始まりの気持ち7


「昨日から・・・俺達と一緒・・だな。」
「別口だといいけど。狙われていたら・・・」
「でも今も悪い予感はしないの。どうしよう私自信満々に言ってたけど私の感がはずれてたら・・・。」

今までこういう予感ははずれたことがなかった。
だからこそ今日もタケルと大輔のやりとりを余裕の顔で見ていられたのだ。
大丈夫悪い事は起きないからあの二匹はすぐに帰ってくるっそう思って。

「いや・・光ちゃんのせいじゃないよ。俺があいつから目を離したから・・」
「それを言ったら僕もだよ。」

三人で責任のかぶりあいをしていても仕方ない・・目で会話すると大輔は即座に行動にうつした。

『伊織っまだ学校にいたら俺達の教室にきてくれ』

D3がピカピカと送信完了をつげる。

やはりこれは一度泉先輩に相談するべきだよな?
大輔は強い決意をした。

「大輔・・・さんっっ。はあ・・はあ・・はあ・・はあ・・」
まだ教室に数人いたため扉を勢いよく開いた上その場で体力限界とばかりに荒い息をはき続ける伊織は注目されていた。
それすらも気にならないのか伊織は息が整うとすぐに大輔達へと直行する。

「おう。伊織。ここだっ。すげーなお前どこらへんいたんだ?」
「えっと昇降口あたりです。」
「ずっと走ってきたのね。」
ここまで歩いて7.8分はかかる距離だ。
さっきメールをしてからまだ2分しかたっていない。きっと階段も二段とばしで必至に走ってきたのだろう。

「ええ・・。ちょっと・・勢いよく走りすぎ・・ました。」
未だ息も切れ切れの伊織。どちらかというと剣道をやっているおかげで体力のある伊織がここまで疲れているというのはめずらしい。
それだけ心配なんだよな。
「あのな。伊織」
最後の一人が出ていったのを確認してから大輔は切り出した。

「実はチビモンとトコモンも昨日から行方不明なんだ。」

「えっ!!!」

予想しないことを告げられ伊織の顔は更に蒼白になった。
ウパモンだけならタダの迷子ですんでいたのに三匹となると・・・・。

「何か・・・起こっているのでしょうか?」
同じように不安げな顔の大輔に伊織は掴みかからんばかりにつめよる。


「解らない。だからこれから泉先輩にでも聞こうかと思ってたんだ。」
「ああ。泉先輩なら何か知ってるかもしれませんよね。」
ほっとした笑みを見せる伊織に大輔は柔らかく笑うとポンポンと頭をなでてやった。
「一人でつらかったろ?」
「え?いえ・・そんな事。」
自分には光や京それに一緒に痛みを分かち合えたタケルがいた。
だからつらくても耐えられた。
だが伊織はたった一人で昨日の夕方からずっとあの不安を抱えていたのだろう。
そう思うとなにか誉めてやりたい気分になったのだ。

「伊織君。僕と大輔君も君と同じ立場なんだ。でも僕には大輔君や昨日一緒に探してくれた京さんと光ちゃんがいる。君はたった一人で今まで頑張ってきたんだよね。」

自分とまったく同じ事を考えていたらしいタケルが優しく微笑むとよく頑張ったねとねぎらう。
そんな顔はきれいだな・・・。
って何考えてんだ。今はそんな時じゃないっ。


二人から頭をなでられ伊織は真っ赤になりながら「いえっそんな大したことではっ。」
と両手をブンブンふって狼狽えていた。

そんな三人を光はクスクス笑いながら見ていた。

なんかかわいい三人とも。



どたどたどたどたどたどたどた


廊下からもんのすごい足音が聞こえた。
これは・・・やっぱりあの人の?

ガラガラガシャン
勢いあまって開けたはずの扉が閉まってしまい、入ろうとしたその人物は頭を盛大に扉にうちつけた。

「いったあああああ。」
くぁぁぁとしゃがみこみ額を押さえるその姿はとてもとてもつらそうだった。
「・・・すっげー音したな。」
「ええ。とても痛そうな音でしたね。」
「えっと・・あの大丈夫?」

暢気に感想を述べる大輔と伊織をよそにおそるおそる近づきながら尋ねるタケル。

「あーー大丈夫平気ー私頭だけは固いからー。」
ゆっくりとても大丈夫には見えない様子で立ち上がったのはもちろんこの人
「京さん。・・・はい」

「え?ありがとーって何に使うの?」
近寄ってきて渡されたのはシンプルな青い無地のハンカチ。
昨日とは違うはんかちの上きちんとアイロンがかかっているのに大輔は目を見張っていた。
俺なんか昨日と同じのそのままポケットにぐちゃぐちゃに丸め込んであるのに・・・。

「ここ。」
「ここ?っってえ?きゃぁぁぁ血ぃ出てるじゃないっやだっ嘘っっ。駄目よこんな綺麗なハンカチ汚したらもったいないもの。大輔っあんたのよこしなさいっっ。」
・・・・・それもどうかと思うのですけど。
自分のすらもったいなくて使えないのだろう京は血を見てちょっぴり動転している。

「京さん。テッシュ持ってないの?」
「持ってないーさっき使い切っちゃったよぉ。大輔っっそれっそのぐっちゃぐちゃの戦隊もののはんかちでいいっこんな時ぐらいしかあんたのハンカチは役立たないでしょっ。」
「・・・しっつれいなやつだな京っっ。ほらっさっさと押さえろよっ。だいたい俺のハンカチだとなんか菌とかむちゃくちゃついてそうでやだーーとかこの間言ってたのはどーこのだれだったかなーー。」

嫌みったらしくいいつつも自分のハンカチを提供してあげる大輔。
確かに汚い。
でも汚いハンカチでもいーから大輔君のもの何か欲しいなー。
あれ京さんの血がついてるから捨てるだろうし後でもらっちゃおっかな?
一人もくろんでいると隣の光が京のほうを向いたまま笑顔でささやいた。

「変態じみた事したらあたしタケル君のこと軽蔑しちゃうわよ?」
「・・・・・やだなぁ変態ってどんなこと?」
「いいの。あなたには解っているだろうから。」
「・・・」
バレバレですね。
はい。

「はーよかった血ぃ止まって。」
「てかお前なんであんなに急いでたんだよ?」

信じられない事をやるほど京は慌ててたのだ。
きっと大事なのだろう。
「そうだったっ。あのね伊織もウパモンがいなくなったってさっきメールが・・・・・・・・・・あれ?」
お前ぇぇぇ。
その猪突猛進は直すべきだろ?人のことをいえない大輔は心の中でそう思った。
まさかここにいるとは思わなかった伊織が目の前にいてさっきまで大慌てで走りまくって、ドアに激突したあげく血ぃだらだら垂れ流した自分は一体なんだったのだろう・・と京は地面にがっくり両手をついた。
なにやら損した気分らしい。


「京さんすみません僕のために。」
「あっやだごめん伊織のせいじゃないのよ私が慌て者なだけ。ごめんねーお騒がせして。」
てへっと悪気無く謝る姿はさすが京。
人のためにここまで必至に走ってきた京はえらいと光はおもう。
額から流れていた血はようやく止まって光が持っていた可愛いウサギのバンドエイドをピタッと貼ってある。
「えらいえらい。」
にっこり笑うと光はさきほど三人がやっていたように京の頭をなでる。
「なっなに?光ちゃん。」
皆が皆の心配をしてこうして慰めたり、誉めたり、しあえるのってなにか嬉しい。
今更だけど仲間っていいな・・・そんな風に感じる。
こんな大変な時のはずなのに皆で集まるとなんとかなるような気がしてくる。
京さんや大輔君の性格がうつったのかな?

照れている京の頭からそっと手を離し、本題にはいろうとした光はそういえばテイルモンは無事なのかしら?と突然に心配になってきた。

「みんなのデジモンが消えたって事はあと私と京さんの二人だけよね?」
「あ・・そう言えば。」
「二匹はどこにいるの?」
「「コンピューター室」」
光と京の声がはもる。まっさきにこの部屋にきた京もまだコンピューター室へ顔をだしていない。

「見に行かなきゃ。それに今日は泉先輩が来る日だから相談も出来るしね。」
光子郎は学校帰り、週1ペースで京達にパソコンを教えに来てくれているのだ。


京の言葉に皆でうなづく。
それから全員で大移動。全速力でコンピューター室へと向かったのに誰一人として文句は言わなかった。


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お久しぶりの更新です。テヘッと可愛く笑っても許してもらえないぐらい
ご無沙汰しておりましたすみません。
2002.1.31