始まりの気持ち9


「ああ。やっぱりそうなんですね。」
「どういうことですか?泉先輩。」

京が愛しのポロモンを窒息死させるほどぎゅうぎゅう抱きしめながら尋ねる。
『それは私が説明しよう』

聞き覚えのある声が聞こえたと思った瞬間突然光子郎の触っていたパソコンが光り、画面に人が映った。
「「「「ゲンナイさんっ」」」」
『久しぶりだな選ばれし子供達よ』
驚きを隠さない素直な子供達にゲンナイは懐かしそうに目を細める。
大輔達はともかく太一達は本当に久しぶりなのだ。
『元気そうでよかった。』
前回の選ばれし子供達を見てゲンナイはニッコリ微笑んだ。
「え・・と。お久しぶりで・・す。あーーその前に説明して欲しいんだけど。」
太一が何を言えばいいのやら・・といった風に代表で答えた。



『ああ、そうだったな。光子郎君はもう気付いているようだが―――――』
「はい。まだ仮定の段階ですが、色の変化から見ておそらく・・・脱皮・・みたいな物ですよね?」
『脱皮か・・・これまた言い得て妙だな。』
くく・・とゲンナイが笑う。だが訳の分からない残りの人たちは脱皮ぃぃぃぃ?と目を丸くしていた。
『そう彼らは一皮むけた状態だよ。彼らはデータであることは最初に説明したな?どこまで君たちが解っているかは私も解らないが、彼らはデータであるためにデジタル世界でのみ生きていける生物だ。』
「のみ?」
んじゃここの世界じゃ生きていけないっつーことか?
大輔がよいしょっと人をかきわけ画面を覗く。

『いや言い方が悪かったな。生き続ける事が出来るのはデジタルワールド世界だけなんだ。』
「どう違うの?」
『君はパソコンを使うから解ると思うがほこり、塵そんなこの世界の物が機械にどれだけ影響を与えるか・・は想像つくな?』
京に問いかける。
「あ・・はい。細かければ細かいほど精密機械に入り込んでいろいろな支障をきたします。それって・・・」
『そう彼らもそうなんだ。ただ彼らの場合は外の皮膚の部分でなんとかガードしているため中にまで浸透しないように出来ている。』
京にうなづくと今度は皆に目をむけ解るかな?とゆっくり話し始めた。
『だが、皮膚にたまったその異物は新たな皮膚になりそれが空気という物を遮ってしまう。いわば窒息状態だな。気付いていないかもしれないが人間の体も空気を取り込んでいる。それと一緒でただ口で空気を吸えばいいと言うものではないのだ。』
「は・・はあ。なんとなくは解りましたけど。」
「だから脱皮・・・ねえ。」
伊織と空が変なの・・といった顔でゲンナイを見る。


『まあそんな簡単に一皮むけるわけではないよ。いろいろな手順があり、それなりに膨大な作業だ。』
「なーんだ。てっきり脱皮とかいうからバナナの皮見たいにペリッと向けるのかと思ったぜ。」
「俺もそう思った。嫌だよなペリペリ向けるの想像するのって」
「こらこらっチビモン達に失礼だろうっ。」
太一とヤマトがカラカラ笑いながら手を振るのを見て丈が困った顔で注意をする。

そして丈の思ったとおり当の本人たちには笑い事ではなかったらしい。
さりげに大輔たちの手からすべり降りると太一とヤマトにかわいいけりをくれる。
「いてっこらトコモンっ噛むなっ。」
「わっちょっ待てチビモンっっ悪かった謝るっっ」
たいちとやまとなんてきらいだぁぁぁ。
チビモンを中心に一斉攻撃をしかけた。
唯一おとなしいのは光の腕の中にいるテイルモンのみ。

「おいっ大輔っこれどうにかしろっ」
「タケルっお兄ちゃんが襲われてるのになに笑ってみてるんだっっ。」
「自業自得じゃないの二人とも」
あっさり空が言い切ると伊織も京も笑い出す。
「ポロモン」
「ウパモン」
おいでと手をひろげ二人が二匹を腕の中に納めると未だ画面の中のゲンナイと話している光子郎が笑いながら手招きをした。

太一はチビモンをヤマトはトコモンを羽交い締めにするように抱え込むと皆で画面をもう一度のぞきこむ。
『一応バラバラに連れていったのは全員脱皮をしているときに何か起こったら困ると思ったからなんだが。だから賢君のミノモンはもう昨日のうちに家に帰してある。』
「だいたいこの作業をするのに昨日今日あたりが一番良い日なんだそうです。デジタルワールドが安定していて、また自然の力が微量に増える日だそうで僕も以前ゲンナイさんから塵等がつもるかもしれない・・という話を聞いていて知っていたんです。」

積もるからそのうちデジタルワールドでそれらを洗い落とし、また綺麗な状態でこちらに戻せばなんの支障もない。
いわばデジモンのクリーニングなのだ。

「風呂だけじゃだめなんだね。」
きちんと石鹸で毎日あらっているのにそれでも沢山の埃が引っ付いているのだ。
それはまるで磁石にひっつく砂鉄のごとく。

「・・・あっはいっっ質問っっ」
「なんですか京さん?」

皆でなるほどねと納得していると思い出したといった風に京が元気よく右手を挙げた。
光子郎が指すと
「それなら一言言ってくれたらよかったと思いますーー。」

・・・・

・・・・

・・・・

一同うなづく。

「そうですっ僕たち昨日からずっと心配していて―――――」
「あれ?いおり、だいしゅけたちに、きいてなかったの?」
チビモンの言葉に一斉に人々の目は大輔に移った。
え?え?ええーーー。なんの話だよっおいっチビモンっっ。

「たけるも?きのうからしんぱいしてた?」
「うん。」
「おかしーねぇちびもん。」
不思議そうなチビモンとトコモンにこっちこそ首を傾げたいわっと大輔はうなる。

『おかしいな。確かに昨日私の所に連れてくる時に君たちには手紙を置いてきたと言っていたのだが・・・』
手紙?
「だってねだいしゅけとたけるが、たいせつなおはなしがあるっていうからね」
「じゃましちゃいけないとおもっててがみをおいておいたんだ。」
チビモンの言葉をトコモンが続ける。
あの時に・・・確かに大切な話があるから外で待ってろ・・とは言った。
だがどこかへ消えるなら一言言っていってもいいだろ?
でも手紙書いていったっていうんならまあそうだよな。
それでいいと思うよな。
うん。
手紙手紙ーーーー。

そこまで考えて大輔は盛大な声をあげた。

「「あああーーーー。」」

その声はなにやら誰かの叫びとハモッた。

声の主をみやるとどうやら向こうも驚いたらしく大輔を見ていた。

「なに?光ちゃんも大輔も突然に叫びだして。」
よほど驚いたのだろう胸に手をあて空は尋ねた。
「大輔君?」
「光ちゃん?」
どうぞお先に・・・と二人で目で争う。

「お前らいいーかげにさっさと言えっっとりあえず光っお前からっ」
「ええーー。お兄ちゃん横暴っっ。」
ひいきとかそう言うのではなく本当に目についた方に順番を回したのだろう太一は紛れもなく公平な人だった。
それが解っているから光も諦めて答える。
「えーっとね。昨日ほらっ大輔君達が話している時に私が乱入したでしょ?」
タケルと大輔に小首を傾げて尋ねると真っ先にタケルが返事をした。
「うん覚えてるよ」
一生忘れないかもしれない。
良いところをジャマされたんだから。
その笑顔に背筋の冷や汗を感じつつ光は続けた。


「その時ちょっと・・・えっと慌てててね。」
なにせ後のドアの小窓から大輔を押し倒すタケルが見えたのだ光が驚いてもむりはない。
だから慌てて乱入したのだから。
「ドアとか全然みないでガッッて開けちゃったの。その時なんか視界に白いものがあったような・・気が・・・。」
テイルモン記憶にない?
あの時足下にいたはずのテイルモンに光が問うと彼女は「記憶にある」と答えた。
いともあっさりと。

「・・・テイルモン・・言って欲しかったなその時に。」
「そうか。タダの紙だと思ったから。すまない光。」
「・・・うん。いいの。」
もう今更だしね。

「え・・・と続きが―――――その後俺がチビモンとトコモン探しに廊下に出たとき隣の教室の前に紙が落ちてたんっすよ。」
「その紙をどうしたんだ?」
予想が付いたのか眉間のしわを押さえながら太一が尋ねた。
「・・・・その・・隣の教室から先生が出てきてその紙ひろって俺が丸めてゴミ箱にポイッと捨てましたっっ。すみませんっっ。」
ああーーーあの時のあの紙がそうだったのかぁぁぁ。
自己嫌悪に陥る大輔は潔く頭を90度さげ謝った。


隣で光も一緒に頭をげる。
「ごめんなさいっっ。」
多分二人とも自分一人じゃなくてよかった・・と思っていることだろう。
なにせ怒りが二分してくれるのだから。

「そーだなー丸めて捨てた罪は大きいよなー。」
「なっヤマト先輩後生ですっっ。許してくださいよぅ。」
「あら後生なんて難しい言葉使ってるじゃなーい。意味解ってるのかしら?」
ヤマトと空に苛められ半泣きの大輔。
対して普段は甘いがいざとなると厳しい太一にまったく・・と言った目をむけられうつむく光。


それを横から丈がポンポンと頭を叩いてやる。
「でもさ・・こうして皆戻ってきたし、それにこんな風に全員が集まれるのなんて滅多にないから良い機会だったんじゃないかな?ミミ君がここにいたら全員集合だったのに残念だね。」
その顔と同じく柔和な物言いで優しく頭を叩かれ光はおそるおそるといったように顔をあげる。
そこには優しい瞳の丈がいた。

「大丈夫だよ。泣きそうな顔しなくったって皆そんなに怒っていないよ?」
「本当?」
「うん。僕が嘘言った事あった?」
「・・・・ない。」
ホッとしたように光が小さく笑うと丈もゆっくりと微笑む。
「そうそう光ちゃんは笑顔じゃないとね。太一っそんな顔してないでヤマトも空君も大輔君泣いてるじゃないかっ。」
年長者らしく先輩を叱る丈に大輔は泣きつく。
「うえぇぇぇ丈先輩ぃぃ。」
「はいはい。まったく困った人たちだよね。」
ポンポンと背中を叩いてやる丈に今まで優しく見守っていたタケルが一瞬冷ややかな空気を醸し出したのに気付いたのはいったいこの場に何人いただろうか。

その中の一人光がタケルの側にいき。
「笑顔が凍ってるわよ。」
とささやいてやる。
「だって大輔君ったら他の人に懐くんだもん。」
むかつく・・。と唇をとがらし子供見たいな事をいうタケル。

「大輔ったらかっわいー。赤ちゃんみたーい。」
「空くんっっ。」
「こいつ苛めがいあるからなぁ」
「ヤマトっっ。」
やれやれと肩をすくめる太一をよそに丈は説教を始めた。
「大輔っこっちこいよ。」
丈に抱きついたままの大輔はその声にピクンと反応するとすぐに太一の側にかけよる。
なにせ尊敬する先輩だ。
「あーあー本当に泣いてやんの。目ぇ真っ赤だぜ?」
苦笑しつつ目尻の涙を親指で拭いてやる太一。
「うわ。。はずっっ。」
真っ赤になりうつむくと腕でごしごしと目元をこする。

「ま、一件落着ってか?」

な?と光子郎に目をやるとまだゲンナイと話している。
なにやら全く別の話題のようだ。
世間話のように小難しい話すっからなこいつら。
あきれかえると太一は側にいた少年に目を戻し今度は痛いほど背中に感じる視線を振り返った。

「丁度いいからこのまま皆で夜飯食いにいくか?」
そこには光とタケル。
視線の主はきっとタケルなのだろう。
太一は気付いていた。
その視線の意味も、そして自分がそれについてどう思っているのかも。

「京と伊織は今から大丈夫か?」
「あ・・はい。でもあの・・お金が・・・。」
「僕もその・・」
「そりゃそうだ。小学校に金持ってきたらいけねーもんな。大丈夫だってヤマトんち行けば。」
いともあっさりと太一は言った。
その言葉に未だ叱られていたヤマトは鬼のような形相で太一に掴みかかった。

「たっいっちぃぃぃぃ。てめー簡単に言ってくれたな。それは何か俺への挑戦か?」
「なんだよたかが夜飯ぐらいで騒ぐなよっ」
「たかが?たかがと言ったかこの口は。お前この人数分の夜飯誰が用意すんのか解ってるのか?」
「お前と俺。」
「じゃあ材料代は?」
「・・・あーーお前か?」
「たいちぃぃぃぃ。」
あははとヤマトを指さす太一をヤマトは襟首をひっつかみぶんぶん振り回した。
「やめろっ酔うっっ。わかった諦めるからっっ手はなせぇぇ。」
ようやく解放され地面に手をつくと肩で息をするヤマトに恨めしげな目をむけた。
「まじ吐きそう・・・。」
「あーそうかい。それこそ自業自得ってんだっっ。」

「いやー実に楽しそうだね。お兄ちゃんと太一さん。」
「そうね。さすが親友。少し妬けちゃうわ。」
「だね。羨ましい・・・な。」
「あら?親友になりたいの?」
「もっと上を目指しているけどね。」
主語を省いた会話。それでも通じるのは相手が光だから。
タケルは大輔と親友以上になりたい。
でも彼らのようにツーカーの仲になるにはまだまだ難しそうなのだ。

「難しいよね。本当に。」
「それが人生ってものじゃないの?」
悟りきったような光の言葉にプッと吹き出す。
「なによっ笑うことないじゃない。」
「ちょっとおばさん臭かったから。」
「やだわタケル君失礼しちゃうっ。私のどこがおばさんよっ。」
「人生悟りきったようなところかな?」
「全然悟ってなんかいないわよっ。」
「そう?」
「そーよっ。」
どんなに怒ってもクスクス笑うタケルに光は眉を寄せる。

「えー・・とあのその太一先輩俺もう帰ってもいいですか?」
なんだかんだやっている間にそろそろ下校時刻だ。
どうせお食事会もお流れになったのだし今がチャンスと思ったのだろう。

だってこれ以上仲のいい光とタケルを見たくなかったから。
二人の間に割り込みそうな自分が嫌だった。
そんなみっともないことしたくない。

「んあ?大輔用事あるのか?」
「・・・はい・・ちょっと。」
歯切れの悪い大輔に首をかしげつつも太一はうなづいた。
「いーんじゃねーの?もう話は終わったしな。」
「はい。それじゃあえっと今日はありがとうございました。お先に失礼しますっ。」

部活の影響で先輩には礼儀正しい大輔。

丈はもちろんいじめっ子の空やヤマトにもきちんとお礼と挨拶をして、
パソコンの前の光子郎とゲンナイ、京、伊織にも声を掛けると

「それじゃあまた明日な。光ちゃん。タケルっ。」
腕の中でうとうとしだしたチビモンを抱えて颯爽と去って行った。


そして我に返ったタケルが叫ぶのはその5分後。
「しまった返事聞きそびれたっっ。」
僕としたことが迂闊なっっ。
光は笑いまあ明日があるじゃないの。
となぐさめる。
今夜この時の事を兄に問いつめられるだろう事を予想しつつ。


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はいー事件は終了。というか事件という事件じゃありませんけどね。
クリーニングの話はでっちあげですよもちろん。
でも本当にそうだったら楽しいなぁ・・・と考え始めたのがこの話のきっかけですけどね。
そして次回で最終話。
大輔が答えを出します。
さてはてどんな答えやら。
2002.4.13