光のかけら5
sideC

突然激しい雨が降りだした。
丁度食べ終え、道具を洗っている最中のことだ。
山の天気が変わりやすいことを知っていながら空を確かめるのを忘れていた
コナンは自分の失態にちっと舌打ちをする。
「これで最後じゃな?」
「いえまだあちらで歩美ちゃんと灰原さんが洗ってます。」
光彦が持ってきた綺麗に拭いた鍋(と言っても雨のせいで濡れているが)
を受け取ると車のトランクに詰め込む。
「なんだまだ残ってたのか。そろそろ川の水が増水してきて危険なのに・・。」
とりあえず灰原がついているから大丈夫だろうと思いつつコナンは川へと走り出す。
虫が知らせたのかもしれない。
急激な川の水に飲まれた歩美の姿を見つけコナンは大声をあげた。
まだ距離はある。雨で視界がさえぎられ立ち並ぶ木々にぶつかりそうだ。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
「歩美っっ」
「吉田さんっ」
慌てて一番近くにいた灰原が歩美の手をつかむ。
そして無理矢理こちら側に引き寄せようとするが力が足りない。反対に引きずりこまれそうになる灰原に心配そうな目を向ける歩美。
「灰・・・原さん・・」
「大・・丈夫よ・・江戸川君がもうすぐ来る・・から・・」
見てはいないものの声が聞こえた。きっと大丈夫。彼が来れば・・。
そんな気がしていた。
「灰原っっ。」
「早くっ吉田さんがっ」
やっぱり本物だった。幻聴だったらどうしようかと思っていた灰原はホッとして涙腺がゆるみそうだった。
「解ってる。大丈夫だ落ち着け灰原っ」
「ええ。」
二人でせえのっと両手をもちあげなんとか引きづりあげる。
「はあ・・はあ・・」
「・・・こ・・怖かったよう・・・ふぇぇぇぇぇぇ。」
泣き出す歩美にコナンは多いにうろたえた。たとえ子供でも女の涙にはやはり動揺してしまう。
やっと落ち着いてきた灰原は歩美の背を
ぽんぽんと叩き「もう大丈夫よ。」
と穏やかな声をかけた。
さすが灰原。俺には出来ない芸当だ。コナンはそんな灰原を感心して見ていた。
灰原の落ち着いた雰囲気にやっと泣きやんだ歩美は泣いた事が恥ずかしかったのか照れ笑いをする。
「うん・・・ありがとう・・灰原さん。コナン君。」
こんな時だがなんだか3人でほんわかムードをただよわせていた。
しかし、その時ひときわ大きな水が迫ってきた。
川から溢れた大量の水は、少し離れた所にいたコナン達3人を飲み込もうとしてくる。
「な・・・」
とっさにコナンは歩美を近くの木にひっつかせる。灰原はなんとかする
という絶対の信頼があったのかもしれない。

「灰原っっ無事か?」
「ええ・・なんとか・・」
同じく流されようとしたがなんとか木の枝をつかめた灰原は
ドキドキする心臓と裏腹に冷静な声を出した。
だが、水圧に耐えきれなかったのか灰原が手にしていた枝がポッキリと
折れた。
「え?」
声をあげる間もなく水にのみこまれた灰原にコナンと歩美は目を見開く。
「灰原ぁぁぁぁ」
「灰原さん・・・」
急激な水は灰原を運んで下へ下へとハイスピードで下っていった。


「なあ、これでいいのか?」
げんたはトランクからビニールシートをとりだした。
「ああ。そうこれだ。博士っハサミあるか?」
ばっと自分より大きなビニールシートを広げる。
「あるにはあるが・・。何するんじゃ?新一・・じゃないコナン君。」
ハサミをうけとりざくざくと切り始めた。
「かっぱ。」
この大きさなら子供用の雨カッパが作れる。

あの後、泣き出す歩美を無理矢理この車まで引きずって、博士に説明を
した。
「哀君が・・・」
氷付く博士にコナンの胸が痛む。あの時自分が灰原も守れば・・。
後悔はいくらでもある。灰原だから大丈夫なんて根拠のない自信も。
どうにもならなかったと思っても、どうにか出来たんじゃないかと
何度も後悔した。
だが出来なかったものはしょうがない。「もし」といってても始まらないのだ。
後悔するより前を見なければならない。
「博士川下へっ車を走らせてっすぐにっっっ」
お前がついていながらという光彦とげんたの言葉に唇をかみつつ今しなければ
ならないことをする。
「違うのげんた君光彦君。コナン君は歩美をかばってくれてたから灰原さん
の方へ行けなかったの。」
私のせいなのと落ち込む歩美にそれ以上文句を言えなくなった二人は必死に
歩美をなぐさめ始めた。
「違いますよ。歩美ちゃんのせいではありませんよ。」
「そうだよ大体川が悪いんだよなー。」
自然に責任転換をするげんたは結構大物かもしれない。
川の流れから考えて車で先回りをすれば川下でなんとか灰原を拾える・・
とコナンは計算していた。だからかもしれない少し心に余裕がでてきていた。
「新・・・一・・・。」
違う名前を言ったのにも気づかないほど博士は呆然としていたらしい。
「博士?どうかしたの?」
いち早く博士の状態に気づいた歩美は心配そうに首をかしげる。
「倒木じゃ。前に進めない。」
一本ならまだしも3本きれいに道に倒れている。
「そんな・・・」
これじゃぁ川下にいけない。
そしてコナンは慌ててカッパを作り出したのだ。
一人分。

「じゃが新一一人じゃ危ないじゃろう?」
「他にいたほうが危ないと思うぜ」
このメンバーでは確かに足手まといにしかならないだろう。
だがコナンも今は小さいのだ。川に飲み込まれたら抵抗すら出来ずに一瞬で
流されてしまうであろう。
「大丈夫だ。げんた。歩美。光彦。探偵団バッチ常にオンにしておけよ。
いつ灰原から連絡がはいるかわかんねーからなっ」
「わかってます。」
「まかせろっ」
「ねえ・・本当に一人でいくの?」
心細げな歩美に真剣な顔でうなづく。
「ああ。灰原は俺がみつけてくる。それまで博士どこか雨宿りできそうな所
探しておいてくれねーか?みんなこのままじゃ風邪ひいちまうからさ。」
濡れた服(特に歩美)のままの三人はくしゃんとくしゃみをする。
「適当に別荘でもあたってみよう。このシーズンだがだれかいるかもしれないしな。」
火をたいて服を乾かさねばならない。それにこのままでは今日中に帰れない。
家に電話するにも携帯は電波がつながらないため連絡不可能なのだ。
唯一探偵団バッチはなんとかつながるのが救いといったら救いだが
電話はかけられない。
「山でも使える携帯を買ってこればよかったな。」
今更な事を一人つぶやきつつ川下へとコナンは歩きだした。

side K

たどり着く寸前に突然の大雨に見舞われたがなんとかセーフで別荘へとたどり着いた。
「はあ・・・あの時点で出発して良かったですよね。」
「確かに・・・この雨のなかあの道は無理だっただろうな。」
自分達の幸運に感謝しつつ、二人は濡れた服を脱ぎ捨て白馬の服へと着替える。
「あーの重い荷物はそのためかぁ?」
何故か替えの服をちゃっかり持ってきていた青子と紅子に呆れた声をだす快斗。
「備えあれば憂いなし。」
ふふ。と紅子が笑う。もしかすると占いでこの状況を知っていたのかもしれない。
「だって前バーベキューしたとき近くの川で転んでベシャベシャになったいやぁぁな
思い出があるんだもん。」
へーへーそーですかーと話半分で青子の前を通り過ぎる快斗。
どーも騙された気分なのだ。まあ、白馬の服を着た青子というのも何故か
嫌な気分になるから着替えを持ってきていてよし・・ってとこだろうがな・・。

「もしもし。はい、探です。ちょっとアクシデントに見舞われまして。
ええ、あ、連絡行ってますか。倒木?ではやはり今日中には無理ですか。
はい、はい。あ、大丈夫です。別荘になんとかたどり着きましたから。」
どうやら自宅あたりにも電話しているのだろう白馬の声が聞こえた。
そうか、ここの電話は使えるんだ。んじゃ後で借りて家にかけとくか。
カシャンと受話器を置いたあと、やっと着替え終えた青子と紅子に困ったような
笑みを見せる白馬。
「すみません。どうやら道に木が倒れて車が通れないそうなんです。
申し訳ないのですが今日はここに泊まってもらえますか?」
おい・・俺には問いかけないのか?白馬の目線は女性二人に定まっている。
そりゃ濡れた髪がまたいい感じで気持ちは分からないでもない・・って
何言わせるっ(一人つっこみ(笑))

「んーそれじゃあ仕方ないよねー。後で電話かしてね。」
あっさり返す青子。おいおい・・・この状況を正直に言ったら俺帰ったら親父さんに
半殺しにされるぞ。
うんざりする俺に紅子が提案をする。
「でしたら中森さんは、私の家に泊まることに致しましょう。
親御さんが心配なさるでしょうから。」
さすが紅子。何も考えてない青子とはひと味ちがうぜ。
「え?別に大丈夫だと思うけどなあ。まあいっか。うん紅子ちゃんありがとう。」
ぜんぜん大丈夫じゃないのだが彼女には想像力が欠けているらしい。
ぜってー拳銃もって追っかけてくるってあの親父なら。
んじゃ俺は白馬ん家に泊めてもらった事にしておくか。どこからバレるか
わかんねーからな。

一時間ほどして雨もようやく小降りになってきた。
四人でゆったりトランプをしていた時、チャイムの音が聞こえた。
広い別荘に響きわたる音に白馬は眉を寄せた。
「来客?なんでこんな所に。」
不審気な顔で「ちょっと失礼します。」
と玄関へと走っていく。
「ねえねえ。誰だろうね?」
「さあ?同じように帰れなくなった人じゃねーか?」
興味津々な青子にどうでもよさ気に俺は答えた。
実際どうでもよかったし。だが紅子の言葉に俺は自分の考えの甘さに
がくりとくる。
「・・・違うみたいよ黒羽君。どうやらやっかい事が向こうから
おでましのようよ。」
ふふ、と楽しげに笑う紅子を睨み付け、俺はそのやっかい事とやらを
覗きに行くことにした。どうせ関わってくるんなら情報は少しでも多い
ほうがいい。
「あー快斗抜け駆けーー青子も覗きたーーい。」
ホント脳天気な女だ。。。

あとがき

第5弾っっ。見て下さい。やっと事件っぽくなってきたと思いませんか?(笑)
我ながらトロイです。ええ。もう言ってやって下さい。あんたとろすぎって。
はあ・・。一応考えてはいるんですけどね。なかなかと筆も進まなければ
話しも進まない。

今回はシリアースです。だって彼女が大ピンチっっだもんね。
そうしてやっと冒頭の部分にさしかかるのです。
はあ。長かったよ。ここまで。
up8/23