういう反応をするとき相手はなにかを思い悩んでいる。
言うべきか、言わざるべきか悩んでいるのだろうか?
いや、たが目の前の男の瞳はきちんと決意をしていて、言う・・と決めているみたいだ。だが言うに言えず・・そんな感じだ。そこまで観察し終えると白馬は前のソファを勧めた。
まるでこの部屋の主人であるかののように。
「実は・・聞いて頂きたい事がありまして・・・」
「はい?」
つっかえつっかえ話す伊瀬に周囲の空気は緊張を含み出す。
伊瀬の顔は強ばっており、うすらと暑くもない筈なのに汗が浮かんでいる。
膝の上に置いた彼のこぶしがガチガチに強ばっていた。
そんな中、快斗はちゃっかり社長専用のイスに座りクルクルと楽しげに回っていた。
なんであなたはこんな空気の中そんな事が出来るんですかっっ。
テーブルの下でグッとこぶしを握りしめつつ緊張を辺りに伝染させていく伊瀬に柔らかな対応で先をうながした。
「いいですよ。なんでもおっしゃって下さい」
「・・・その・・・・」
スーハーと深呼吸を数度繰り返したのち伊瀬は爆弾発言を述べた。
「実は社長を殺したのは私なんです」
「は?」
白馬の間抜けな声がやけに大きく部屋に響いた。
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