始まりの気持ち5
「タケル君・・・もしかして私の言ったこと解ってなかったの?」
休み時間光にとっつかまったタケルは引きずられるように教室を後にした。
「え?なんのこと?」
まるで昨日の光のような事を言うタケルにもちろんこの完璧な演技を見抜ける唯一の相手は目を据わらせた。
「何したの?大輔君に?」
「やだなぁ大した事はしてないよ?人聞きの悪い。」
「それじゃあ言えるわよね?言って。」
大したことしていないと言った手前言わないわけにいかないのだろうか?
タケルも光も笑顔だがその顔の裏ではまるでタヌキとキツネの化かし合いのような戦いが繰り広げられていた。
「大輔君みればすぐに解るわよ。フラフラしてるのは寝不足かな?って思ったけどね。突然叫んだり机に頭打ち付けたりしてるのよ?変以外の何者でもないでしょ?」
「うーん正直者だよね。大輔君って。」
そんな所も好き。
と心の中でつぶやくがもちろん光には心の声も聞こえたらしい。
「今はそんな事してる場合じゃないでしょ?」
「今だからだけど?光ちゃんは知らないだろうけど朝の大輔君は今にも死にそうな顔してたんだよ?」
え?光は驚きの余り大きな声をだした。
せっかく教室から連れ出して昇り階段の裏でひそひそと話していたのにこれでは目立ってしまう。
光は慌てて口元を手で押さえた。
そしてきょろきょろすると特に見ている人もいないことを簡単に確認しようやくタケルに顔を向けた。
「教室で見た大輔君は少しおかしいけど眠そうなだけで結構元気よ?」
「うん。そうだね。よかった。」
嬉しそうな笑みを見せられ光もいわんとすることが解ってきた。
「それじゃあ何?大輔君のために気を紛らわせる様なことをした・・とそういうわけ?」
「そういう訳。」
「・・・信じられない。」
「いいよ信じてくれなくても。理由がそれだけってわけじゃないからね。」
ニコニコ。
遠くから見れば実に楽しそうに会話してるように見える二人。
そんな二人を遠くから見つめてい人物が一人だけいた。
光に気付かれないくらい秘かに大輔は覗いていた。
ムカムカした。
ものすごくムカムカした。
これは何に対するムカムカか解らなかった。
なんで?
なんでこんっっなにいらつくんだ?
さっき光ちゃんにつれられ教室を出ていったタケル。
ちくしょう光ちゃんに手を出したら許さないぜっっ昨日までの俺ならそう思っていたはず。
なのにさっきは・・・
もしかして本命は光ちゃん?とか思ってちょっとズキッと胸が痛んだ。
なんでだ?
唇をかみしめ涙がでそうな目をパシパシと閉開する。
そっと二人を覗いてみたらとっても楽しそうに会話していたし、しかも場所は階段の裏だぜ?どこからどう見ても仲良しカップルだよな?
ムカツク・・・。
どちらに嫉妬してるのか解らない自分にもむかつく。
いつもならタケルに嫉妬していた。
あの場所に自分が居たい。
光ちゃんに頼りにされたい。
タケルを追い越したいっっ。
そう思って。
なのに今は・・・。
光ちゃんと普通に会話できない気がする。
あいつがあんな事言ったせいだ。
どうしよう俺変だ。
今日一日ずっと大輔君の視線を感じていた。
無意識にか大輔君の目は僕を追っていた。
いつもと反対の行動に僕はちょっと笑ってしまう。
大輔君を見てるとまるで小動物がちょこまかと動き回っているみたいで目が離せない。
それに次は何をするのか・・とワクワクするし、可愛くってギュッと抱きしめたくなる。
それは一部の少女もそうらしく秘かに大輔ファンは多かったりする。
彼氏にするのは考え物だけど愛玩動物はたまた母性本能をくすぐる弟みたいな感じで友達になりたい女のこは続出だ。
そんな子達が近づいたあげく、大輔くんの芯の強さとか諦めない男らしさとかに気づいてしまったらきっと恋をしてしまうに違いない。
僕はそれを恐れていた。
だから近づく女の子のチェックも兼ねて目は離せない。
だけど今日は反対。
大輔君の目は僕しか映してない。
だから安心。
友達と話している時でもふとした瞬間に僕の方をみている。
まあ、僕も全神経がそちらに向いてるから解るんだけどね。
それでも気づかないフリを続けた。
それも戦略の一つ。
時々目が会うと決まって向こうが先にそらす。
笑いかけたら真っ赤になって怒ったように向こうをむいてしまう。
かわいいよね。本当に。
そうやって僕の事だけ考えて。
他の人なんて見ないで。
やっぱり期限もうちょっとのばしたほうがよかったかな?
答えが出るまできっとこんな日々は続くはず。
ドキドキするけど見つめてもらえる嬉しさはものすごい。
「ねえ・・タケル君。私思うんだけど。」
「うん?」
「結構脈有り?」
「って思ってるよ僕は。」
大輔の視線がタケルを向いているのに当然気づいたのだろう光はそばによってくるとそんな耳打ちをした。
「たぶん一番のライバルは光ちゃんじゃないかな?」
「私?あーそうよね。でも私に対する大輔君の思いは単なる憧れよ?」
「うん知ってる。でもそれを恋と勘違いするのがまだまだ未熟な大輔君らしいじゃない?」
なにをやっても可愛いと思うらしいタケルに光は苦笑する。
タケルは一生人を好きになれないかもしれない・・そう思ってたから例え相手が男でもこんなに思える相手ならくっついて幸せになって欲しいと思っていた。
応援したい・・・でも、まだ自分はこんなに強い思いを誰かに抱いたことがないから大変ね、と思う反面羨ましい気もするのだ。
だからこそ余計に応援したい気分と邪魔をしたい気分がまぜこぜになってからかうような態度をとってしまうのだろう。
「なんて言うか大輔君の目がね、憧れの目から嫉妬の目に変わってきてるように思うのよね・・・。」
やれやれ。
極端な人よね。
「えっ本当?」
喜ばせる気ではなかったのだが、ものすごく嬉しそうなタケルを見て意地悪する気もおきなかった。
「もう時間の問題なんじゃないの?」
「それじゃあ光ちゃんとくっついてようかな。そしたらきっと自分の気持ちに気づくよね?」
「いやよ私は。大輔君だって大切な友達の一人なんだからっっっ。」
こんな事で無くしたくない友達の一人。
どうやら大輔は結構光の中で上位にランクインされているらしい。
まあ子犬のようになつかれて嫌な気分の人もいないだろう。
ちょっとうっとおしいとか思わないでもないが大輔はバカじゃない。
それなりにきちんとわきまえて行動をするから友達として付き合って行けるのだ。
これでタケル君とくっつけばいい感じにお友達関係が築けるかも・・・。
そんな思惑も実はあったりした。
「ねえ、トコモンの事はちゃんと考えてるの?」
「うん。もうこうなったらなりふり構わず皆を巻き込むよ。太一さんには言ったんだよね?」
「ええ。昨日ばれちゃって。ごめんね。」
「いいよ。やっぱり太一さんはさすがだなぁ。光ちゃんの嘘が見抜けちゃうんだもんね。」
「お兄ちゃんとタケル君だけよね。・・あ・・あと大輔君も・・か。」
「え?」
思ってもみない人物があがりタケルは驚く。
「この間・・ね。ちょっと落ち込んでた時に・・・。」
遊びにさそってくれたらしい。
普通にいつも通り「ひっかりちゃーーんあっそぼーーー」
と。
思いっきりバトミントンやら卓球やらを大輔と京とやったらスッキリして嫌な気分もすっかり吹き飛んでしまった。
もちろん相手が気を許せる京と明るい大輔だからこそなのだろうけど。
その帰り道家の前まで送ってくれた大輔は
「光ちゃんなにかあったら俺に声かけてくれたらいつでも遊ぶよ?気分転換にしかならないだろうけど。」
照れくさそうにそう言い置いて走って帰ってしまった。
意外だった。
あの鈍感な大輔がいくらいつも見つめているとはいえ、光の気持ちに気づいていたと言うことが。
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