おらっなんとか言えよっ。
そう思った瞬間あいつは口を開いた。
しかも衝撃的な一言をはきやがったんだ。
始まりの気持ち2
「・・・ごめんね」
っっっな。何でこいつが謝ってんだ!!!?
ぐらぐらする頭をなんとか動かし天井からタケルへと目を移動させた。
タケルはいつの間にか窓辺から戻ってきたらしく、心配げに俺の顔をのぞきこんでいた。
窓からの西日をバックにしているせいでタケルがどんな表情をしているかまったく解らなかった。
そっと頬にふれるのは柔らかな布の感触。
きちんとアイロンがかけられた清潔な青と白のチェックのハンカチ。
俺の戦隊物のイラスト入りのような子供っぽいやつじゃねー大人のハンカチ。
それで何かをふき取ってるみたいだった。
なんだ?昼くったスパゲティーか?んなバカな。
「泣かせるつもりはなかったんだ。」
耳元で響く穏やかな声。
「泣いてなんか・・ないっ」
ようやく出た声はなにやらか細く震えていた。
まるで泣いているかのような。
ちょっと待てよ俺泣いてるのか?なんで?え?
「うん。」
そんな俺に逆らわずそっと涙を拭ってくれるタケルの優しさはとても居心地がよかった。
ホッとするようなでもちょっと気恥ずかしいような。
そんな曖昧な空間。
鼻をずずっとすすり、タケルが渡してくれた綺麗なハンカチで目元を隠すと俺はようやく落ち着いたようだった。
あー恥ずっっ。
ただでさえいっつも情けないところ見せてるのにまさか何で泣いてるのかわかんねーこんな謎な俺を見せちまうなんて。っかぁぁぁどんな顔すりゃいーんだ俺はっ。
目を隠しているせいか近くにいるタケルの存在をいやでも感じてしまう。
それが嫌なのか嬉しいのかよく解らない。
でもただ一つだけ解るとすれば、ここにこいつがいなかったらきっと寂しいだろうなって事。
いや・・たぶん泣いて気弱になってるだけだと思うけどな。
「なあ・・・お前いつも俺が突然遊べなくなっても笑って許してくれるじゃねーか?何で今回に限って・・・・。」
ずっと気になっていた言葉がポロリと口から転がりでた。
いつもそう。
悪いだめになった。直前にいっても「なんで?」とは聞くけど用を聞いたら
「それじゃぁ仕方ないね。また今度遊ぼうね。」
と笑顔で言ってくれるのに今回に限っては頑ななまでに「駄目」を繰り返した。
ここまで言い張るタケルってのもめずらしい。
こいつっていつも聞き分けいいからな。
引き際を心得てるっていうか甘えるのが苦手?
いや違うななんか人に嫌われないように一歩引いてるようなそんな感じ。
俺なんかよりよっぽど女の子にももてるし(悔しいけどそれが事実だ)男からの評価も結構高いし(いや俺だってそれなりに友達多いけどさ頼られる感じじゃねーもんな)デジタルワールドでは俺達の先輩として先頭をきるし、大体なにをやらせてもオールマイティーにこなせるこいつが、なんでわざわざ嫌われないように行動しなきゃなんねーんだ?
そういや前そんな事聞いたきーするなそん時は確か
「僕は大輔君のように強くないから。」
とか言われた気がする。なんだよ図太いとか言いたいのか?
とか思ったけどちょっぴり自虐気味な顔をするタケルに俺は聞いちゃいけない事を聞いたんだろうなと後悔した。
「あのね・・・」
ようやく考えがまとまったのかずっと沈黙を続けていたタケルが重い口をやっと開いた。
俺の手からハンカチをうけとりズボンのポケットにしまうと俺の頬に手でふれる。
「たぶん僕嫉妬してたんだと思う。」
しっとぉぉぉ?よりにもよって嫉妬だと?
「だってね最近の大輔君って賢賢って一乗寺君の事ばっかり言うんだもん。」
悔しくって。そう続けるタケルに俺は開いた口がふさがらなかった。
それはお前らが仲悪いからとりもとうと思って・・ってこれ逆効果だったのか!!?
「いつもは家の用事とかだったでしょ?それなら仕方ないよねって我慢してたんだ。」
僕との約束なんて家の用事よりよっぽど軽いんだよね。
そう言われている気がした。そうとられても仕方ない対応を俺がしてきたんだよな。
そんな事ないのに。
ただこいつなら許してくれるし断ってもまたすぐにさそってくれるから・・そう思ってて―――――これってもしかして
「俺、お前に甘えてたのか?」
「え?」
「俺・・俺な。別にお前との約束を軽く思ってたわけじゃないんだぜ。説得力ないかもしんねーけどえっとーーあのな約束ってのは大切なもんだし。」
部活での約束事はとても厳しい。特に集合時間とか守れない人は罰がある。
でもそれは当然なのだ。約束を破ったのだから。
友達との約束もそう。
破ったらそれなりのペナルティーをくらうのが当然なのだ。
俺だったら約束破られたらむかつく。
そいつの事少し嫌いになるかもしんねー。
友情のパラメーターみたいなのがあってそこから少し減少されるそんな感じだと思う。
だからこう見えても俺はきちんと約束を守る方だった。
たった一人の例外を除いては・・・。
「お前との約束破るのってたぶん俺の甘えなんだと思う。
お前ならきっと俺の事嫌ったりしない見捨てたりしないって・・・勝手にそう思いこんでたから・・だと・・・。」
ごめんそんな訳ないよな。
付け加えるとうつむいていたタケルははっとしたように顔をあげた。
「ううん。それは本当の事だよ。・・どんな事されても大輔君が大輔君である限り僕は嫌いになれない。」
真摯な瞳でそう告げられ俺はどういう顔をすればいいのかわからなかった。
うわーーなんか熱烈な告白受けてるみてーー。照れるぅぅ。
こーゆー言葉はもっとかわいーー女の子とかから聞きたいよな。
例えば光ちゃんとか。
「僕はね。」
両手で頬を包み込まれて上をむかされる。
目がバッチリあった。
吸い込まれそうな瞳。目が離せない。
空気がなにやらいつもと違った。
離せよっと手を振り払えない雰囲気がタケルには漂っていた。
タケルは何度も目をつむって深呼吸するとようやく口を開いた。
「僕は大輔君が―――――」
ガラガラ
うひゃぁぁ。ビックリしたぁぁ。
唐突に開いた教室の扉に俺は心臓が飛び出るくらい驚いた。
ドキドキと跳ね上がる心臓を両手でおさえ俺は顔をそちらにむけた。
丁度俺達から近い方の後の扉のため開いたらすぐに俺達が目に入るだろう。
多分タケルもビビッたのだろう俺から飛び離れてドアをものすごい勢いで振り返った。
「あら?タケル君と大輔君?こんな所で何してるの?」
「光ちゃん。」
そこに立っていたのは口元に手をやり驚いた顔をしている光ちゃんだった。
今まさに考えていた人物の登場に目を丸くするのと同時に頬が熱をもつ。
こんな座り込んでる情けない姿を見られてしまったぁぁ。
いかんクラクラしている場合じゃないっっ。
「光ちゃんこそどうしたんだ?もうみんな帰ってるよな?」
「ええ。さっき京さんが昇降口へ向かったわよ。私は忘れ物とりに。」
「光はずっと京としゃべってたんだ。」
光ちゃんの足下にいたテイルモンが補足してくれる。
「そうなの。もうすっごい盛り上がっちゃって気づいたらこんな時間。早く帰らないとお兄ちゃんに怒られちゃう。」
クスクス笑いながら自分の席に行き机の中に入れっぱなしだったらしいプリントを取り出す。
そっかあれ明日提出だもんな。
「光があんなに笑い転げるのは久しぶりに見た。」
「そうかな。そうかもね。もう京さんおもしろ過ぎるんだもんーー。」
まだ興奮が残ってるのか頬がピンクに染まっている。
かわいーなー光ちゃん。
両手をブンブン振り回しテイルモンと語りあう姿はとても楽しそうだ。
あーそんなに楽しい話なら俺も参加したかった。それに笑い転げる光ちゃんも見たかったし。
京の奴ずるいぞっ。
あれ?でもこの二人ってそんなに仲よかったっけ?
いつの間に?
以前は二人で喋っている時なにかぎこちない感じを受けた。
それは伊織もそうだったらしく二人で首を傾げてたものだ。
俺達の代のメンバーで女の子は二人しかいないのだから二人が仲いいとなんとなく嬉しい。
京もまあ口うるさいけど根はイー奴だからな。
よかったよかった。
「あれ?そう言えばトコモンとチビモンは?」
「え?廊下にいなかった?おっかしーなー待っとけって行っておいたのに。」
よいしょっと壁によりかかりゆっくり立ち上がるとさっきまで真剣な瞳をしていたタケルはゆっくりと目を閉じそっとひらいた所だった。
「大丈夫大輔君?気分悪いんでしょ?」
もうすっかりいつもの瞳といつもの口調。
さっきの事など忘れたかのような態度に俺もちょっとビックリする。
豹変・・・ってこういうことを言うのかな?
「ああ多分目の前の白いのも無くなったし少しクラクラするだけだ。お前こそ大丈夫か?なんか顔色悪い気がするけど?」
とりあえず答えながらもタケルの額に手をやる。
さっきまでなんともなかったのに突然だよな青ざめてるってーの?
俺あんまり人の顔色とか気付かないほーだけどこれはなんか変だよな?
「え?そんな事ないよ大輔君の気のせいだと思うよ。」
穏やかに額にやった俺の手をはずすタケル。
まあペシッとはたかれたらショックだっただろうから親切なんだろうけど。
でもちょっと寂しい。
「そうか?まあいーやちょっとチビモン達探しに行ってくる。」
「あっ僕も―――――」
「タケル君っ。ちょっとお兄ちゃんからの伝言があるから残ってくれる?ごめんね大輔君トコモン達の事お願いしていい?」
「う・んいいけど?」
ちょっぴりきつい口調の光ちゃんに気圧されたのかタケルは困った顔で口をつぐんだ。
こいつ太一さんには弱いよなーいや俺もだけど。
こんな時の光ちゃんに逆らうのも怖いしな。ははっ情けねー。
それに光ちゃんからお願いされちゃったぜっっ。
実に珍しい事だ。この機会に光ちゃんの信頼をつかみ取るんだっっ。
よっしゃぁぁ。気合い入れて探してくっか。
「んじゃ。」
「あ・・うんごめんね気を付けてっ。」
「校内で何に気を付けるんだ?」
「いやだってフラフラしてるから。」
「余計なお世話だっほっとけ。」
タケルの心配は心地いいけどそれに頼っちまうような人にはなりたくない。
自分の力で立ってあいつと肩並べたいから。
今はまだ心配されるような頼りない自分だけど絶対いつか安心して「大輔君頼んだよ」って言わせてみたい。
やっぱり経験値の差か?
どう考えてもあいつのがしっかりしてるもんな。
だからこそ小さな努力が大きな一歩。
少しずつ頑張るしかねーか。
心配げなタケルの瞳を振り切り教室を飛び出る。
ピシャンと背後で扉をしめると視界の隅になにか白いものが映った紙?
ちょうど右隣の教室の廊下になにか白い紙切れみたいなものが落ちている。
大学ノートの大きさの真っ白い紙が一枚だけ。
あれは・・・自由帳を破ったのか?
破れた後みたいのが醜く残っている。うっわーむちゃ不器用な奴だよな。俺より下手だぜノート破るの。
ゴミかー?。珍しくも機嫌がいいせいか親切心をだす。
仕方ねー捨てて置いてやるかな。
そう思っていたらどうやら隣の教室に見回りの先生がいたらしくひょっこり出てきた。
「あれ?本宮まだいたのか?」
「そうっすよーちょっとしゃべってたらいつの間にかこんな時間でした。まだこの教室に光ちゃんとタケルの奴もいますよ。先生こそ大変っすねー見回りっすか?」
「ああ、まあな。・・とゴミか?」
お前の?と拾った紙を渡されそうになって慌てて首をふる。
「違いますよ。俺も今ゴミだと思って拾おうとしたところで―――――」
「んじゃポイッだな。ほいっ。」
「えー先生が捨てればいいじゃないっすかー。」
手渡され仕方なく手の中でくしゃくしゃに丸めてとなりの教室のゴミ箱にポンっと投げ捨てる。
「ナイッシュー」
「おーサッカーやめて野球部にはいれお前。」
「いやっすーー。」
「野球はいいぞー。青春だっ。」
「サッカーも青春っすよ。先生自分が顧問だからって野球ばっか誉めないで下さいよ。俺サッカーファンなんだから。」
「そうか?日本人は全員野球好きだと思ったんだがなーあのよさがなんで解らないんだ?」
「・・・・」
「なんだなんか言いたげな目だなぁ?」
「いいえーうちの野球部ってなんであんなに弱いんだろうなんて考えてませんー。」
「このやろっ」
「うわっいたいっすよ先生っっ」
この時俺は暢気に笑っていた。
これがこの後の不幸の始まりだとも知らないで。
先生とも別れ最初の目的のために歩きだした俺はとりあえず一番可能性の高い給食室から探しに行こうときめたのだった。
「まったく困った奴らだよなー。手間がかかるぜ。」
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