光のかけら6
side c

快斗組と相対して暗暗ムードのこちら。
あれから30分ほど歩きつづけたコナンは雨が少し弱まった事に感謝しつつ、三人と探偵団バッチで連絡をかわす。

『どうだコナン。見つかったか?』
せかすげんたの声。ばーろーそんなに簡単に見つかるくれーなら警察なんかいらねーんだよ。
返す言葉も時間ごとに小さくなっていく。

疲労が出始めた証拠だ。道という道もなく雨でぬかるんだでこぼこの地面。
さらに濡れた草や木が前方を邪魔する。
その上に視界も悪い。

(下へ下へと向かってるがもしかするとどこかで川から脱出してるかもしんねーんだよな。)

丁度流された時は凄い勢いだったが今はすでに川の流れは緩やかになってきている。
意識さえあればなんとか地面へはい上がれるのではないのだろうか?
このまま進むか引き返すか実はさっきからずっとコナンは迷っていた。

(さっきのカーブで減速したとして・・・。意識があったら一人で地面にはい上がれるか?)

少なくとも歩美では無理だ。灰原だとどうだろう?
腕力的には無理だが灰原には知恵がある。知識もある。なんとか板とかにしがみついていたらあがれるだろう。


『−−−−君。−−−−川君っ』

沈みかける思考をハッと引き戻す声が聞こえた。

『江戸川君聞こえる?私よ。』

この声は。は・・・・

「灰原ぁぁぁぁぁ。」

思わず大声を出してしまったコナン。

(いや。無事なら連絡をいれるだろうとは思っていたが・・・)

「お前無事だったのか。」

『無事じゃなかったらここにいないわね。』

相変わらず冷静な声が聞こえコナンはホッとする。

「今どこだ?」

『どこと言われても。そうね、とりあえず川のそばと答えるしかないわね。』

まあ、そりゃそうだ。どこも木と川しかないのだから。

「そうだな・・川の流れは急激か?」

『まあまあ緩やかってところかしら。多分一人だったらそのまままだ流されていたと思うわ。』

下に行くにつれ川幅が広くなるため川の流れは緩やかになる。
一人ではあがれないくらい・・・ということはもう少し上だな。
・・・っていうか。

「一人?」

他に人がいると言うことか?そういうことだよな?コナンは首をかしげる。こんな雨の中川の近くを通りかかる一般人などいないだろう。

『ええ。助けてもらったの。でもちょっとやっかいなのよね。』

「・・どういう風にやっかいなんだ?」

『誰かに追われてるみたい。』

あっさり言い放つ灰原にコナンは額をおさえる。ちょっとどころではない。こんな山の中で追われてるなんて怪しい意外の何者でもない。

「よくそんな奴が川から助けてくれたな。」

自分も急いでいるだろうに。

『そうね。運がよかったわ。』

夏とはいえ川の水は冷たい。あのまま流され続けたら凍えてしまっただろう。

(運がよかったっつーか悪かったっつーか。)

またなにか事件に巻き込まれそうな予感がするコナンは目が据わっていた。

『大丈夫よ。まだ殺人事件じゃないみたいだし。』

ふふ。とコナンの考えが簡単によめた灰原は言う。だが、さりげに『まだ』の部分を強調するあたりコナンの事件引き寄せ体質を甘くみてはいないらしい。

「それじゃあ俺は上にあがるから川の近くに立っててくれ。」

すでに電話が来た時点で歩きだしていたが、とりあえず言っておく。

『ええ。わかったわ。』

通話を終え、すぐに歩美の探偵団バッチに連絡をいれる。

「俺っ。」

『コナン君っ。どう?灰原さん見つかった?』

いまだ沈んだ声の歩美にやっと朗報が届けられコナンはホッとする。

「ああ。連絡があった。今から捜しにいくとこ。」

『よかったぁぁ。あっ元太くーん。』

近くの元太を呼びに行く声。本当によかった。見つかって。

『なんだよあいつー連絡すんなら俺達んとこにもすればいいのによー。』

元太のふてくされた声が聞こえるがその声ですらホッとした雰囲気がにじんでいる。

『仕方ないですよ灰原さんはさっきまであんなに冷たい水の中にいたんですから。きっとそこまで頭が回らなかったんですよ。』

なるほど筋の行く説明をする光彦。そして博士。

『新一。哀君が見つかったというのは本当かね?』

多分半泣きの歩美の説明ではさっぱり伝わらなかったのだろう博士が情報を求めてくる。

「ああ。さっき連絡がはいったんだ。なーんかやっかいごとにまきこまれそうだぜ。また・・な。」

肩をすくめククっと笑うコナンに博士は困ったような声をだす。

『また・・かね。新一の体質も困ったもんじゃな。』

「なんだよー。今回は灰原がつれてきたやっかいごとだぜ。」

自分のせいにされコナンはふくれる。いつもいつも事件があるたびに博士がからかってくるのが許せないらしい。

『哀君が?これは珍しいこともあるもんじゃ。』

まあ、確かにめずらしいだろう。灰原哀という人物はやっかいごとにはあえて近づかない人である。

「助けてもらったらしいんだけどさ、その人誰かに追われてるんだってよ。」

手短に説明する。まあ、たいした話ではない。

『誰かに?』

「ああ。なんか心当たりでもあるのか?」

ひっかかる言い方をした博士につい探偵の性がでる。

『あー。今さっき近くの別荘におじゃまさせてもらったんじゃよ。それで私達とすれ違いでその別荘から二人ばかし出掛けたらしい。なんか人捜しを手伝うとか言っての。』

「・・・それずばりそのまんま確信ついてんじゃねーか?」

簡単に話がつながってしまった。だが、手伝うってことは誰かに頼まれたんだよな?あーもどかしい。さっさと灰原に会ってその人に話聞くしかねーか。




side K

「すみません。」

雨の中の訪問者はレインコートを着た二人の男性だった。中はスーツらしい。

「はい?」

訝しげに戸を開ける白馬に俺はドアの影からそっと覗く。

「えっとすみませんがこちらにこういう男は来ませんでしたか?」

写真を見せる。まるで刑事のようだ。でもその男達が醸し出す雰囲気はどちらかというとやくざ風だった。

「ねえねえ。刑事さんかな?」

隣から青子が尋ねてくる。まあ、この女に相手の空気を読めなんて無謀な事はさすがの俺だって言わないが、お前刑事の娘なんだから少しは解ってもいーんじゃねーのか?とか言いたくなってしまう。

「違うだろ。」

俺が言うより早く紅子がくちびるに人差し指を当てた。

「しっ。少し静かにしていてね。」

決して強く言っているわけではないのに何故か従ってしまう声。

「いえ。見ませんでしたが。」

首をかしげ白馬は答える。そして探偵の血がふつふつと煮えたぎるのかつい尋ねてしまう。

「この人がどうかしたのですか?」

「いえ。うちの社員なのですが昼頃から行方不明でして。雨で危険ですので皆で探しているのです。もし川にでも流されていたら大変ですから。」

もっともらしく言っているが、どーもうさんくさい。

っていうか社員?ここいらに会社なんてあんのか?山奥だぜ?うわーそこからして臭すぎーー。

「そうですか。よろしければお手伝い致しましょうか?」

何故そんな事をいうか白馬よ。下手をすれば俺も巻き込む気だろうっっ。こんな怪しい人たちの手伝いなんかしたくねーよ俺は。さも親切そうな白馬の申し出に相手は困ったように手を振る。

「・・・いえ。そこまでして頂くわけにはいきませんから。」

「いえいえ。そんな大した事ではありませんよ。」

まるで狐と狸の化かし合いだ。多分白馬はあまりの胡散臭さに犯罪のにおいでもかぎ取ったんだろう。さすが探偵。さすが刑事の息子ってとこか。
なんだかんだ言いくるめて白馬は協力(?)する事になったらしい。
なんか向こうの二人が気の毒になってきたぞ俺は。



「さっ黒羽君行きますよ。」

当然のように言われ俺ははあぁぁ?と眉をよせる。

「なぁぁんで俺までてめーの趣味に巻き込まれなきゃならんのだっ。」

「え?趣味・・ですか?」

ビックリしたような眼差しの白馬。どうやら自覚はなかったらしい。

「俺はめんどくさそーな事に自分から飛び込む趣味はねーんだよっ。」

めんどくさそー。・・と呆然とつぶやく白馬。ふっ勝ったぜ。俺は探偵じゃねーからな。そんな事する義理もなければその気もねーって事だな。

「黒羽君。行きなさい。」

「まて。お前は俺の話を聞いていたのかっ?」

紅子の言葉に俺は背後を振り返りどなる。しかも命令口調だぜ。うっかり解りましたと答えるとこだったじゃねーか。

「行きなさい。あなたは行くべきよ。あなた自身のためにも。」

クスと意味深に笑う紅子に俺はうんざりため息をつく。

「また占いってか。もういいかげん飽きたぜそのパターン。」

「いいわ。言い方をかえるわね。行かなかったら最悪の事態が起こるわよ。」

何も起こらなくても紅子が起こしそうな目をしている。ほとんど脅迫じゃねーか。

「はーーいはいはいはいいい。解ったよ行けばいいんだろっ」

それからが少々大変だった。私も行くーと言う青子を3人掛かりで説得して(これがまた骨が折れたんだ。)、紅子に後を任せ怪しい二人連れとつれだって出る。
どうやらまずはこの人たちの会社へ行くらしい。

うーわー。怪しい会社じゃありませんように。
心底祈る俺だった。


その約10分後、この別荘には新たな客がやってきた。

「すみませーん。」

「だれかいますかぁ?」

「いねーんじゃねーのか?」

「いや・・じゃが光が見えたしの。」

沢山の声が聞こえた。トントンと戸をたたく小さな音。これは子供の力だろう。紅子は冷静に判断する。今ここを預かっているのは彼女だ。怪しい人を招き入れる訳にはいかない。

「はい?」

「あのーすみませんが少し火に当たらせてもらえませんか?服を乾かしたいので。」

怪しい申し出だ。それがこのメンバーじゃなければ家には入れなかっただろう。

「ええ。良いですよ。お孫さん達が風邪を引いてしまうといけませんものね。」

孫・・・。いや。確かにそう見えるかもしれない。阿笠博士はたいそう傷ついた。

「いや・・。近所の子達ですよ。」

そんな年寄りに見えるのかな?とか思ってしまう。

「あら。失礼しました。」

鮮やかに謝られてしまうと文句を言うわけにもいかない。しかも美人だ。鼻の下をグーとのばし、博士は照れてしまった。

「いや。あ・そっっそれよりこの子達をっっ。」

焦ったように子供3人を部屋に入れ、濡れた服を脱がせた。

「男の子はいいけど女の子は裸じゃやーよね。はい。これ着てて。」

青子が自分の予備のTシャツを歩美に渡した。

「ありがとーお姉さん。」

満面の笑みに、青子は目を輝かせる。

「お姉さんだって。えへへ。嬉しいーー。ねっねっ紅子ちゃん。」

えへえへと笑い出す青子。一人っ子のせいか兄弟に憧れているのだろう。紅子はそんな会話を聞いて微笑ましそうに笑った。
二人になってしまった別荘はやはり静かで心細い物があったのだ。
一気ににぎやかになった部屋の中は空気も一緒に軽くなったようだ。


二人とも無事で帰ってきますように。
こればかしは占いでは解らなかった。いくら魔女でも万能ではないのだ。

(黒羽君。あなたの光もうすぐ逢えるわよ。)
やはり意味深な笑みをうかべ紅子は窓の外へと目をやった。
彼らが去っていった方角へと思いをはせて。

あとがき

遅くなりましたー。他の更新していたせい・・とかじゃなく単に書いていなかっただけです(笑)
はいー会いそうで会わない彼らがまたいいのです。
すれ違いっっいいですねー。
青春ですねー(爆)

まあ、いつかは会うのでしょうが。最後まで会わなかったら凄いですね。

今回のヒットは白馬君。(またもや)
「趣味」と言われキョトンとする彼。
なにやら想像すると可愛らしい・・(うっとり・・・(笑))

えーっとトロイですが、のんびり待っててやって下さい。

2001.9.12