始まりの気持ち3

「さっきのはわざと?」
「なんのこと?」
「やっぱりそうか。何で光ちゃんにはバレちゃうんだろうね」
すっとぼける演技はさすがのもので相手がタケルでなければその笑顔にあっさり騙されただろう。

「駄目よ今はこの関係を崩さないで」
「何で?」
「大切な時が近づいているから。」
「大切な・・・時?8月1日のこと?」
「いえ―――――私の誕生日」

ガクッさしものタケルも机に手をつく。
「っていうのは冗談よ。やだ本気にしないでよっ。」
ばんっと背中を叩かれタケルは情けない顔をした。
いつも余裕をもっているタケルも光相手ではこんなもんだ。何故かペースを乱される。

「私にもよくわからないの。何かが起こるのは解る。」
予言のような言葉も光がいうと真実味が増す。
「それが良いことか悪い事か解らない以上私には何もできないの。」

「それに・・もしかするともう何かが起こってるのかもしれない。」





だれもいない廊下に自分の足音だけが静かに響く。
何か不安に押しつぶされるような重苦しい気分に大輔は胸をおさえた。
どうしよう・・見つからなかったら。
あんな広い世界で出会えたたった一匹の自分のデジモン。
こちらの世界ではぐれた時も絶対会えると確信があった。
俺達はちゃんと繋がっているからパートナーなのだから何があっても巡り会えると思っていた。
なのに今はその自信が薄れかけている。
何故だろうこんな狭い学校の中だというのに。
見つかる筈なのに絶対に。

「チービーモォォン。トーコーモォォン。どこだぁぁ?」

不安をかき消そうと大声をだす。

何か考えてないと怖くなってきた。
えーっとぉ。何か何かーー。

っとあーそういえばさっきのタケル変だったよなー。
なんだったんだろ。
光ちゃんが来る前に言いかけた言葉が少し気になっていた・・が、

「ま、いっか。今度聞けば。」

どーせそんな事を言いつつ聞くのを忘れてしまうのだろうけど。
大切な事ならあいつからまた言ってくるだろうーしな。
うんうんそうだろうきっと。

一人で納得するとすっかり忘れていた賢へと連絡をするためポケットからD3を取り出した。
ごめんなー賢。
メールを打ち終えると考えることもなくなりまた悶々としてしまいそうだった。
なんか明るい話題考えよーぜ俺っっ。

「トコモンーーチビモンーー。」

廊下にこだまする自分の声が怖い。
うっわー反響してるよ。
しかもこの広い空間に誰もいない。
光ちゃん達がいるのは2階だから1階はもしかすると自分一人かもしれない。
そう思い大輔は身震いをする。
まるで世界にたった一人ぼっちになったような錯覚に陥ったのだ。
ぶんぶんと首をふるともう一度大きな声をだす。

返事はない。

「どこに行ったんだあいつら」
小さくつぶやく声ですら辺りに響いてやな感じだった。

窓の外は暗くなり初めている。

どうしよう。

大輔はとりあえず元来た道を戻る事にした。
もしかするとあの教室に二匹のデジモンは帰っているかもしれないから。
そうであることを祈りつつ大輔はタダひたすら走り続けた。


◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇





「タケルっっ光ちゃんっ。」
談笑とはほど遠い会話を繰り広げていた二人は座っていたイスから腰を浮かす程せっぱつまった声を聞いた。

ガラガラっと先ほどの光の30倍以上勢いよく開かれる教室の扉に二人で同時に目をやると、緊張をみなぎらせた大輔が息を切らせ立っていた。

なにかあった?
顔を見合わせ大輔のただならぬ様子に胸騒ぎを感じた光はテイルモンを抱きかかえた。
なにか生き物にさわっていると気分が落ち着くのだろう。

「どうしたの?大輔君」

「はあ・・・はあ・・。チ・・チビモンとトコモンがいないっっ。」

「え?」

もっと深刻な事態が訪れたのだろうと思っていた二人+一匹は間抜けな声をあげた。

「どこにもいないんだよっっ。」
「それはどこかで寝てるんじゃないかな。そしたら呼びかけても出てこないだろうし。」
タケルの納得いく説明にも大輔の顔は晴れなかった。
「いや・・そうだといいんだけど・・・。」

「何か変な感じがするんだ。」
はからずしもまるで光の予言のような事を述べる大輔に光ははじかれるように立ち上がった。
「タケル君っ探しにいきましょ。」
「あ・・うん。」
たかだか二匹が見つからなかっただけでそこまで慌てる二人の気持ちが分からないがとりあえず光に逆らうのは得策ではないため促されるままに立ち上がるタケル。

「あの二匹の事だしかくれんぼでもしているうちに寝ちゃったんじゃないの?それか昇降口に行ったっていう京さんの所で遊んでるとか?」
可能性をあげるが大輔は暗い表情でうん・・とうなづいた。
「俺もそう思って京んとこ行ったけど反対に光ちゃんはまだ?とか聞かれちまった。どこかで寝てるっていっても大体の部屋は鍵しまってるし空いてる部屋は一応覗いたんだよな。」

ただフラフラさがしていた訳ではない。
ずっと一緒にいる相棒の習性ぐらい簡単に解るのだから大輔だってどこを探せば見つかるかというポイントは押さえてある。

「外へ出たという可能性はないの?」
「たぶん俺との約束破ってまで外に出るとは思えないし。タケルだって言い含めてるよな?一人で外でんなって。」
「うん。もちろんだよ。トコモンがてけてけ歩いてたらぬいぐるみと間違われてさらわれるか、喋るのに気付かれたらきっと街中パニックだもんね。」

一時期デジモンがこちらに現れるという珍事件が起こったためかああいう未確認生物に対する人間の態度はかなり厳しい。
さらに人間の言葉を喋るのだから怯えて逃げてくれればいいが攻撃されたり捕まえられたりする可能性もあるのだ。それはタケルとしてもいただけない。

「だから外へは出ないはず・・か。光。手分けして探したほうが早いと思う。」
「そうねテイルモン。それじゃあ私はテイルモンと三階から探してくるから二人で下の階からお願いできる?」
何か起こったときに二人は欲しい。
テイルモンと光がコンビであればタケルか大輔がついているよりずっと安心だろう。

「三人でばらけたほうがいいんじゃねーの?」
「いいえ。今何か起こっているのかもしれない。そんな気が私はするの。だから二人は固まっていて。」
大輔の不思議そうな言葉に光もなんと言えばいいのか・・といった口調で困ったように答える。
ようやく少し落ち着いたのかふかふかのテイルモンを地面におろし、
「大丈夫私はテイルモンがいれば無敵よ。」
と笑うと颯爽と三階への階段を上っていった。

そんな光を複雑な笑顔で見送りつつタケルは隣で光の笑顔に未だ惚けているらしい大輔を横目でチラリとみた。

「よく考えてみたらいくら手間がかかるったってたかだか学校の中なんだし皆で探しにいけばよかったよな?」
なあ?とちょっぴり高いタケルを見上げる大輔に一緒に回れて嬉しい反面先ほど告白しようとした時の気まずい気分が残っているためなんと答えようか悩むタケル。
「とりあえず、いこっか大輔君。」
「あ・?ああ。そうだな。早く見つけてやらねーと真っ暗になっちまうもんな。ついでに京の奴も探索に引きずりこむか。」

さっきタケルが怒っていたのすら忘れた様子の大輔は「京のやつえええーーなんでぇえ」
とか言うに決まってるぜーと楽しげな表情を見せた。

(大輔君。僕は君のことが―――――)
もう少しでこぼれるはずだった思いが胸の中で出口をもとめてさまよっている。
どうしよう。もう押さえられない。
一度吹き出しかけたせいで心の中で押さえられないほど膨れ上がってしまった。
今すぐにここでだって押し倒してどうして解らないんだっと怒鳴りつけてしまいたいほどにぶい大輔にタケルは深い深いため息をついた。

だがタケルがそんな大輔への思いに悩まされていたのは最初の10分程度だった。
いっこうに見つからないトコモンたち。
そしてさっき大輔がいった「変な感じがする」その気持ちがどんどんと解ってきた。
どうしよう胸がざわつく・・・。
トコモンがいなくなったら僕は・・どうなるんだろう。
自分の半身をなくすようなものだと思う。
ずっとずっと一緒にいて、誰よりも自分の事解ってくれてて・・。
一度亡くして卵に返って戻ってきてくれたこの世でたった一匹の僕のかたわれ。
もう二度とあんな思いをしたくない。

どんどん二人の口数も少なくなり、落ち着きかけていた筈の大輔もまた最初のせっぱつまった表情をみせた。
多分今はどちらの顔も同じように不安でいっぱいなのだろう。
そしてそれを見て笑えるほどの心のゆとりは二人にはない。

どうしよう。

ずっとそればかり考えていた。


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2001.12.12